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化学工学 物性

【拡散係数】推算方法を解説:主要物質の実測値も記載

2020年12月2日

概要

Fickの法則に使用されている係数を拡散係数Dといいます。

$$N_{1}=-D_{12}\frac{dc_{1}}{dx}$$

N:単位断面積、単位時間当たりの移動モル量[mol/(m2・s)]
D12:成分2に成分1が拡散する場合の相互拡散係数[m2/s]
dc/dx:濃度勾配[(mol/m3)/m]

D12があればD21もあるわけですが、

$$D_{12}=D_{21}$$

一般に上式が成り立つので、どちらか片方だけを議論すればよいです。

この記事では主要な物質の拡散係数の実測値と、推算方法を紹介します。

実測値

主要な物質の拡散係数の実測値を示します。

1atm下における空気中での各気体の相互拡散係数です。

物質温度[K]拡散係数D[m2/s]物質温度[K]拡散係数D[m2/s]
アルゴン2731.68×10-5o-キシレン2980.727×10-5
アンモニア2980.844×10-5m-キシレン2980.688×10-5
一酸化炭素2731.78×10-5p-キシレン2980.670×10-5
塩素2731.08×10-5エチルベンゼン2980.755×10-5
酸素2731.80×10-5メタノール2981.52×10-5
水素2736.65×10-5エタノール2981.181×10-5
窒素2731.78×10-5プロパノール2980.993×10-5
二酸化硫黄2731.11×10-5イソプロパノール2981.013×10-5
二酸化炭素276.21.42×10-5ブタノール2980.861×10-5
ヘリウム276.25.31×10-5エーテル2980.918×10-5
2982.60×10-5アセトン2981.049×10-5
メタン2731.71×10-5メチルエチルケトン2980.903×10-5
エタン2731.27×10-5ギ酸2981.530×10-5
プロパン2730.987×10-5酢酸2981.235×10-5
ブタン2730.875×10-5酢酸エチル2980.861×10-5
イソブタン2730.851×10-5エチレンジアミン2981.009×10-5
ペンタン2980.842×10-5アクリロニトリル2981.059×10-5
ヘキサン2980.732×10-5クロロホルム2980.888×10-5
オクタン2980.616×10-51,1-ジクロロエタン2980.919×10-5
エチレン2731.38×10-51,2-ジクロロエタン2980.907×10-5
アセチレン2731.43×10-5   
ベンゼン2730.776×10-5   
トルエン2980.849×10-5   

気体の拡散係数はおおよそ10-5 m2/sオーダーです。

続いて、液体の拡散係数の実測値を示します。

溶質溶媒温度[℃]拡散係数D[m2/s]
アセトン201.16×10-9
アニリン200.92×10-9
イソブタノール200.84×10-9
エタノール151.00×10-9
塩化水素202.64×10-9
塩素121.40×10-9
酢酸201.19×10-9
酢酸エチル201.00×10-9
酸素252.60×10-9
水素253.36×10-9
窒素222.02×10-9
フルフラール201.04×10-9
プロパノール150.87×10-9
メタノール151.28×10-9

液体の拡散係数は10-9 m2/sオーダーで、気体より拡散しにくいことを覚えておきましょう。

気体拡散係数の推算法

気体分子運動論をベースとした経験式

Fullerらにより気体分子運動論をベースとした半経験式が提案されました。

$$D_{12}=\frac{10^{-3}T^{1.75}[\frac{1}{M_{1}}+\frac{1}{M_{2}}]^{0.5}}{P[(\sum v)_{1}^{\frac{1}{3}}+(\sum v)_{2}^{\frac{1}{3}}]^{2}}$$

D12:拡散係数[cm2/s]、T:温度[K]、P:圧力[atm]

M:各成分の分子量[g/mol]、Σv:拡散体積

拡散体積は下表の値を足し合わせます。

 拡散体積v 拡散体積v
C16.5Ar16.1
H1.98Kr22.8
O5.48Xe37.9
N5.69CO18.9
Cl19.5CO226.9
S17.0N2O35.9
ベンゼン環-20.2NH314.9
ヘテロシクロ環-20.2H2O12.7
H27.07CCl2F2114.8
He2.88SF669.7
N217.9Cl237.7
O216.6Br267.2
Air20.1SO241.1

ただし、この推算法は極性気体の混合物には適用できません。

例として、エタノールの空気中での拡散係数を求めてみます。
温度は298K、圧力は1atmとします。

エタノールの拡散体積を表から決定します。

$$\sum v=2×C+6×H+O=2×16.5+6×1.98+5.48\\
=50.36$$

空気の拡散体積は

$$\sum v=20.1$$

エタノールの分子量46.1、空気の平均分子量28.8を使用し、

$$\begin{align}D_{12}&=\frac{10^{-3}298^{1.75}[(1/46.1+1/28.8)]^{0.5}}{1×[50.36^{\frac{1}{3}}+20.1^{\frac{1}{3}}]^{2}}\\&≒1.23×10^{-1}cm^{2}/s\\&=1.23×10^{-5}m^{2}/s\end{align}$$

実測値は1.18×10-5m2/sですから、近い値になっていますね。

液体拡散係数の推算法

Wilke-Chang式

Stokes-Einsteinの式をベースにした経験式が提案されています。

$$D_{12}=7.4×10^{-8}\frac{(∮M_{2})^{0.5}T}{η_{2}V_{1}^{0.6}}$$

D12:相互拡散係数[cm2/s]、M2:第2成分の分子量[g/mol]、T:温度[K]
η2:第2成分の粘度[cp]、V1:標準沸点における第1成分の分子体積[cm3/mol]
∮:会合定数

会合定数∮は、第2成分の物質によって下表の値を使い分けます。

第2成分会合定数∮
2.6
メタノール1.9
エタノール1.5
プロパノール1.2
その他の液1.0

例として、37℃における水中へのエタノールの拡散係数を求めてみます。
エタノールが第1成分、水が第2成分なので∮=2.6を使用します。

体積V1=62.8cm3/mol
粘度η2=0.710cp
分子量M2=18.0g/mol
を使用します。

$$D_{12}=7.4×10^{-8}\frac{(2.6×18.0)^{0.5}×(273.15+37)}{0.710×62.8^{0.6}}\\
≒1.84×10^{-9}m^{2}/s$$

実測値は1.77×10-9m2/sですので、近い値になっています。

おわりに

拡散係数の推算方法について解説しました。

物質移動について考慮する際は拡散係数が必要となる場面が多いです。桁を間違えないようにしましょう。