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化学工学 熱力学

【偏倚関数】を解説:実在気体と理想気体の状態量の差

2023年1月9日

概要

ある状態量における、実在気体と理想気体の差を熱力学的な関数で表したものを偏倚関数といいます。

私たちの世界で起こる挙動は、当たり前ですが実在気体により発生しています。

一方で、理論上は理想気体で取り扱った方が計算しやすいことが多いです。

したがって、理想気体をベースとし、実在気体と理想気体の差(偏倚)を計算することで実在気体の状態量を表わす手法がシミュレータ等ではよく使用されています。

偏倚関数の定義

定義

圧力P、温度Tにおけるある状態量をm(T,P)とします。

このとき、参照圧力P0、温度Tにおける理想気体の状態量をm0(T)と定義し、この状態を基準状態とします。

この場合の偏倚関数Δm'は、

$$Δm'=m(T,P)-m^{0}(T)・・・(1)$$

(1)式で表されます。

このように偏倚関数はある圧力P、温度Tの状態量と基準状態の状態量の差で表されます。

基準状態

基準状態をどのように取るかは自由ではありますが、理想気体の状態方程式が十分に成り立ち、かつわかりやすい値の方が望ましいでしょう。

例えば、商用のシミュレータであるAspen Plusでは、エンタルピーのゼロ基準を1atm、25℃(298.15K)としています。

成分iのある温度Tにおける基準状態のエンタルピーHi0は、標準生成エンタルピーと25℃からT℃までの温度変化から、

$$H_{i}^{0}=H_{i}^{ig}+\int_{298.15}^{T}C_{p,i}(T)dT・・・(2)$$

Hiig:成分iの標準生成エンタルピー、Cp,i:成分iの理想気体の定圧比熱

(2)式で表されます。

比熱は通常、温度のみの関数として表されるため、(2)式を積分することでHi0を求めることができます。

各状態量の偏倚関数

主要な状態量の偏倚関数は、体積Vとヘルムホルツ自由エネルギーAの偏倚関数を最初に求めると、他の偏倚関数も芋づる式に求めることができます。

体積V

基準状態におけるP-V-T特性は、理想気体の状態方程式が成り立つことから、

$$V^{0}=\frac{RT}{P}・・・(3)$$

V0:基準状態の体積

(3)式で表されます。

一方で実在気体のP-V-T特性は、圧縮係数zを使用して、

$$V=\frac{zRT}{P}・・・(4)$$

(4)式で表されます。

したがって、体積Vの偏倚関数は、

$$V-V^0=\frac{RT}{P}(z-1)・・・(5)$$

(5)式で表されます。

ヘルムホルツ自由エネルギーA

ヘルムホルツ自由エネルギーの定義から、

$$A=U-TS・・・(6)$$

(6)式が成り立ちます。両辺微分すると、

$$\begin{align}dA&=dU-(TdS+SdT)\\&=TdS-PdV-(TdS+SdT)=-PdV-SdT・・・(7)\end{align}$$

(7)式となります。

ここで、一定温度におけるヘルムホルツ自由エネルギー変化は、

$$dA=-PdV・・・(8)$$

(8)式となります。

(8)式を基準体積V0からVまで積分すると、

$$\begin{align}A-A^0&=-\int_{V^0}^{V}PdV=-\int_{∞}^{V}PdV-\int_{V^0}^{∞}PdV\\&=-\int_{∞}^{V}(P-\frac{RT}{V})dV-\int_{V^0}^{V}\frac{RT}{V}dV\\&=-\int_{∞}^{V}(P-\frac{RT}{V})dV-RT{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}・・・(9)\end{align}$$

(9)式のような偏倚関数が得られます。(9)式では第一項が実在気体の積分、第二項が理想気体の積分と分ける式変形を行なっています。

 

実際に偏倚関数を計算するにあたっては、(9)式の第一項の圧力Pに実在気体の状態方程式を代入して積分します。

状態方程式の種類によってはかなり煩雑な計算となり、手計算ではかなり難しいこともあります。

シミュレータで計算すると、このあたりの計算は全て自動で行なってくれるので便利ですね。

エントロピーS

(7)式を体積V一定として偏微分の形に変形すると、

$$S=-\Bigl(\frac{∂A}{∂T}\Bigr)_{V}・・・(10)$$

(10)式となります。

したがって、エントロピーの偏倚関数は、

$$\begin{align}S-S^0&=-\Bigl(\frac{∂(A-A^0)}{∂T}\Bigr)_{V}\\&=\int_{∞}^{V}[\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}-\frac{R}{V}]dV+R{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}・・・(11)\end{align}$$

(11)式で表されます。

エンタルピーH

エンタルピーの定義から、

$$H=U+PV・・・(12)$$

(12)式が成り立ちます。

(12)式に(6)式を代入して内部エネルギーUを消去すると、

$$H=A+TS+PV・・・(13)$$

(13)式となります。

したがって、エンタルピーHの偏倚関数は、

$$\begin{align}H-H^0&=(A-A^0)+T(S-S^0)+PV-P^{0}V^{0}\\&=-\int_{∞}^{V}(P-\frac{RT}{V})dV-RT{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}\\&+T\Bigl(\int_{∞}^{V}[\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}-\frac{R}{V}]dV+R{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}\Bigr)+RT(z-1)\\&=\int_{∞}^{V}[T\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}-P]dV+RT(z-1)・・・(14)\end{align}$$

(14)式となります。

内部エネルギーU

内部エネルギーUは、(6)式から、

$$U=A+TS・・・(15)$$

(15)式で表されます。

したがって、内部エネルギーUの偏倚関数は、

$$\begin{align}U-U^0&=(A-A^0)+T(S-S^0)\\&=-\int_{∞}^{V}(P-\frac{RT}{V})dV-RT{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}\\&+T\Bigl(\int_{∞}^{V}[\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}-\frac{R}{V}]dV+R{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}\Bigr)\\&=\int_{∞}^{V}[T\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}-P]dV・・・(16)\end{align}$$

(16)式となります。

ギブス自由エネルギーG

ギブス自由エネルギーの定義から、

$$G=H-TS・・・(16)$$

(16)式が成り立ちます。

(12)式と(15)式を使用すると、

$$G=U+PV-TS=A+PV・・・(17)$$

(17)式となります。

したがって、ギブス自由エネルギーGの偏倚関数は、

$$\begin{align}G-G^0&=(A-A^0)+PV-P^{0}V^{0}\\&=-\int_{∞}^{V}(P-\frac{RT}{V})dV-RT{\rm{ln}}\frac{V}{V^0}+RT(z-1)・・・(18)\end{align}$$

(18)式となります。

おわりに

偏倚関数について解説しました。

実在気体と理想気体の状態量の差を表わすもので、実在気体の特性を表わすのに便利です。