概要
2成分以上の混合溶液において、分圧がその純物質の蒸気圧とその物質の濃度との積に比例する法則のことをRaoult(ラウール)の法則といい、そのような溶液を理想溶液といいます。
文字で理解するよりも数式の方が簡単で理解しやすいと思います。
例えば第1成分、第2成分の分圧p1、p2は
$$p_{1}=P_{1}x_{1}$$
$$p_{2}=P_{2}x_{2}$$
P1:第1成分が単独で存在するときの蒸気圧、P2:第2成分が単独で存在するときの蒸気圧
x1:第1成分のモル分率、x2:第2成分のモル分率
上式で表されます。
P1、P2は純物質の蒸気圧であり、算出方法は下の記事で紹介しています。
【純物質の蒸気圧】推算方法を解説:Antoine式が精度高い
蒸気圧とは気体と液体が平衡関係にある場合の気相の圧力のことで、化学プラントの装置設計においては非常に重要な物性です。特に蒸留塔のような2成分以上の混合物の気液平衡を扱う場合に、まず純物質の蒸気圧を算出する必要があります。
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例として2成分系を挙げましたが、3成分以上の系にも同じように適用できます。
$$p_{i}=P_{i}x_{i}$$
pi:i成分の分圧、Pi:第i成分が単独で存在するときの蒸気圧
xi:第i成分のモル分率
化学プラントでは3成分以上の化合物を扱うことはよくありますから、むしろ多成分系に適用できない式は最近使われなくなってきています。
非理想溶液への拡張
Raoultの法則は各成分の間に相互作用が働かない系でしか成り立たず、低圧条件下の炭化水素化合物のような一部の組み合わせのみが理想溶液に近い挙動を示します。
一方で水やアルコールのような極性分子を持つ化合物は非理想的な挙動を示すので、Raoultの法則自体は成り立ちません。
しかしこのような非理想溶液でもRaoultの法則は非常に重要です。
なぜなら非理想溶液の分圧は一般的にRaoultの法則に補正係数をかけて表すため、ベースとなっている式の形はRaoultの法則と同じだからです。
$$p_{i}=P_{i}x_{i}γ_{i}$$
pi:i成分の分圧、Pi:第i成分が単独で存在するときの蒸気圧
xi:第i成分のモル分率、γi:i成分の活量係数
γiが補正係数で、特別に活量係数と呼ばれています。
この活量係数によって理想溶液から計算される分圧を補正して実際の分圧にしています。
そのため非理想溶液の分圧を計算したければ、活量係数γを別途算出しておく必要があります。
そしてこの活量係数γをいかにして精度良く求めるか、というところがケミカルエンジニアの腕の見せ所でありますし、物性推算という分野全体の中でも難しい課題の一つとなっています。
アカデミックな分野でも未だに研究が進められており、近年においても新たな活量係数の推算モデルが発表されています。
有名な活量係数モデルについては、以下の記事で解説しています。
【Margules式】を解説:2成分系活量係数モデル
Margules(マーギュラス)が提案した活量係数を算出する式のことをMargulesの式といいます。Margulesは活量係数を多項式の形で表せるとしました。
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【van Laar式】を解説:2成分系活量係数モデル
var Laarの式はvan der Waalsの状態方程式をベースに提案されたと言われています。Margules式と同様に3成分以上の系に適用できないのが難点です。
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【Wilson式】を解説:多成分系活量係数モデルの先駆け
Wilsonの式とは活量係数を算出する手法の1つであり、3成分以上の多成分系に適用できる式です。2液相分離する系には適用できないデメリットがあるものの、それ以外の系には良い精度で適用できます。
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【NRTL式】を解説:汎用的で使用頻度の高い活量係数モデル
NRTL式とは活量係数を算出する手法の1つであり、Wilsonの式と同様に3成分以上の多成分系に適用できる式です。Wilsonの式とは違い2液相分離する系にも適用できるため汎用性の高い手法です。
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【UNIQUAC式】を解説:活量係数が1より小さい系に適用可
UNIQUAC(Universal Quasi Chemical)式とは活量係数を算出するモデルの1つです。活量係数モデルの中では比較的新しく、1975年に提案されています。
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【UNIFAC式】を解説:分子構造から活量係数を推算
UNIFAC(Universal Functional Group Activity Coefficient)式とは活量係数を算出するモデルの1つです。UNIFAC式は原子団寄与法と呼ばれており、分子構造の加算性を利用して活量係数を推算する方法です。
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まとめ
Raoultの法則は蒸留などの単位操作を扱う上でベースとなる法則です。
実務でも非常に使用頻度が高いため、よく勉強しておきましょう。