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化学工学 熱力学

【臨界定数】を解説:主要物質の臨界定数値も記載

2020年10月16日

概要

物質の臨界点における温度、圧力、体積をそれぞれ臨界温度Tc、臨界圧力Pc、臨界体積Vcといい、これらの定数のことを臨界定数といいます。

臨界点を超えると物質は気体と液体の区別が付かなくなり、気体と液体の中間の性質を示すようになります。
この状態を超臨界状態といい、この特異な性質を活かす研究が進められています。

化学工学的には臨界点における物質の物性が重要になってきます。

なぜなら対応状態原理をベースとした物性推算法が数多く提唱されており、臨界定数から各物性を推算できるからです。

各種物質の臨界定数

 臨界温度[℃]臨界圧力[atm]臨界体積[cm3/mol]
ヘリウム-267.92.257.3
水素-239.912.865.0
窒素-147.033.589.5
酸素-118.649.873.4
メタン-82.645.499.0
二酸化炭素31.072.894.0
エタン32.248.2148.0
プロパン96.641.9203.0
アンモニア132.4111.372.5
エチルエーテル193.535.9280.0
エタノール243.063.0167.0
ベンゼン288.948.3259.0
374.2218.356.0
"設計者のための物性定数推算法"より引用

上表に主要な物質の臨界定数を示します。

商用のシミュレーターには数多くの物質の臨界定数が内蔵されており、自分で調べて入力する必要がないので便利です。

ただし臨界定数に限った話ではありませんが、マイナーな化合物は物性が入っていないことが多いためしっかり確認する必要があります。

純物質の臨界定数推算

臨界温度の概算

純物質の臨界温度Tcは経験的にその物質の融点と沸点を足した値に近くなることが確認されています。

$$T_{m}+T_{b}=T_{c}$$

Tm:融点[K]、Tb:沸点[K]

試しに水で計算してみます。

水の融点は273.15K(0℃)、沸点は373.15K(100℃)なので

$$T_{m}+T_{b}=273.15+373.15=646.3K$$

となります。

前述した主要物質の臨界定数の表をみると、水の臨界温度の測定値は647.35K(374.2℃)なので近い値となっていることがわかります。
概算で計算するぶんには簡便で良い方法です。

臨界圧力の概算

臨界温度が何らかの方法でわかればアントワンの式から臨界圧力を概算することができます。

$${\rm{log}} P=A-\frac{B}{t+C}$$

P:蒸気圧[mmHg]、A、B、C:定数

アントワンの式は蒸気圧を推算するときに使用される有名な式で、上式のような形で表されます。
(アントワン式については蒸気圧推算の記事で紹介します。)

ただし、アントワンの式は高圧条件下ではずれが大きくなるため、あくまでも概算レベルの精度だということを忘れないようにしましょう。

分子構造による加算法を利用した推算

化学物質には似たような構造を持つものが存在し、物性も規則性を示すことが多いです。
この性質を活かし臨界定数を分子構造から推算する手法です。

手法を提唱した人によって加算因子と式の形が変わりますが、今回はクリンセヴィスツ・ライドの方法を紹介します。

   構造ΔTΔpΔv    構造ΔTΔpΔv
-CH3-2.4330.26016.2 -COOH-25.085-0.251-37.0
-CH2-0.353-0.01516.1 -CO-O-8.890-0.277-28.2
-CH2-(環状)4.253-0.0468.2 -NH2-4.153-0.127-0.1
>CH-6.266-0.08312.1 >NH2.005-0.18053.7
>CH-(環状)-0.335-0.0277.4 >NH(環状)2.773-0.172-8.0
>C<16.416-0.1368.95 >N-12.253-0.163-0.7
>C<(環状)12.435-0.111-6.6 =N-(環状)8.239-0.104-18.4
=CH2-0.991-0.01513.9 -CN-10.381-0.06412.0
=CH-3.786-0.0509.8 -SH28.529-0.303-27.7
=CH-(環状)3.373-0.0665.1 -S-23.905-0.311-27.3
>C=, =C=7.169-0.0672.7 -S-(環状)31.537-0.208-61.9
>C=(環状)5.623-0.0890.2 -F5.191-0.067-34.1
≡CH-4.561-0.0567.5 -Cl18.353-0.244-47.4
≡C-7.341-0.1123.0 -Br53.456-0.692-148.1
-OH-28.930-0.190-24.0 -I94.186-1.051-270.6
-O-5.389-0.143-26.1 -XCX(X=ハロゲン)-1.7700.0320.8
-O-(環状)7.127-0.116-36.6 -NO211.709-0.325-39.2
>CO, -CHO4.332-0.196-6.7     
"設計者のための物性定数推算法"より引用

