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化学工学 物性

【熱伝導度】推算方法を解説:フーリエの法則の比例定数

2020年11月29日

概要

気体や液体の熱伝導度は主に熱流体解析をするうえで必要になってきます。

熱伝導度はフーリエの法則で使用されているため、伝導伝熱の寄与に関係します。

十分な乱流場であれば、対流伝熱が支配的で伝導伝熱の寄与は小さいです。
逆に層流場であれば、伝導伝熱の寄与が大きいため、熱伝導度の精度は重要になってきます。

私の会社では商用の熱流体解析ソフトであるANSYS社のFluentを使用していますが、物性データベースが充実しているとは言い難いです。

温度変化が大きい場合には、ユーザーが温度変化に対応できる熱伝導度の温度依存式を入力する必要があります。

したがって、ユーザーが熱伝導度を算出する必要があります。
あるいは、Aspen等のプロセスシミュレータで物性だけ参照するのも常套手段です。

この記事では主に純物質の気体・液体の熱伝導度の算出方法についていくつか紹介します。

一方で、固体の熱伝導度は主に機器の詳細設計で使用されます。

例えば熱交換器の設計においては、総括伝熱係数の算出に材質の熱伝導度が使用されています。

しかし機器の材質は炭素鋼やステンレス等の合金であることがほとんどで、純物質の熱伝導度推算法では正確に求めることができません。
素直に実測値やメーカー発表値を使用するのが良いでしょう。

気体熱伝導度の推算法

気体分子運動論による方法

粘度の推算法と同様に、気体分子運動論をベースとした推算式が提案されています。
単原子、多原子で使う式が異なっており、

単原子気体の場合は、

$$λ=2.5\frac{ηC_{v}}{M}$$

λ:熱伝導度[cal/(cm・s・K)]、η:粘度[μP]
Cv:定容分子熱[cal/(mol・K)]、M:分子量[g/mol]

上式を使用します。

多原子気体の場合は、

$$λ=\frac{η}{M}(1.32C_{v}+3.52)$$

となります。

例として、エタノールの400Kにおける低圧気体の熱伝導度を求めてみます。
エタノールの400Kにおける比熱Cp=19.68cal/(mol・K)を使用して、

$$C_{v}=C_{p}-R=19.68-1.99=17.69cal/(mol・K)$$

エタノールの400Kにおける粘度η=117.3cp、分子量46.1を使用して、

$$λ=\frac{117.3}{46.1}(1.32×17.69+3.52)≒68.4μcal/(cm・s・K)$$

実測値は59.7μcal/(cm・s・K)なので、少しズレがありますね。

温度の影響

気体の熱伝導度λは温度Tの上昇により増加します。
その関係は、

$$\frac{λ_{2}}{λ_{1}}=(\frac{T_{2}}{T_{1}})^{1.786}$$

上式により表されます。
この式により、1点の熱伝導度がわかれば他の温度における熱伝導度を計算できます。

ただし、環状化合物には適用できないとされています。

例として、エタノール蒸気の27℃(300K)における熱伝導度を求めてみます。
エタノールの400Kにおける熱伝導度は59.7μcal/(cm・s・K)なので、

$$λ_{2}=59.7(\frac{300}{400})^{1.786}≒35.7μcal/(cm・s・K)=14.9mW/(mK)$$

実測値は14.7mW/(mK)ですから、良い精度ですね。

Aspen Plusでの推算(DIPPR式)

Aspen PlusではDIPPR式が気体の熱伝導度推算式のデフォルトとして設定されています。
気体粘度の式は

$$λ=\frac{C_{1}T^{C_{2}}}{1+C_{3}/T+C_{4}/T^{2}}$$

C1~4:物質固有の定数

上式となります。
C1~4は物質固有の定数であり、シミュレータ内に内蔵されています。

同様に、エタノール蒸気の27℃(300K)における熱伝導度を求めると、
15.4mW/(mK)となりました。

実測値は14.7mW/(mK)ですから、それなりに良い精度ですね。

液体熱伝導度の推算法

標準沸点における熱伝導度

液体の標準沸点における熱伝導度は佐藤らが次式を提案しています。

$$λ_{Lb}=\frac{2.64×10^{-3}}{M^{0.5}}$$

λLb:標準沸点における熱伝導度[cal/(cm・s・K)]、M:分子量[g/mol]

