本記事では、生産技術職の実務担当者の仕事内容について紹介します。
雑談
化学工学出身の人でも、会社の仕事に直結するような研究を大学でやってた人はあまりいません。
論文の調べ方とか発表資料の作り方とかは今でも仕事に役立っています。
それくらいちゃんと大学で研究に打ち込んだ人は、たとえ研究と関係ない分野の仕事についてもすぐに活躍できると思います。
この記事では、生産技術職の仕事内容について述べていきます。
仕事内容について
生産技術の大まかな業務の流れとやることを書いていきます。
仕事の受注
仕事の受注と言っても、客先から仕事をもらうわけではないので、そこまで大げさではありません。
仕事は、主に他の部署から依頼されます。
依頼主は、製造部、研究所、営業部と様々です。
仕事内容は、
・老朽化による設備更新仕様決定
・生産量増強のための設備仕様決定
・新設プラントの基本仕様検討
・設備トラブルの原因究明検討
主には上の4つが多いでしょうか。
それぞれの案件に対して、概要、重要度、緊急度が記入してある依頼書がうちの部署へ提出されます。
この依頼書を見て、課長を中心とした管理職がその案件を受注するか決めます。
仕事の割り振り
受注した仕事は、課長やグループリーダー(以下GL)が話し合った結果、誰に割り振られるか決まります。
実務担当者個人の能力と、現在持っている仕事量と、個々人に積ませたい経験を加味して決められるようです。
現在の弊社の生産技術部は、ものすごく優秀でまともな管理職によって運営されていると思います。
私は転職経験があるので他社の状況もわかるのですが、基本的に実務担当者が少ないほど組織運営は悲惨なものとなります。
仕事を割り振ろうにも、選択肢が少ないので同じ人に集中するわけですね。
人がよく真面目な人ほど仕事を引き受けがちなので、明らかに納期に間に合わないと判断できる場合は正直に上司に相談すべきです。
相談してみると、意外と上司がなんとかしてくれるケースもあります。
上司なら部下が何も言わずとも仕事量をきちんと把握していると思うのは幻想です。
好き好んで部下をいじめたい上司は稀で、無能なので部下の状態を把握できていないことがほとんどだと思います。
そういう場合に、上司に気づかせる意味で相談するというのは有効です。
誰にも相談できずに1人で抱えてしまうと鬱になりやすいので要注意です。
納期・スケジュールの確認
いつまでに何をするかを直属のGLと確認します。
この作業が実務担当者にとって最も重要であり難しくもあります。
なぜなら経験が浅いうちは、その仕事にどのくらい時間がかかるのかわからないからです。
職場では中堅の担当者である私でも、未だにやったことがない業務がどんどん出てくるので、新人はなおのこときついと思います。
新人のうちは、GLや先輩にその業務がどのくらい時間がかかりそうか聞きながらスケジュールを決めましょう。
このように、生産技術職は自分がやったことない仕事をやることが多いので、新しいことをどんどん学んでいく意欲がないと、辛いかもしれません。
少なくとも、ルーティンワークにこだわる人には向いていません。
計算に必要な条件の確認
テストだと計算に必要な条件は問題文に全て書いてあります。
しかし、仕事では計算に必要な条件を自分で集める必要があります。
もっと言うなら、どんな条件が計算に必要かわかっていなければ仕事ができません。
例えば、プラントに設置してある熱交換器の交換熱量Qを計算すると考えます。
$$Q=UAΔT$$
交換熱量Qは、上式のように総括伝熱係数U、伝熱面積A、温度差ΔTから求められます。
総括伝熱係数Uは、境膜伝熱係数や材質の厚み・熱伝導度、汚れ係数等から求められます。
伝熱面積Aは、図面等から情報を拾ってきます。
温度差ΔTは、プラントに温度計がある場合は、そのデータが使えます。
ない場合は製造部に温度測定を頼むような対応をすることもあります。
このように、自分で考えられる手段を全て使って計算に必要な情報を収集します。
自分で思いつかない場合は、もちろん他の人に相談してかまいません。
優秀な実務担当者ほど、より正確で計算したい系に合ったデータを集めることができます。
計算モデルの構築
計算に必要な情報が集まれば、計算式・計算モデルを作成していきます。
計算モデルは、
・エクセル
・方程式解法ソフト
・化工計算シミュレータ
・熱流体解析ソフト(CFD)
主に上の4つのどれかを使用して作成します。