上表に化学物質の分子構造の加算因子を示します。
推算したい物質の構造をみて、上表に一致する構造があればその因子をすべて足し合わせます。

$$T_{c}=45.40-0.77M+1.55T_{b}+ΣΔ_{T}$$

$$P_{c}=\frac{M}{(0.335+0.010M+ΣΔ_{p})^{2}}$$

$$V_{c}=25.2-2.80M+ΣΔ_{V}$$

Tc:臨界温度[K]、Pc:臨界圧力[bar]、Vc:臨界体積[cm3/mol]
M:分子量[g/mol]、Tb:物質の沸点[K]
ΔT:温度の加算値、Δp:圧力の加算値、Δv:体積の加算値

上式に各臨界定数の推算式を示します。表から加算因子を読み取り推算に使用します。

試しにエタノール(CH3CH2OH)の臨界温度を求めてみましょう。
-CH3、-CH2-、-OHの構造が1つずつありますから

$$ΣΔ_{T}=-2.433+0.353-28.930=-31.01$$

$$T_{c}=45.40-0.77×46+1.55×351.15-31.01=523.80K$$

となります。
エタノールの臨界温度の実測値は516.15Kですから近い値となっていることがわかります。

水のときと比べるとずれが大きい気がしますが、エタノールについて融点と沸点の和で臨界温度を概算すると159.1+351.5=510.6Kとなり、どちらの方法でもぴったりとは合わないことがわかります。

混合物の臨界定数推算

混合物について対応状態原理を適用する場合に混合物の臨界定数が必要となります。
しかし任意の混合物について適用できる式は現状なく、限られた範囲での推算になります。

混合物の臨界温度

チェニ・プラウズニッツの方法

チェニ・プラウズニッツの方法を使用すれば、一部の混合物について臨界温度を算出することが可能です。
適用範囲は炭化水素系の混合物、あるいは炭化水素とCO2,H2S,CO,O2,N2,H2,Heとの混合物です。

$$T_{cm}=\sum_{j}θ_{j}T_{cj}+\sum_{i}\sum_{j}θ_{i}θ_{j}F_{ij}$$

Tcm:混合物の臨界温度[K]、θi:i成分の表面分率[-]、θj:j成分の表面分率[-]
Tcj:j成分の臨界温度[K]、Fij:i-j成分系の相互作用パラメータ

上式が推算式になります。
混合物の臨界温度の推算には純物質の臨界温度が必要となります。

j成分の表面分率θj

$$θ_{j}=\frac{y_{j}V_{cj}^{\frac{2}{3}}}{\displaystyle\sum_{i} y_{i}V_{ci}^{\frac{2}{3}}}$$

yi:i成分のモル分率[-]、yj:j成分のモル分率[-]、
Vci:i成分の臨界体積[-]、Vcj:j成分の臨界体積[-]

上式から計算できます。

Fijは算出するのが少し複雑で、

$$F_{ij}=\frac{ψ_{T}(T_{ci}+T_{cj})}{2}$$

$$ψ_{T}=A+Bδ_{T}+Cδ_{T}^{2}+Dδ_{T}^{3}+Eδ_{T}^{4}$$

$$δ_{T}=\left|\frac{T_{ci}-T_{cj}}{T_{ci}+T_{cj}}\right|$$

Tci:i成分の臨界温度[K]、Tcj:j成分の臨界温度[K]
A、B、C、D、E:定数

上式から計算できます。Fii=0、Fij=Fjiとなります。

A、B、C、D、Eは混合物の成分によって変化する定数です。

 ABCDE
芳香族を含む系-0.02191.227-24.277147.673-259.433
H2Sを含む系-0.0479-5.72570.974-161.3190
CO2を含む系-0.09532.185-33.985178.068-264.522
C2H2を含む系-0.0785-2.15293.084-722.6760
COを含む系-0.0077-0.095-0.2253.5280
その他の系-0.00760.287-1.3435.443-3.038
"設計者のための物性定数推算法"より引用

計算例

試しにプロパン(C3H8)とn-ペンタン(CH3(CH2)CH3)の2成分混合物の臨界温度を求めてみましょう。ただし、プロパンのモル分率はy1=0.616とします。

