概要
純物質の完全結晶のエントロピーが0K(絶対零度)でゼロとなる法則を熱力学第三法則といいます。
$$\lim_{T → 0}S(T)=0・・・(1)$$
式で表すと、(1)式のようになり、温度を0Kまで近づけるとエントロピーはゼロに近づくと言い換えることもできます。
エントロピーがゼロとなる物質を純物質の完全結晶と限定しているのは、
- 純物質:混合物だと混合エントロピーが発生するため
- 完全結晶:不完全な結晶だと分子の配列の乱れに伴うエントロピーが発生するため
以上の理由からです。
この法則は物質の種類によらず成り立つため、化学反応のように物質の種類が変化するような状態でもエントロピーの大小が比較でき、自発変化の方向がわかります。
完全結晶のエントロピー
当ブログではエントロピーを主に熱力学的な観点から扱っています。
一方で、エントロピーには統計力学的な定義も存在し、(2)式で表されます。
$$S=k・{\rm{ln}}W・・・(2)$$
k:ボルツマン定数
W:個々の原子・分子の位置やエネルギーを配置する仕方の数(場合の数)
ここで、0Kにおける純物質の完全結晶の配置の仕方の数Wについて考えてみます。
運動エネルギーは1自由度あたりkT/2で表されますから、0Kにおける運動エネルギーはゼロとなります。
よって、物質の構成原子は振動もせず格子点にとどまった状態になります。
また、純物質の完全結晶ですから、格子欠陥がなく全ての格子点を同じ原子が埋める状態となります。
この場合の原子の配置の仕方は一通りしかないので、W=1となり、(2)式からエントロピーS=0となることがわかります。
このように熱力学第三法則は統計力学的な定義から導くことができます。
エントロピーの絶対値
エンタルピーHやギブス自由エネルギーGは絶対値についてはあまり意味を持たず、議論する際は必ず変化量ΔH、ΔGを使用します。
一方で、エントロピーは絶対値で議論することができます。
これは、エンタルピーやギブス自由エネルギーが共通の基準を持たないのに対して、エントロピーは熱力学第三法則より0Kがエントロピーゼロという絶対基準を持っているからです。
ある気体の任意の温度TにおけるエントロピーS(T)は、融解熱ΔHfus、蒸発熱ΔHvap、定圧比熱Cpを利用して、
$$\begin{align}S(T)&=\int_{0}^{T}\frac{Q}{T}dT\\&=\int_{0}^{T_{f}}\frac{C_{\rm{p,solid}}(T)}{T}dT+\frac{ΔH_{fus}}{T}+\int_{T_{f}}^{T_{b}}\frac{C_{\rm{p,liquid}}}{T}dT\\&+\frac{ΔH_{vap}}{T}+\int_{T_{b}}^{T}\frac{C_{\rm{p,gas}}}{T}dT・・・(3)\end{align}$$
Q:温度0K~TKまで加熱するのに必要な熱量
Cp,solid:固体の定圧比熱、Cp,liquid:液体の定圧比熱、Cp,gas:気体の定圧比熱
(3)式のように表すことができます。
おわりに
熱力学第三法則について解説しました。
熱力学の基礎的な法則の1つですので、覚えておきましょう。