概要
ある系において、現在の状態が定まれば過去の変化や経路には依存せずに値が決まる物理量を状態量といいます。
化学工学の計算ではたびたび物質収支を取りますが、これは収支を取る質量やモル量等のパラメータが状態量であるから成り立つ話です。
例えば100kgの液が入ったタンクに、同じ液を追加で100kg投入します。
追加の100kgを1分で投入しても1時間で投入しても、全量投入し終えた後のタンク内の液重量は200kgになりますよね。
この場合、タンク内の液の増加速度は2ケースで異なるため経路は違います。
ですが、液(物質)の重量は状態量であるため途中の経路には依存せず、投入後の状態のみで決まります。
このくらいの簡単な計算であれば、あえて"状態量"と意識することもないと思います。
しかしエントロピーやギブス自由エネルギーなど、感覚的にわかりづらい状態量を扱う場合には定義に立ち返ってみるのもよいと思います。
状態量の分類
状態量は示強変数と示量変数の大きく2種類に分類できます。
示強変数
物質の量が変化しても、その値が変化しない状態量を示強変数といい、そのような性質を示強性といいます。
例えば温度や圧力は物質が1kgでも100kgでも値が変わることはないので、示強変数です。
示量変数
物質の量が変化すると、その値が変化する状態量を示量変数といい、そのような性質を示量性といいます。
例えば質量やモル量、体積は物質の量に依存する状態量なので、示量変数です。
状態量の種類
化学工学でよく使用する状態量を以下に示します。
状態量 | 記号 | 単位 | 分類 |
質量 | m | kg | 示量変数 |
物質量(モル量) | n | mol | 示量変数 |
温度 | T | K | 示強変数 |
圧力 | P | Pa | 示強変数 |
体積 | V | m3 | 示量変数 |
密度 | ρ | kg/m3 | 示強変数 |
定圧比熱 | Cp | kJ/(kg・K) | 示強変数 |
エンタルピー | H | J | 示量変数 |
エントロピー | S | J/K | 示量変数 |
ギブス自由エネルギー | G | J | 示量変数 |
化学ポテンシャル | μ | J/mol | 示強変数 |
フガシティー | f | Pa | 示強変数 |
密度や定圧比熱のような物性値や熱力学の分野でよく出てくるエンタルピー、エントロピーも状態量です。
もちろん上表に示したもの以外にも様々な状態量が存在します。
系の状態の決定
系の状態は、状態量が全て定まると決定されます。
しかし、状態量はそれぞれ独立した変数ではなく、いくつかの状態量が決まると他の状態量も決定されます。
具体的な状態量の自由度はギブスの相律(1)式からわかります。
$$F=C-P+2・・・(1)$$
F:自由度、任意に選べる(示強性)状態量の数[-]
C:相の数[-]、P:成分の数[-]
ただし、(1)式での状態量は示強性であることに注意しましょう。
例えば、単相で単成分の系では、C=1、P=1であるため任意に選べる示強性状態量の数F=2となります。
仮に温度Tと圧力Pの2つの状態量を決定すると、他の状態量は自動的に決定します。
これは状態量の間に関係式があり、芋づる式に全ての状態量が求まるからです。この関係式を状態方程式といいます。
最も有名なものは理想気体の状態方程式PV=nRTでしょう。他にも様々な関係式があります。
ちなみに、気体の状態方程式に関しては以下の記事で解説しています。
【気体の状態方程式】の各モデルを解説:実在気体では分子間力や分子体積を考慮
圧力P、体積V、温度T、物質量nの間に成り立つ関係式のことを状態方程式といいます。化学工学では気体についての状態方程式が有名ですが、元々は気体に限った話ではありません。
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おわりに
状態量について解説しました。
私たちが普段行なっている化学工学計算は、状態量であることを前提としたものが多いです。