まずは計算に必要な純物質の臨界定数データを集めるところから始まります。
データベースに実測値が無い場合は純物質の推算式を利用して求めましょう。

今回は実測値を使用します。
プロパンの純物質臨界温度Tc1=369.8K、臨界体積Vc1=203.0cm3/mol
n-ペンタンの純物質臨界温度Tc2=469.6K、臨界体積Vc2=304.0cm3/mol

まずはプロパンの表面分率θ1を算出します。
y1=0.616、y2=1-0.616=0.384 ですから、

$$\begin{align}θ_{1}&=\frac{y_{1}V_{c1}^{\frac{2}{3}}}{\displaystyle\sum_{i=2}y_{i}V_{ci}^{\frac{2}{3}}}\\&=\frac{0.616×203.0^{\frac{2}{3}}}{0.606×203^{\frac{2}{3}}+0.384×304.0^{\frac{2}{3}}}≒0.551\end{align}$$

となります。
同様にn-ペンタンの表面分率θ2を算出します。

$$θ_{2}=\frac{0.384×304.0^{\frac{2}{3}}}{0.606×203^{\frac{2}{3}}+0.384×304.0^{\frac{2}{3}}}≒0.449$$

次にδTを求めます。

$$δ_{T}=\left|\frac{T_{c1}-T_{c2}}{T_{c1}+T_{c2}}\right|=\left|\frac{369.8-469.6}{369.8+469.6}\right|≒0.1189$$

続いてψTを求めます。
そのために表からA、B、C、D、Eの定数を読み取ります。プロパン-とn-ペンタンはその他の系となりますので、

$$ψ_{T}=A+Bδ_{T}+Cδ_{T}^{2}+Dδ_{T}^{3}+Eδ_{T}^{4}$$

$$ψ_{T}=-0.0076+0.287×0.1189-1.343×0.1189^{2}\\+5.433×0.1189^{3}-3.038×0.1189^{4}=0.01606$$

続いてF12を求めます。

$$F_{12}=\frac{ψ_{T}(T_{c1}+T_{c2})}{2}=\frac{0.01606×(369.8+469.6)}{2}≒6.740$$

最後にこれらのパラメータからTcmを求めます。

$$T_{cm}=θ_{1}T_{c1}+θ_{2}T_{c2}+2θ_{1}θ_{2}F_{12}$$

$$=0.551×369.8+0.449×469.6+2×0.551×0.449×6.74≒418.0K$$

となりました。実測値は417.9Kなのでよく一致していることがわかります。

また、モル平均値で単純に算出すると

$$369.8×0.616+469.6×(1-0.616)=408.1K$$

となり、モル平均値よりもチェニ・プラウズニッツの方法の方が精度が良いことがわかります。

混合物の臨界体積

チュエ・シック・プラウズニッツの方法

臨界温度の推算と似たような形をしているチュエ・シック・プラウズニッツの方法を紹介します。

$$V_{cm}=\sum_{j}θ_{j}V_{cj}+\sum_{i}\sum_{j}θ_{i}θ_{j}ν_{ij}$$

Vcm:混合物の臨界体積[cm3/mol]、θi:i成分の表面分率[-]、θj:j成分の表面分率[-]
Vcj:j成分の臨界体積[cm3/mol]、νij:i-j成分系の相互作用パラメータ

同様に混合物の臨界体積の推算には純物質の臨界体積が必要となります。

j成分の表面分率θjは臨界温度の推算と同様に

$$θ_{j}=\frac{y_{j}V_{cj}^{\frac{2}{3}}}{\displaystyle\sum_{i}y_{i}V_{ci}^{\frac{2}{3}}}$$

yi:i成分のモル分率[-]、yj:j成分のモル分率[-]
Vci:i成分の臨界体積[cm3/mol]、Vcj:j成分の臨界体積[cm3/mol]

上式から計算できます。

νijも臨界温度の項を臨界体積に置き換えて

$$ν_{ij}=\frac{ψ_{V}(V_{ci}+V_{cj})}{2}$$

$$ψ_{V}=A+Bδ_{V}+Cδ_{V}^{2}+Dδ_{V}^{3}+Eδ_{V}^{4}$$

$$δ_{V}=\left|\frac{V_{ci}^{\frac{2}{3}}-V_{cj}^{\frac{2}{3}}}{V_{ci}^{\frac{2}{3}}+V_{cj}^{\frac{2}{3}}}\right|$$

