概要
この記事ではエネルギー管理士(熱分野)の出題分野である、燃焼計算について解説します。
燃焼計算は課目Ⅲ"燃料と燃焼"の中で、大問3問中1問出題されています。
大問がほぼ全て計算問題で構成されていますが、過去問と近い形式の問題が出やすいので得点源になります。
以下で出題頻度が高かった内容を紹介しています。
気体燃料の燃焼計算
気体燃料、液体燃料、固体燃料の中から1問の燃焼計算が出題されています。気体燃料と液体燃料が比較的出題されやすく、固体燃料は出題されにくいイメージです。
ただし、どの燃料が出題されてもちゃんと解けるようにしておきましょう。
気体燃料の燃焼計算は最も基本的な問題です。
気体燃料として主に使用されるメタンやエタン、プロパン等が燃焼する際に、どのくらいの空気量が必要か、あるいは出口の燃焼ガス量などが問われます。
ここでは実際に問題を解きながら解説します。
- メタン90%、エタン10%の気体燃料
- 空気比1.2で完全燃焼させる
- 空気中の酸素の体積割合21%
以上の条件が与えられた場合に、気体燃料1m3Nを完全燃焼させたときの湿り燃焼ガス量を求めてみましょう。
燃焼反応式を作成する
まず重要なのが問題で与えられた燃料の燃焼反応式を作成することです。
ここではメタンとエタンの燃焼反応式を作成します。
$$CH_{4}+2O_{2}=CO_{2}+2H_{2}O・・・(1)$$
$$C_{2}H_{6}+\frac{7}{2}O_{2}=2CO_{2}+3H_{2}O・・・(2)$$
(1)、(2)式となります。
(1)、(2)式の化合物の係数は覚える必要はなく、その場で係数の値を求められるようになりましょう。
燃焼反応式では、燃焼する物質の化学量論比は1を基準としています。
(1)式でいうと、CH4の係数は1となるので、左辺の炭素原子の数は1、水素原子の数は4となります。
右辺の炭素原子と水素原子の数は左辺と同じにならないといけないので、CO2の係数は1、H2Oの係数は2となります。
右辺のCO2とH2Oの係数が決まれば、右辺の酸素原子の数が4とわかります。
最後に左辺のO2の係数を右辺と合うように2と決定できます。
例として(1)式でやりましたが、他の化合物でも同じ方法で係数を決定できます。
完全燃焼時の計算
まず(1)、(2)式で完全燃焼させた際のCO2、H2O量を算出しましょう。
気体燃料1m3N中に、メタンが90%、エタンが10%含まれていますので、それぞれの化合物量は
$$メタン:{1m^{3}}_{N}×0.9=0.9{m^{3}}_{N}・・・(3)$$
$$エタン:{1m^{3}}_{N}×0.1=0.1{m^{3}}_{N}・・・(4)$$
以上のように計算できます。
次に、燃焼で発生するCO2量ですが、(1)、(2)式から算出することができます。
ここで重要なのが、試験では理想気体が暗黙のうちに仮定されているため、モル比と体積比は同じ値を使用できるということです。
例えば(1)式で、CH4とO2のモル比は1:2ですが、体積比も1:2とみなして計算できます。
もしモル量から体積に換算したければ、1mol=22.4L(もしくは1kmol=22.4m3)の関係を使用しましょう。
したがって、CO2量は、
$$0.9×1+0.1×2=1.1{m^{3}}_{N}・・・(5)$$
(5)式となります。
同様に燃焼で発生するH2O量は、
$$0.9×2+0.1×3=2.1{m^{3}}_{N}・・・(6)$$
(6)式となります。
次に、(1)、(2)式の燃焼に必要な理論O2量を算出しましょう。
これもCO2量やH2O量と同様に算出でき、
$$0.9×2+0.1×\frac{7}{2}=2.15{m^{3}}_{N}・・・(7)$$
