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化学工学 流動

【NPSH】を解説:キャビテーションを回避できるポンプ揚程

2021年6月11日

概要

ポンプの運転において、キャビテーションを発生させずに運転できるかどうかを判断するための指標をNPSH(Net Positive Suction Head)といいます。

ポンプの中でも遠心ポンプは羽根車が高速回転することにより流体にエネルギーを与えています。

羽根車近傍の流れは非常に複雑で、局所的に負圧となる箇所が存在します。

この箇所の圧力が、もし液体の蒸気圧より低くなると液体が蒸発して小さな気泡となります。この気泡の発生現象をキャビテーションといいます。

発生した気泡は不安定で生成消滅を繰り返しますが、気泡が消滅する際には強い衝撃波が発生するため、騒音や振動が起こります。

羽根車表面に気泡が衝突した場合には、材質が金属であっても傷などの損傷を与え、その状態で長く運転を続けると羽根車が削られて性能が出なくなります。

このようにキャビテーションはポンプの正常な運転を妨げるため、キャビテーションが発生しない条件下で運転できるように設計しなければなりません。

そのためにNPSHを計算する必要があります。

NPSHの計算方法

NPSHには2種類あります。

・NPSH available(NPSHava):有効吸込み揚程

ポンプ入口において、液体が持つ全圧がその液温での蒸気圧と比較して、どれだけ高いかを揚程(ヘッド)[m]で示している値です。

・NPSH required(NPSHreq):必要吸込み揚程

ポンプがキャビテーションを起こさないために必要な揚程[m]です。

この2つのNPSHを比較して、

$$NPSH_{ava}>NPSH_{req}・・・(1)$$

(1)式が成り立てばキャビテーションを起こさずに運転できます。
(実際にはNPSHreqに1.3程度の係数をかけて余裕をみた設計をすることもあります。)

設計上はNPSHreqより+1m以上は大きいNPSHavaを確保したいところです。

NPSHavaの算出方法

NPSHavaは主にユーザー側が決定し、計算すべき値です。
どのような条件でポンプを運転するのか、という情報が計算には必要だからです。

計算はポンプの据付位置が吸込み液面より高いか低いかで式が少し変わってきます。

・ポンプの据付位置が吸込み液面より高い場合

$$NPSH_{ava}=\frac{p_{a}}{ρg}-h_{s}-h_{f}-\frac{p_{vp}}{ρg}・・・(2)$$

pa:吸込み液面にかかる圧力[Pa]、ρ:液体密度[kg/m3]、g:重力加速度[m/s2]
hs:吸込み実揚程[m]、hf:配管での損失水頭[m]、pvp:液体の蒸気圧[Pa]

・ポンプの据付位置が吸込み液面より低い場合

$$NPSH_{ava}=\frac{p_{a}}{ρg}+h_{s}-h_{f}-\frac{p_{vp}}{ρg}・・・(3)$$

それぞれの式で吸込み実揚程の符号が反対になっていますね。

ポンプの据付位置が吸込み液面より低い場合は、ポンプの吸込み口において液ヘッドがかかるため、その分蒸発しにくくなり、NPSHavaは高い値となります。

NPSHreqの算出方法

NPSHreqに関しては、ポンプメーカーのカタログ等にNPSHreqが載っていれば、その値を読み取るのが最も簡単な方法です。

それ以外の方法として、カタログ等に吸込比速度Sのグラフが載っていればその値を使用し(4)式からNPSHreqを算出することができます。

$$NPSH_{req}=(\frac{n\sqrt{Q}}{S})^{\frac{4}{3}}・・・(4)$$

n:回転数[min-1]、Q:吐出し量[m3/min]、S:吸込比速度[-]

ただし吸込比速度はポンプの形式や吐出し量で変化する値であるため、カタログ等に情報がなければNPSHreqを算出することは難しいです。

データがない場合は素直にポンプメーカーに設計を依頼するのがよいでしょう。

設計時のポイント

ポンプの据付位置

(2),(3)式からわかりますが、ポンプの据付位置はなるべく低くした方がNPSHavaは高い値となり、キャビテーションの発生抑制につながります。

またポンプに限らず熱交換器等の装置でも、据付位置を低くして液ヘッドによる圧力をかけることで、液が蒸発し気液混相流になってしまうのを防ぐよう設計することがあります。

吸込み側の静圧

吸込み側の装置が大気開放されていれば吸込み液面にかかる圧力paは大気圧となります。

そうでない場合は装置内圧力を取ります。

吸込み側が加圧系であればポンプの設計は楽ですが、減圧系はNPSHavaが厳しいことがあるため、機器やポンプの据付位置を工夫する必要があるかもしれません。

液体の蒸気圧

蒸気圧が高い液体を扱う場合は注意が必要です。

特に有機溶剤は蒸気圧が高いうえに液体密度も小さいので、pvp/ρgの値が大きくなりがちです。

まとめ

NPSHはポンプがキャビテーションを起こさないようにするため、確認すべき指標です。

最低でもNPSHavaの計算方法は知っておきましょう。