Vci:i成分の臨界体積[cm3/mol]、Vcj:j成分の臨界体積[cm3/mol]
A、B、C、D、E:定数

上式から計算できます。νii=0、νijjiとなります。

A、B、C、D、Eも同様に定数で、臨界温度のときとは値が変わってきます。

 ABCDE
芳香族-芳香族系00000
シクロパラフィンを含む系00000
パラフィン-芳香族系0.0753-3.3322.22000
CO2、H2Sを含む系-0.495717.1185-168.56587.05-698.89
その他の径0.1397-2.96721.8337-1.5360
"設計者のための物性定数推算法"より引用

計算例

臨界温度の推算に引き続いてプロパン(C3H8)とn-ペンタン(CH3(CH2)CH3)の2成分混合物の臨界体積を求めてみましょう。プロパンのモル分率も同様にy1=0.616とします。

純物質の臨界温度、臨界体積もそのまま使用します。
プロパンの純物質臨界温度Tc1=369.8K、臨界体積Vc1=203.0cm3/mol
n-ペンタンの純物質臨界温度Tc2=469.6K、臨界体積Vc2=304.0cm3/mol

各成分の表面分率も臨界温度の計算例で算出した値を使用します。
θ1=0.551
θ2=0.449

次にδVを算出します。

$$δ_{V}=\left|\frac{V_{c1}^{\frac{2}{3}}-V_{c2}^{\frac{2}{3}}}{V_{c1}^{\frac{2}{3}}+V_{c2}^{\frac{2}{3}}}\right|=\left|\frac{203^{\frac{2}{3}}-304^{\frac{2}{3}}}{203^{\frac{2}{3}}+304^{\frac{2}{3}}}\right|=0.1338$$

続いてψVを算出します。
表からA、B、C、D、Eの定数をもとめて使用します。

$$ψ_{V}=A+Bδ_{V}+Cδ_{V}^{2}+Dδ_{V}^{3}+Eδ_{V}^{4}$$

$$=0.1397-2.9672×0.1338+1.8337×0.1338^{2}-1.536×0.1338^{3}=-0.2282$$

続いてν12を算出します。

$$ν_{12}=\frac{ψ_{V}(V_{c1}+V_{c2})}{2}=\frac{-0.2282×(203.0+304.0)}{2}=-57.85$$

最後にVcmを算出します。

$$V_{cm}=θ_{1}V_{c1}+θ_{2}V_{c2}+2θ_{1}θ_{2}ν_{12}$$

$$=0.551×203.0+0.449×304.0+2×0.551×0.449×(-57.85)≒219.7cm^{3}/mol$$

となりました。実測値は228.6cm3/molなのでそれなりに一致していることがわかります。

また、同様にモル平均値で算出すると

$$203.0×0.616+304.0×(1-0.616)=241.0cm^{3}/mol$$

となり、チュエ・シック・プラウズニッツの推算値の方がわずかに良いことがわかります。

混合物の臨界圧力

チェニ・プラウズニッツの方法

臨界圧力の推算もチェニ・プラウズニッツの方法を紹介します。

$$P_{cm}=\frac{RT_{cm}}{V_{cm}-b_{m}}-\frac{a_{m}}{T_{cm}^{\frac{1}{2}}V_{cm}(V_{cm}+b_{m})}$$

Pcm:混合物の臨界圧力[atm]、Vcm:混合物の臨界体積[cm3/mol]
Tcm:混合物の臨界温度[K]、R:気体定数[cm3 atm/(K mol)]
am、bm:定数

混合物の臨界圧力の推算には混合物の臨界温度、臨界体積を事前に算出しておく必要があります。

am、bm

$$a_{m}=\sum_{i}\sum_{j}y_{i}y_{j}a_{ij}$$

$$b_{m}=\sum_{j}y_{j}b_{j}=\sum_{j}y_{j}(\frac{Ω_{bj}RT_{cj}}{P_{cj}})$$

$$Ω_{bj}=0.0867-0.0125ω_{j}+0.011ω_{j}^{2}$$

yi:i成分のモル分率[-]、yj:j成分のモル分率[-]、
ωj:j成分の偏心因子、Tcj:j成分の臨界温度[K]、Pcj:j成分の臨界圧力[atm]

