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化学工学 蒸留

【棚段塔】のメリット・デメリットを解説:古くから実績がある蒸留塔

2021年1月19日

概要

塔内にトレイ(棚段)を設置し、トレイ上に保持されている液中にガスを分散させて気液接触させる装置のことを棚段塔といいます。

Koch-Glitsch社
カタログより引用

棚段塔は上図のように液を保持するためのトレイが塔内に何枚も挿入されています。
上図だと計16枚のトレイが挿入されています。

トレイの種類は1つの塔で全て同じ場合もありますが、段によって違う種類のトレイを使用することもあります。

上図の1~4段に入っているトレイはバブルキャップトレイといいます。
トレイのガスが通る穴にキャップをかぶせているのが特徴です。

5~16段に入っているトレイはシーブトレイといいます。
トレイにガスの通り穴だけが空いている最もシンプルなトレイです。

"絵とき 蒸留技術基礎のきそ"より引用

また、上図には気液の流れの模式図を示しています。

液はダウンカマーと呼ばれる液降下部を通って上から下へ流れていきます。

ガスはトレイに多数空いている小さな穴を通して液中に分散し、下から上へと流れていきます。

この過程で、揮発しやすい低沸点成分はガス化して塔頂から多く流れ出ます。
揮発しにくい高沸点成分は塔底から液で流れ出ます。

このように物質の沸点差を利用して分離する方法を蒸留といい、棚段塔は数多くの蒸留に使用されています。

しかし近年では、棚段塔ではなく充填塔で蒸留を行なうケースが増えており、分離したい系に合わせて使い分けています。

棚段塔の特徴

同じ用途で使用される充填塔と比較して、メリット・デメリットを紹介します。
トレイの種類に依存することも多いため、あくまで一般的な話になります。

棚段塔のメリット

・塔径を大きくする場合のスケールアップが容易
 不規則充填物は塔径を大きくすると、偏流が起こりやすく気液接触の効率が落ちます。

 これに対してトレイは塔径を大きくしても液の保持状態は変わらないので、安定して気液接触を行なうことができます。

・汚れに強い
 汚れにくい、という意味ではなく、汚れても洗浄しやすいという意味です。
 汚れが激しい系は洗浄回数も多いので、洗浄のしやすさはコスト的に有利です。

棚段塔のデメリット

・塔内の構造が複雑で、圧力損失が大きい
 棚段塔のこのデメリットを改善するために規則充填物が生まれたといっても過言ではないです。

 蒸留では、減圧するほど比揮発度が増加して分離しやすくなる傾向があります。
 また、減圧すると低い温度で沸騰するようになるため、熱分解性の高い物質の蒸留もできるようになります。

 これらのメリットがあるため、減圧蒸留は有効な手法です。

 しかし、圧力損失が高いと真空ポンプの要求能力が高くなり、装置コストが高くなってしまいます。
 そのため、低圧損タイプの蒸留塔として規則充填物の充填塔が開発されたわけです。

・発泡に弱い
 液のホールドアップ量が多いので、充填塔と比べると泡が成長しやすい環境です。
 例えば界面活性剤を含む系を分離する場合は、充填塔の方が望ましいでしょう。