ただし、極性の強い物質、側鎖のある分子量が小さい炭化水素、無機化合物には適用できません。

例として、エタノールの標準沸点における熱伝導度を求めてみます。
エタノールの分子量は46.1ですから、

$$λ_{Lb}=\frac{2.64×10^{-3}}{46.1^{0.5}}≒389μcal/(cm・s・K)$$

実測値は370μcal/(cm・s・K)です。
簡単な式の割には近い値となっていますね。

Robbinsらの式

標準沸点における物性を参考に熱伝導度を求める式が提案されています。

$$λ_{L}=\frac{2.64×10^{-3}}{M^{0.5}}\frac{C_{p}T_{b}}{C_{pb}T}(\frac{ρ}{ρ_{b}})^{\frac{4}{3}}$$

λL:熱伝導度[cal/(cm・s・K)]、M:分子量[g/mol]、Tb:標準沸点[K]
Cp:比熱[cal/(mol・K)]、Cpb:標準沸点における比熱[cal/(mol・K)]
ρ:液体のモル密度[g/cm3]、ρb:標準沸点における液体のモル密度[g/cm3]

対臨界温度が0.4~0.9が適用範囲になります。

例として、エタノールの20℃(293.15K)における熱伝導度を求めてみます。

エタノールの20℃における密度は0.798g/cm3、比熱は26.46cal/(mol・K)で、
エタノールの沸点における密度は0.734g/cm3、比熱は32.41cal/(mol・K)です。
これらの値を使用し、

$$λ_{L}=\frac{2.64×10^{-3}}{46.1^{0.5}}\frac{26.46×351.45}{32.41×293.15}(\frac{0.798}{0.734})^{\frac{4}{3}}\\
≒425.4μcal/(cm・s・K)=178.0mW/(mK)$$

実測値は168mW/(mK)です。
計算に密度や比熱のパラメータが必要なのが少しネックでしょうか。

密度や比熱の推算方法については別記事で紹介しています。

【気体密度】推算方法を解説:状態方程式・一般化圧縮係数線図による推算

この記事では気体密度の推算方法をおおまかに2種類に分けて紹介します。状態方程式による方法と一般化圧縮係数線図による方法の2種類です。

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【液体密度】推算方法を解説:主要物質の実測値も記載

推算式も沸点においてのみ使用できる式から、臨界点以下の任意の温度で使用できるものまで様々です。この記事では主要な液体密度の推算方法を紹介します。

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【比熱】推算方法を解説:分子構造や対応状態原理から推算

熱収支を計算するうえで最も重要な物性は比熱です。蒸気圧や蒸発潜熱はわからなくても場合によっては計算できますが、比熱がわからないと熱収支は計算できません。本記事では比熱の推算方法について紹介します。

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Aspen Plusでの推算(DIPPR式)

Aspen PlusではDIPPR式が、気体と同様に液体の熱伝導度推算式のデフォルトとして設定されています。
条件によってDIPPR式は使い分けられていますが、そのうちの1つは

$$λ=C_{1}+C_{2}T+C_{3}T^{2}+C_{4}T^{3}+C_{5}T^{4}$$

C1~5:物質固有の定数

上式となります。
C1~5は物質固有の定数であり、シミュレータ内に内蔵されています。

同様に、エタノールの20℃(293K)における熱伝導度を求めると、
169.3mW/(mK)となりました。

実測値は168mW/(mK)ですから、それなりに良い精度ですね。