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化学工学 熱力学

【高圧気液平衡】推算方法を解説:各状態方程式モデルの計算結果を比較

2020年11月23日

概要

高圧気液平衡は非理想性が高まり推算精度が落ちるので、物性面では好ましくないです。

ただ、高圧の方が有利な反応が存在するため、自ずと高圧気液平衡を扱わざるを得ない場合があります。
化学プラントの花形はやはり反応器であり、後工程である分離工程は反応条件に左右されます。

この記事では高圧気液平衡の推算モデルをいくつか紹介します。
なおかつ例として高圧条件の2成分気液平衡を各モデルで計算し、推算精度を比較してみました。

推算モデルの紹介

主に10atm以上の高圧系で使用される気液平衡モデルを紹介します。
基本的に全て状態方程式モデルとなります。

Redlich Kwong式(RK)

高圧気液平衡で実用できる式の中では最も簡単な部類に入ります。

臨界温度Tc、臨界圧力Pcがわかれば計算でき、必要なパラメータが少ない点は良いですね。

Redlich Kwong Soave式(RK-Soave式)

RK式を修正した式です。
若干精度が良くなったかな、という程度です。

Peng Robinson式(PR式)

同様にRK式を修正した式です。
正直、RK-Soave式と精度はあまり変わりません。どっちを使うかは好みのレベルです。

Predictive Soave Redlich Kwong式(PSRK式)

語順が少し違いますが、RK-Soave式を高圧下の極性物質に適用させようとして提案された式です。

状態方程式のパラメータa、bを過剰ギブス自由エネルギー及び活量係数に関連付けて立式されています。
ただし活量係数の推算はUNIFAC式が適用されており、推算精度はUNIFACに依存します。

各モデルの比較

高圧気液平衡に関しては、非極性物質の組み合わせ、極性物質の組み合わせの2種類を計算しました。

計算したモデルは
・IDEAL
・NRTL
・RK
・RK-SOAVE
・PR
・PSRK
上の6種類です。

本来、高圧気液平衡に適用できないIDEALとNRTLも比較の為に計算してみました。

非極性物質の組み合わせ(ベンゼン-トルエン)

低圧気液平衡の記事でも計算した、ベンゼン-トルエンの2成分系です。
低圧では理想系に近いですが、高圧になると分子間引力の影響で非理想性が高まります。

513.2K、14~26atmにおける気液平衡を計算しました。

上のグラフは縦軸にベンゼンの気相組成y、横軸にベンゼンの液相組成xをとったxy線図です。

IDEALとNRTLは少しずれていますね。
RK、RK-SOAVE、PR、PSRKはどれも実測値と良好に一致しています。

続いてPxy線図を示します。

NRTLが最もずれていますね。
IDEALは意外と実測値に近い値となっていますが、たまたまでしょう。理論的にIDEALが高圧気液平衡を表わすことはできませんので。

RK、RK-SOAVE、PR、PSRKはどれも近い値となっています。
わずかにPSRKが実測値に近いでしょうか。

極性物質の組み合わせ(水-酢酸)

次は極性のある組み合わせとして、水-酢酸の2成分系です。
極性物質の高圧系は気液平衡の中でも難しい部類ですが、加えて酢酸は会合して二量体を形成するため、より非理想性が高い系です。

462.1K、6~15atmにおける気液平衡を計算しました。

水に関するxy線図を示します。

IDEALとNRTLが最もよく一致していますね。高圧と言っても6atm~15atm程度の範囲であれば系によっては活量係数モデルが使用できることもあります。
ただ、xy線図だけ見て判断するのは危険ですのでPxy線図も合っているか確認しましょう。

RK、RK-SOAVE、PRはかなりずれていますね。
UNIFAC式から推算しているPSRKだけが若干実測値に近い傾向を示しています。

次にPxy線図を示します。

IDEALとNRTLはPxy線図で見るとずれていますね。
ただ、このくらいのずれであれば実測値でフィッティングすれば合うかもしれません。

RK、RK-SOAVE、PRはxy線図と同様に大きくずれています。極性分子による分子間引力や会合を考慮できていないため、圧力が高めに出ている可能性があります。

最も実測値と近かったのはPSRKでした。ただ、それでも実測値とぴったり合うように推算することは難しいようです。

まとめ

高圧気液平衡は実測値と合いにくいので、どの程度の差異があるのかをしっかりと確認する必要があります。
また、今回もAspen Plusを使用して各モデルを計算しています。

紹介した2成分系は実測値があるものを選んでいますが、実務では高圧系の実測値がデータベースにあるとは限りません。

その場合は、別途ラボ実験等で気液平衡データを測定する必要があります。
この手間を省いて装置設計してしまうと、ちゃんと分離できず製品純度が低下してしまったり、生産量低下の原因となる可能性があります。