上式で求められます。
偏心因子に関しては物性関連の参考書に主要な値が載っているかと思います。

さらに、amの算出式に含まれるaii、aijについて求める必要があります。

$$a_{ii}=\frac{Ω_{ai}R^{2}T_{ci}^{2.5}}{P_{ci}}$$

$$a_{ij}=\frac{(Ω_{ai}+Ω{aj})RT_{cij}^{1.5}(V_{ci}+V_{cj})}{4[0.291-0.04(ω_{i}+ω_{j})]}$$

$$T_{cij}=(1-k_{ij})\sqrt{T_{ci}T_{cj}}$$

$$Ω_{aj}=(\frac{RT_{cj}}{V_{cj}-b_{j}}-P_{cj})\frac{P_{cj}V_{cj}(V_{cj}+b_{j})}{(RT_{cj})^{2}}$$

Vci:i成分の臨界体積[cm3/mol]、Vcj:j成分の臨界体積[cm3/mol]
Tci:i成分の臨界温度[K]、Tcj:j成分の臨界温度[K]
Pcj:j成分の臨界圧力[atm]

最後にkijはi-j成分間の相互作用パラメータで、一部の2成分系については知見があります。

2成分kij 2成分kij
メタン ー N20.03 エタン ー シクロヘキサン0.03
メタン ー プロパン0.02 エタン ー n-ヘプタン0.04
メタン ー n-ブタン0.04 エチレン ー n-ヘプタン0.04
メタン ー n-ブタン0.05 プロパン ー n-ブタン0
メタン ー n-ペンタン0.06 プロパン ー n-ペンタン0.01
メタン ー i-ペンタン0.07 プロパン ー i-ペンタン0
メタン ー n-ヘプタン0.10 n-ブタン ー N20.12
アセチレン ー エタン0.08 n-ブタン ー n-ヘプタン0
アセチレン ー エチレン0.06 n-ペンタン ー n-ヘプタン0
アセチレン ー プロパン0.09 ベンゼン ー エタン0.03
アセチレン ー プロピレン0.07 ベンゼン ー プロパン0.02
エタン ー プロパン0 CO2 ー メタン0.07
エタン ー プロピレン0 CO2 ー プロパン0.10
エタン ー n-ブタン0.01 CO2 ー n-ブタン0.18
エタン ーn-ペンタン0.02 H2S ー メタン0.06
"設計者のための物性定数推算法"より引用

上表にkijのパラメータを示します。

以上の式から臨界圧力を求めることができます。

化学工学的には臨界定数を求めるのは物性推算の準備段階の話です。
馴染みのない式やパラメータが大量に出てくるためキツイですが、実務においては商用のシミュレーターの力を借りることが多いため、自分で一から算出する機会はあまりないかもしれません。

計算例

臨界温度、臨界体積の推算に引き続いて臨界圧力についてもプロパン(C3H8)とn-ペンタン(CH3(CH2)CH3)の2成分混合物で求めてみましょう。

純物質の臨界圧力が必要であるため、データベースから拾ってくるか推算で算出します。
プロパンの純物質臨界圧力Pc1=41.9atm
n-ペンタンの純物質臨界圧力Pc2=33.3atm

次にプロパン、n-ペンタンの偏心因子ω1、ω2についてですが、これもデータベースから値を参照します。
ω1=0.152、ω2=0.251

続いてΩb1、Ωb2を求めます。

$$\begin{align}Ω_{b1}&=0.0867-0.0125ω_{1}+0.011ω_{1}^{2}\\&=0.0867-0.0125×0.152+0.011×0.152^{2}=0.0851\end{align}$$

$$\begin{align}Ω_{b2}&=0.0867-0.0125ω_{2}+0.011ω_{2}^{2}\\&=0.0867-0.0125×0.251+0.011×0.251^{2}=0.0843\end{align}$$

続いてb1、b2を求めます。

$$b_{1}=\frac{Ω_{b1}RT_{c1}}{P_{c1}}=\frac{0.0851×82.04×369.8}{41.9}=61.62cm^{3}/mol$$

$$b_{2}=\frac{Ω_{b2}RT_{c2}}{P_{c2}}=\frac{0.0843×82.04×469.6}{33.3}=97.53cm^{3}/mol$$

