化学工学用語集 物性

【エンタルピー】を解説:物質の内部エネルギーを含めた熱量

2020年11月10日

概要

内部エネルギーU、圧力P、体積Vを使用して

$$H=U+PV・・・(1)$$

(1)式で定義される状態量Hのことをエンタルピーといいます。

エンタルピーという概念は応用性の高さから文献によって様々な解釈がなされていて、なんだかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

プラントの装置設計という目的からエンタルピーをみると、熱収支を取るうえで不可欠な概念だと私は考えています。

例えば最も単純な熱収支は、加えた熱量Q[J]に応じて物質の温度が変化する場合です。

$$Q=mc_{p}ΔT$$

m:質量[kg]、cp:比熱[J/(kg・K)]、ΔT:加熱前、加熱後の温度差[K]

しかし世の中には加熱しているにもかかわらず温度が変化せず一定値を示す現象が起こります。

この現象は"状態変化"として知られています。
こんな場合には上の式ではΔT=0となってしまい熱収支がうまく取れませんね。

また、化学反応により物質そのものが持っているエネルギー(内部エネルギー)を系外へ放出したり吸収したりします。

これはいわゆる"反応熱"として知られています。
この場合も温度変化だけではうまく熱収支が取れません。

このような状態変化や化学変化を含む熱収支を取るのにエンタルピーを使用すれば簡単に式を立てることができます。

エンタルピーを使用して熱収支を立てる際は、基本的にエンタルピー変化ΔHについて考えます。
なぜなら熱収支にはエンタルピーの絶対値そのものは必要なく、変化前・変化後の差がわかれば解けるからです。

(1)式はエンタルピーの絶対値を求めるための式ですが、化学工学においてはエンタルピーの絶対値はどうでもよいことが多いです。

例外は化学反応が起こる系で反応熱がわかっていないような場合です。この場合にはちゃんとエンタルピーの絶対値を計算しないと熱収支が合わないです。

状態変化におけるエンタルピー

例えば熱量Q[J]を加えて液体が蒸発する系について熱収支を取ると、

$$Q=mc_{p}ΔT+mΔH_{v}$$

m:質量[kg]、cp:比熱[J/(kg・K)]
ΔT:加熱前、加熱後の温度差[K]、ΔHv:蒸発潜熱[J/kg]

となります。
液体が気体へ相変化するときのエンタルピー変化ΔHvを特に蒸発潜熱といいます。
温度が変化しない場合にはQ=mΔHvとなり、加えた熱量は液体の蒸発に使用されたことがわかります。

蒸発潜熱は物質固有の値であり、圧力によっても値が変化するので計算する場合はデータベース等を参照しましょう。

ちなみに蒸発潜熱ΔHvは気体のエンタルピーHVと液体のエンタルピーHLの差を意味します。

$$ΔH_{v}=H^{V}-H^{L}$$

言い換えれば液体に蒸発潜熱分のエンタルピーΔHvを加えれば蒸発して気体となります。

化学反応におけるエンタルピー

化学反応におけるエンタルピーも同様にエンタルピー変化ΔHを考えます。
反応の場合は反応エンタルピーΔrHとなります。

例えば連続型反応槽で発熱反応を熱量Qj[J/h]で除熱する場合の系の温度変化は

$$ρc_{p}V\frac{dT}{dt}=Fc_{p}(T_{in}-T_{out})+Q_{R}ーQ_{j}$$

$$Q_{R}=-Δ_{r}H・(-r)・V$$

ρ:流体密度[kg/m3]、F:質量流量[kg/h]、cp:比熱[J/(kg・K)]、V:反応槽体積[m3]
T:温度[K]、t:時間[h]、Tin、Tout:流入、流出流体の温度[K]
QR:反応による発熱量[J/h]、Qj:除熱量[J/h]
ΔrH:反応熱[J/mol]、(-r):反応速度[mol/(m3h)]

となります。
このときの反応エンタルピーΔrHは一般的に反応熱と呼ばれます。発熱反応の場合は熱収支式上でプラスの値となるようにマイナスを付けて符号を調整します。

上の式では流体の流入・流出、反応による発熱、冷媒による除熱量によって系全体の温度が上がるか下がるかが決定されます。

もし除熱量Qjが発熱量QRに比べて少なければ系の温度は上がります。
系の温度が上がると反応速度(-r)も増加するため、発熱量QRはどんどん大きい値となってしまいます。

こんな状態になると非常に危険なため、除熱量Qjが十分に余裕のある設計にするのが普通です。

混合におけるエンタルピー

2物質が混合する場合にも熱が発生することがあり、これは混合熱と呼ばれます。

しかし多くの混合熱は反応熱と比べれば大きくないため、熱収支式に含める必要があるかどうかはその系によります。

例えば水と硫酸のような強酸の混合は発熱量が大きいです。
このような場合はメインの反応槽とは別に混合溶解槽を設置する方が扱いやすいと思います。

ちなみに混合しても混合熱がまったく発生しない(ΔHmix=0)溶液として無熱溶液が挙げられます。
無熱溶液はWilson式の導出のベースになっており、物性推算でたまに登場します。

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