(7)式となります。
次に燃料を燃焼させるために供給した空気中に含まれるN2量を計算しましょう。
空気中のO2の組成は問題文で21%と与えられていますから、N2は79%として考え、
$$2.15×\frac{0.79}{0.21}=8.09{m^{3}}_{N}・・・(8)$$
(8)式となります。
したがって、理論空気量はO2量とN2量を足せばいいので、
$$2.15+8.09=10.24{m^{3}}_{N}・・・(9)$$
(9)式となります。
また、O2量から直接理論空気量を求めたい場合は、
$$2.15×\frac{1.00}{0.21}=10.24{m^{3}}_{N}・・・(10)$$
(10)式のようにO2と空気の比で算出することもできます。
続いて、燃焼した後に発生する理論燃焼ガス量を求めましょう。
注意点として、燃焼ガスには
- 湿り燃焼ガス:H2Oを含む
- 乾き燃焼ガス:H2Oを含まない
上の2種類ありますので、問題文をよく読みましょう。
今回は理論湿り燃焼ガス量を求めますのでH2Oを含めて計算します。
理論湿り燃焼ガス量は、燃焼によって発生したCO2、H2Oと空気中に含まれるN2を全て合計すればよいので、(5)、(6)、(8)式から、
$$1.10+2.10+8.09=11.29{m^{3}}_{N}・・・(11)$$
(11)式となります。
過剰空気供給時の燃焼計算
続いて、空気比を1.2としている点について考慮します。
(1)、(2)式で燃焼に必要なO2量をぴったりと供給するのが空気比1.0の状態です。
しかし実際には、燃焼室内で燃料やO2の濃度の偏りがあるため、空気比1.0だと部分的にO2が不足する可能性があります。
そのため実際の燃焼では過剰に空気を供給し、濃度の偏りがあってもO2が足りるように運転します。今回はその空気比が1.2に設定されています。
O2は理論上、空気比1.0分が反応で消費されるため、空気比0.2分のO2が余剰O2として燃焼後に残ります。
したがって、余剰O2は(7)式の理論O2量を0.2倍すれば求められます。
$$2.15×0.2=0.43{m^{3}}_{N}・・・(12)$$
次に、N2も燃焼ガス中に空気比0.2分増加しますので、(8)式を0.2倍します。
$$8.09×0.2=1.62{m^{3}}_{N}・・・(13)$$
最後に理論湿り燃焼ガス量に空気比0.2分のO2量とN2量を足せば、空気比1.2の湿り燃焼ガス量になります。
(11)、(12)、(13)式から、
$$11.29+0.43+1.62=13.34{m^{3}}_{N}・・・(14)$$
(14)式となります。
全体を通しての注意点としては、回答すべき有効桁数が問題文中に記載されているので、それよりも細かい桁で計算しましょう。
途中で安易に四捨五入すると、計算方法は合っていても答えの値がずれることがあります。
液体燃料の燃焼計算
液体燃料の燃焼計算もよく出題されるので確実にできるよう勉強しておきましょう。
液体燃料の場合、様々な化合物が混ざっているので、気体燃料と違い化合物の種類が問題文中で出てくることはほぼないでしょう。
その代わり、炭素や水素の質量割合が条件として記載されています。
例えば炭素C、水素Hの成分が含まれる液体燃料を完全燃焼させる場合、燃焼反応式は炭素Cと水素Hの量論比が1として各々作成します。
$$C+O_{2}=CO_{2}・・・(15)$$
$$H+\frac{1}{4}O_{2}=\frac{1}{2}H_{2}O・・・(16)$$
あとは、(15)、(16)式の反応式に従って、気体燃料の燃焼計算と同様に計算すれば湿り燃焼ガス量などを計算できます。
注意点としては、燃料の単位です。