エクセルや方程式解法ソフトは自分で計算式を入力する必要があるので、少し手間がかかります。
それほど複雑な計算でない場合は、手軽なのでよく使用します。
いくつもの連立方程式を解く必要がある場合は、化工計算シミュレータを使用した方が楽です。
弊社では化工計算シミュレータにAspen Tech社のソフトを使用しています。
また、流体の動きを計算したい場合は熱流体解析ソフトを使用します。
弊社ではANSYS社のFluentを使用しています。
ただ注意点として、シミュレータは楽で仕事の時間短縮になる反面、内部でどのような計算をしているか把握していないと、間違った結果が出ても気づけない可能性があります。
上司も細かい計算内容まで逐一確認できるわけではありませんから、自分の計算結果には自分で責任を持つ気持ちが必要です。
計算
計算モデルを作成し、計算条件を入力すれば計算できます。
計算時間は解く方程式の数によります。
Aspenで連続フローの計算であれば、数秒~1分程度で答えが出ます。
バッチ計算になると複雑なものでは30分~1時間かかるものもあります。
特殊なのはCFD(流動解析)で、複雑な偏微分方程式を解くため、数時間~数日、長いものだと1ヵ月近くかかる場合もあります。
結果の確認・修正
計算結果が出れば確認し、間違っていれば入力条件や計算式を見直します。
言うのは簡単ですが、やるのは難しいです。
計算結果が正しい、もしくは間違っているかを判断する基準を自分で考えなければならないからです。
テストで例えるなら、自分で問題を作って自分で解いて、答え合わせも自分でやるようなものです。
というより、そもそも正しい答えが1つとは限らず、複数ある場合がほとんどです。
複数ある答えの中からどれを選ぶかというところが個人差が出るところで、いわゆる"設計思想"と呼ばれるものです。
設計思想とは、"私はこのような狙いで計算して、こういう機器の仕様にしました"という考えのことです。
例えば、熱交換器の設計にあたっては、
・伝熱能力
・コスト
・サイズ
・メンテナンス性
大雑把に上のような項目を考える必要があります。
しかし、全ての項目を優先させる設計をすることは不可能です。
伝熱能力が大きい熱交換器になるほど、コストが高くなってしまいますから。
そのため、優先させる項目を決めて計算し設計する必要があるわけです。
結果のまとめ(仮報告書の作成)
全ての計算を終え、設計仕様等を決定したら、上司や依頼者へ報告するための資料を作成します。
仮の報告書なのは、とりあえず速報ベースで結果を依頼者へ伝えるためです。
我々の報告結果をもとに依頼者が次の作業に移るわけなので、報告書の体裁は置いといてとりあえず結果だけでも先に報告する必要があります。
資料はフォーマットがきっちりと決まっていれば、それに従って書けばいいので楽です。
しかし弊社では、案件によって計算する内容や結果もバラバラなので、きっちりと決まったフォーマットはないです。
後の本報告書でまとめやすい形にしておくのが、二度手間にならないのでよいでしょう。
上司・依頼者への報告
GLとは計算している段階から適宜打合せをしているので改めて報告する必要はないです。
この場合の上司とはGLの上の役職である課長のことを指します。
課長に検討内容の承認を得て、初めて依頼者へ報告することができます。
依頼者に関して、例えば製造部の場合は、
・製造課長
・製造課のGL、主任
・製造課の実務担当者
以上のような人達に報告します。
報告内容に関して問題なければ、検討終了です。
問題がある場合、あるいは追加で検討してほしい事項がある場合は、引き続き検討作業に戻ります。
本報告書の作成
検討終了すると、最後に部内に残す正式な報告書を作成して案件の終了となります。
この本報告書は生産技術部の部長も確認するものなので、内容・フォーマット含めてしっかりと作成する必要があります。
GL⇒課長補佐⇒課長⇒部長の流れで確認されますが、課長と部長は細かい検討内容まで把握しきれません。
そのため実質はGLと課長補佐のチェックをクリアすれば報告書作成はほぼ完了です。
GL、課長補佐が厳しい人だと真っ赤に添削されて報告書が返ってきます。
人によって報告書作成の好みがあるので、自分の上司の好みをいち早く覚えることが大事です。
添削内容に関して、報告書作成はこうあるべきだ、という自分の意見を述べて反論するのは時間の無駄なのでオススメしません。
サラリーマンなので、上司がOKと言えばOK、NGと言えばNGなのです。
それを受け入れましょう。