求めたb1、b2を利用してbmを求めます。

$$b_{m}=\sum_{j=2}y_{j}b_{j}=0.616×61.62+(1-0.616)×77.53=75.41cm^{3}/mol$$

続いてΩa1、Ωa2を求めます。

$$Ω_{a1}=(\frac{RT_{c1}}{V_{c1}-b_{1}}-P_{c1})\frac{P_{c1}V_{c1}(V_{c1}+b_{1})}{(RT_{c1})^{2}}$$

$$=(\frac{82.04×369.8}{203.0-61.62}-41.9)[\frac{41.9×203×(203+61.62)}{(82.04×369.8)^{2}}]=0.4223$$

$$Ω_{a2}=(\frac{RT_{c2}}{V_{c2}-b_{2}}-P_{c2})\frac{P_{c2}V_{c2}(V_{c2}+b_{2})}{(RT_{c2})^{2}}$$

$$=(\frac{82.04×469.6}{304.0-97.53}-33.3)[\frac{33.3×304×(304+97.53)}{(82.04×469.6)^{2}}]=0.4198$$

続いてa11、a22を求めます。

$$\begin{align}a_{11}&=\frac{Ω_{a1}R^{2}T_{c1}^{2.5}}{P_{c1}}=\frac{0.4223×82.04^{2}×369.8^{2.5}}{41.9}\\&=178.4×10^{6}[cm^{6}atmK^{0.5}/(mol)^{2}]\end{align}$$

$$\begin{align}a_{22}&=\frac{Ω_{a2}R^{2}T_{c2}^{2.5}}{P_{c2}}=\frac{0.4198×82.04^{2}×469.6^{2.5}}{33.3}\\&=405.5×10^{6}[cm^{6}atmK^{0.5}/(mol)^{2}]\end{align}$$

続いてk12について表からk12=0.01という値を読み取り、Tc12を求めます。

$$T_{c12}=(1-k_{12})\sqrt{T_{c1}T_{c2}}=(1-0.01)×\sqrt{369.8×469.6}=412.6K$$

求めたパラメータからa12を求め、amを求めます。

$$\begin{align}a_{12}&=\frac{(Ω_{a1}+Ω{a2})RT_{c12}^{1.5}(V_{c1}+V_{c2})}{4[0.291-0.04(ω_{1}+ω_{2})]}\\&=\frac{0.4223+0.4198)×82.04×412.6^{1.5}(203+304)}{4[0.291-0.04(0.152+0.251)]}\\&=267.0×10^{6}[cm^{6}atmK^{0.5}/(mol)^{2}]\end{align}$$

$$\begin{align}a_{m}&=y_{1}^{2}a_{11}+2y_{1}y_{2}a_{12}+y_{2}^{2}a_{22}\\&=0.616^{2}×178.4×10^{6}+2×0.616×(1-0.616)\\&×267.0×10^{6}+(1-0.616)^{2}×405.5×10^{6}\\&=253.8×10^{6}[cm^{6}atmK^{0.5}/(mol)^{2}]\end{align}$$

最後にPcmを求めます。

$$\begin{align}P_{cm}&=\frac{RT_{cm}}{V_{cm}-b_{m}}-\frac{a_{m}}{T_{cm}^{\frac{1}{2}}V_{cm}(V_{cm}+b_{m})}\\&=\frac{82.04×418}{219.7-75.41}-\frac{253.8×10^{6}}{418^{\frac{1}{2}}×219.7×(219.7+75.41)}=46.2atm\end{align}$$

となりました。実測値は44.7atmなのでよく一致していることがわかります。

また、同様にモル平均値で算出すると

$$41.9×0.616+33.3×(1-0.616)=38.4atm$$

となり、チェニ・プラウズニッツの推算値の精度が良いことがわかります。

モル平均値による推算

臨界定数に限った話ではありませんが、混合物の物性推算は実務で頻繁に求められる一方で物性によっては推算式がそもそもない場合もあります。

その場合の最終手段としては、混合物の組成と純物質の物性からモル平均値で算出する方法があります。簡易検討ではよく使用される手法だと思います。

しかし精度が悪いからといって必ずしも化工検討に支障が出るとは限りません。その物性がどのような計算に使用されるのか理解しておけば問題なく検討できることも多いです。

臨界定数についても推算式の適用範囲外の物質はモル平均値で代用することもあるかと思います。

参考書

この記事は大江修造著の"設計者のための物性定数推算法"を参考にして書いています。

物性系の参考書はとっつきにくいものが多いですが、唯一自分でも読んでいて理解できたのがこの参考書です。わかりやすいです。

ですが、古い本なので市場には中古品しか回ってないかもしれません。