- 気体燃料:燃料1m3を燃焼
- 液体燃料:燃料1kgを燃焼
液体燃料の場合は、燃料1kgが燃焼した場合の湿り燃焼ガス量を算出することが多いので、単位変換が必要です。
仮に炭素の質量割合0.87、水素が0.13の燃料1kgを燃焼させる場合、
$$炭素モル量:\frac{1×0.87}{12}kmol・・・(17)$$
$$水素モル量:\frac{1×0.13}{1}kmol・・・(18)$$
(17)、(18)式のように原子量[g/mol]を使用してモル量に変換できます。
固体燃料の燃焼計算
固体燃料の燃焼計算は気体燃料、液体燃料と比較して出題されにくいですが、燃焼計算の考え方は変わりません。
扱う燃料が固体に変わるだけです。過去にはセルロース(木質バイオマス)やポリプロピレン(プラスチックごみ)が出題されています。
燃料となる物質の化学式は問題文で与えられているので、気体燃料と同様に燃焼反応式の係数を決定すれば、後は同様の方法で燃焼計算ができます。
$$セルロース:C_{6}H_{10}O_{5}+6O_{2}=6CO_{2}+5H_{2}O・・・(19)$$
$$プロピレン:C_{3}H_{6}+\frac{9}{2}O_{2}=3CO_{2}+3H_{2}O・・・(20)$$
ポリプロピレンはCとHの割合が、単量体であるプロピレンのC、Hの割合と同等であるとしてプロピレンの燃焼反応式をベースに計算する問題が過去に出題されていました。
高発熱量・低発熱量
高発熱量、低発熱量という単語が問題文中に出てくることが多いので意味を覚えておいた方がよいです。
燃料の燃焼によって得られる高温の燃焼ガスは、熱を最大限に取り出すと、燃焼前の温度と同じになります。
燃焼ガスのうち、CO2、N2、O2などは燃焼前の温度で普通気体ですが、H2Oに関しては気体と液体の両方の可能性があります。
高発熱量と低発熱量はこのH2Oの状態の違いから定義されており、
- 高発熱量:H2Oが液体である(H2Oの凝縮潜熱を含む発熱量)
- 低発熱量:H2Oが気体である(H2Oの凝縮潜熱を含まない発熱量)
という意味合いとなっています。
高発熱量から低発熱量を算出する場合は、H2Oの蒸発潜熱を差し引くことで求められます。
熱量計算
排ガスの熱量や温度を計算する問題が3年に1回くらい出題されています。
燃焼用空気の予熱熱量
燃焼用空気の予熱に必要な熱量Qp[kJ]は、
$$Q_{p}=V_{air}C_{p-air}(T_{p}-T_{f})・・・(21)$$
Vair:空気量[m3]、Cp-air:空気の平均定圧比熱[kJ/(m3N・K)]
Tp:予熱温度[K]、Tf:空気の供給温度[K]
(21)式で表されます。
供給空気当たりの熱量Qp[kJ/m3N-f]とする場合は空気量をかけずに、
$$Q_{p}=C_{p-air}(T_{p}-T_{f})・・・(22)$$
とする場合もあります。
燃焼排ガスの損失熱量
燃焼排ガスが持ち去る損失熱量Qr[kJ]は、
$$Q_{r}=V_{G}C_{pm}(T_{G}-T_{0})・・・(23)$$
VG:燃焼排ガス量[m3]、Cpm:排ガスの平均定圧比熱[kJ/(m3N・K)]、TG:燃焼排ガス温度[K]、T0:基準温度[K]
(23)式で表されます。
同様に、排ガス1m3当たりの熱量Qr[kJ/m3N-f]とする場合は、
$$Q_{r}=C_{pm}(T_{G}-T_{0})・・・(24)$$
とする場合もあります。
おわりに
エネルギー管理士(熱分野)課目Ⅲの燃焼計算の分野について解説しました。
計算メインの分野ですので、時間をかけて丁寧に解いていきたいところです。
基本の燃焼計算ができるようになれば、少なくともこの分野で半分の点数は取れると思います。