概要
対流熱伝達と熱伝導の比を表わす無次元数をヌセルト数Nuといいます。
$$Nu=\frac{hL}{k}・・・(1)$$
Nu:ヌセルト数[-]、h:熱伝達率[W/(m2・k)]
L:代表長さ[m]、k:流体の熱伝導度[W/(m・K)]
ヌセルト数は(1)式で表されます。
実用的には、熱伝達率hを算出するのにヌセルト数は使用されます。
熱交換器や撹拌槽等の伝熱計算において非常に重要な無次元数です。
温度境界層との関係
ニュートンの冷却法則から、
$$h=\frac{q}{T_{w}-T_{b}}・・・(2)$$
h:熱伝達率[W/(m2・k)]、q:熱流束[W/m2]、Tw:壁面温度[K]、Tb:バルク温度[K]
(1)式が成り立ちます。
次にフーリエの法則から、流体の熱伝導に関して式を立てると、
$$q=k\frac{T_{w}-T_{b}}{δ_{T}}・・・(3)$$
k:流体の熱伝導度[W/(m・K)]
(3)式となります。
(3)式を(2)式に代入すると、
$$h=\frac{k\frac{T_{w}-T_{b}}{δ_{T}}}{T_{w}-T_{b}}=\frac{k}{δ_{T}}・・・(4)$$
(4)式となります。
(4)式を(1)式に代入すると、
$$Nu=\frac{L}{δ_{T}}・・・(5)$$
最終的に(5)式が導かれます。
したがって、ヌセルト数Nuは物体の代表長さLが温度境界層厚さδTの何倍か、という意味合いを持ちます。
温度境界層厚さが無視できるほど代表長さが大きければ、ヌセルト数も大きくなります。
無次元数の関係式
次元解析から、ヌセルト数は様々な無次元数で表されることが知られています。
強制対流
強制対流伝熱の場合は、レイノルズ数Reとプラントル数Prの関数として表されます。
有名な式の1つとして、円管内流れにおけるコルバーンの式が挙げられます。
$$Nu=0.023Re^{0.8}Pr^{1/3}・・・(6)$$
$$10^{4}<Re<1.2×10^{5}$$
$$0.7<Pr<120$$
レイノルズ数とプラントル数を計算することでヌセルト数が算出でき、ヌセルト数から熱伝達率hを算出するのが一般的な使用例です。
自然対流
自然対流伝熱の場合は、グラスホフ数Grとプラントル数Prの関数として表されます。
例えば、垂直平板からの層流自然対流伝熱式として、
$$Nu=0.59(Gr・Pr)^{1/4}・・・(7)$$
$$10^{4}<Gr・Pr<10^{9}$$
$$Pr>0.7$$
(7)式が挙げられます。
自然対流に関しても同様で、グラフホス数、プラントル数からヌセルト数を算出し、ヌセルト数から自然対流における熱伝達率を算出します。
ヌセルト数の絶対値について
例えばレイノルズ数の場合は、絶対値の大小によって層流か乱流かの区別をすることができます。
一方でヌセルト数の場合は、そのような指標はあまりありません。
その理由として、ヌセルト数が流体の熱物性に依存することが挙げられます。
流体の種類が異なれば、仮にヌセルト数が同じ値を示しているからといって対流伝熱性能あるいは熱伝達率が同程度となるとは限りません。
一方で同じ種類の流体で比較する場合は、ヌセルト数が大きければ熱伝達率が大きいと言えます。
このように、異なる流体での対流伝熱を単純に比較できない点が、ヌセルト数の絶対値があまり重要視されない理由だと考えられます。
ただし、例外として対流伝熱が全く働いていない場合はヌセルト数Nu=1となることが知られています。
まとめ
ヌセルト数について解説しました。
伝熱計算において非常に重要な無次元数です。必要な時に無次元数の計算式を使えるようにしておきましょう。