物性 技術記事

【比熱】推算方法を解説:分子構造や対応状態原理から推算

2020年11月26日

概要

熱収支を計算するうえで最も重要な物性は比熱です。

蒸気圧や蒸発潜熱はわからなくても場合によっては計算できますが、比熱がわからないと熱収支は計算できません。

本記事では比熱の推算方法について紹介します。

気体比熱の推算式

分子構造による加算法(Benson法)

比熱はもともと気体分子運動論と深い関わりがありますから、分子構造に依存するパラメータです。

その特徴を生かし、分子構造による加算法で比熱を求める手法が提案されました。

化学結合Cp
[cal/(mol・K)]
化学結合Cp
[cal/(mol・K)]
化学結合Cp
[cal/(mol・K)]
C-H1.74C-Br5.14O-CO2.2
C-C1.98C=C-Br6.3F-CO5.7
C=C-H2.6C-I5.54Cl-CO7.2
C=C-C2.6C=C-I6.7C-N2.1
C6H6-H3.0C-O2.7N-H2.3
C6H6-C4.5O-H2.7C-S3.4
C-F3.34O-Cl5.5S-H3.2
C=C-F4.6O-O4.9S-S5.4
C-Cl4.64H-CO4.2  
C=C-Cl5.7C-CO3.7  
"設計者のための物性定数推算法"より引用

上表の数値を分子構造に沿って足していけば、298K(25℃)における理想気体の比熱を算出できます。

例としてエタン(C2H6)の比熱を求めると、

$$(C-H)×6+(C-C)=1.74×6+1.98=12.42cal/(mol・K)$$

となります。
実測値が12.648 cal/(mol・K)ですから、それなりの精度ですね。

Aspen Plusでの推算(DIPPR式)

比熱は温度の関数であることが一般的に知られています。
単純ではありますが、温度に依存する多項式の形で推算できます。

商用シミュレーターであるAspen Plusには、様々な比熱推算の多項式が内蔵されており、条件によって使い分けられています。
そのうち、理想気体の比熱を推算する式の1つは、

$$C_{p}^{IG}=C_{1}+C_{2}(\frac{C_{3}/T}{sinh(C_{3}/T)})^{2}+C_{4}(\frac{C_{5}/T}{cosh(C_{5}/T)})^{2}$$

C1~5:物質固有の定数

上式で表されます。
定数C1~5は物質固有の定数であり、値はシミュレータ内に内蔵されているので、ユーザーがわざわざ調べる必要がなく便利です。

同様に298Kにおけるエタン(C2H6)の比熱をAspen Plusを使用して求めると、
12.57 cal/(mol・K)となりました。

実測値が12.648 cal/(mol・K)ですから、Benson法より精度が上がっていますね。

液体比熱の推算式

分子構造による加算法(Missenard法)

気体比熱と同様に分子構造の加算法で液体比熱を算出することができます。

 -25℃0℃25℃50℃75℃100℃
-H3.03.23.53.74.04.5
-CH39.29.559.9510.410.9511.55
-CH2-6.56.66.756.957.157.4
-CH-5.05.75.956.156.356.7
-C-2.02.02.02.02.0-
-C≡C-11.011.011.011.0--
-O-6.97.07.17.27.37.4
-CO-10.010.210.410.610.811.0
-OH6.58.010.512.514.7517.0
-COO-13.513.814.114.615.115.5
-COOH17.017.718.820.021.522.5
-NH214.014.015.016.0--
-NH-12.212.212.2---
-N-2.02.02.0---
-CN13.413.513.6---
-NO215.415.515.716.016.3-
-NH-NH-19.019.019.0---
C6H5-26.027.028.029.531.032.5
C10-H7-43.044.045.047.049.051.0
-F5.85.86.06.26.456.75
-Cl6.97.07.17.27.357.5
-Br8.48.58.68.78.99.1
-I9.49.59.659.8--
-S-8.99.09.29.4--
"設計者のための物性定数推算法"より引用

Benson法とは違い、温度が-25℃、0℃、25℃、50℃、75℃、100℃の6点データがあり、適用範囲が広いです。
ただし、炭素二重結合のデータがなく、C=Cを含む化合物には適用できません。

試しにエタノールの25℃における比熱を求めると、

$$(CH_{3}-)+(-CH_{2}-)+(-OH)=9.95+6.75+10.5=27.2cal/(mol・K)$$

となりました。
実測値が26.63 cal/(mol・K)なので、なかなか精度が良いですね。

対応状態原理による方法(Rowlinson-Bondi式)

対臨界温度Tr、偏心因子ωを利用して液体の比熱を算出することができます。

ただし、同温度におけるその物質の理想気体の比熱Cpoが必要です。

$$\frac{C_{p}-C_{p}^{o}}{R}=2.56+\frac{0.436}{1-T_{r}}+ω[2.91+4.28\frac{(1-T_{r})^{\frac{1}{3}}}{T_{r}}+\frac{0.296}{1-T_{r}}]$$

R:気体定数[cal/(mol・K)]

同様に、エタノールの25℃における比熱を求めてみます。

プロパンの臨界温度Tcは516.2℃ですから、

$$T_{r}=\frac{273.15+25}{516.2}≒0.5679$$

エタノールの偏心因子ω=0.662、エタノールのCpo=15.68を使用し、

$$\begin{align}\frac{C_{p}-C_{p}^{o}}{R}&=2.56+\frac{0.436}{1-0.5679}+0.662×[2.91\\&
+4.28\frac{(1-0.5679)^{\frac{1}{3}}}{0.5679}+\frac{0.296}{1-0.5679}]\\&
≒9.721\end{align}$$

$$C_{p}=9.721×1.98+15.68=34.81cal/(mol・K)$$

となりました。
実測値が26.63 cal/(mol・K)なので、少しズレが大きいですね。
化合物によって精度の良し悪しがありそうです。

Aspen Plusでの推算(DIPPR式)

気体と同様にAspen Plusでは、温度の多項式で比熱を計算しています。
条件によって比熱の計算式が使い分けられていますが、そのうちの1つは、

$$C_{p}^{l}=C_{1}+C_{2}T+C_{3}T^{2}+C_{4}T^{3}+C_{5}T^{4}$$

C1~5:物質固有の定数

上式で表されます。
定数C1~5は物質固有の定数であり、値はシミュレータ内に内蔵されています。

同様に25℃におけるエタノールの比熱をAspen Plusを使用して求めると、
26.83 cal/(mol・K)となりました。

実測値が26.63 cal/(mol・K)ですから、かなり実測値に近いですね。

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