概要
内部エネルギーU、エンタルピーH、ヘルムホルツ自由エネルギーA、ギブス自由エネルギーGの定義式を一次微分すると、実験では測定しにくい状態量であるエントロピーS、U、H、A、Gと、測定しやすい状態量である圧力P、温度T、体積V等の関係式が得られます。
これらの関係式をさらに微分し、二階偏微分式とすることで、重要な熱力学的関係が得られます。これをMaxwellの関係式といい、(1)~(4)式に示します。
$$\Bigl(\frac{∂P}{∂S}\Bigr)_{V}=-\Bigl(\frac{∂T}{∂V}\Bigr)_{S}・・・(1)$$
$$\Bigl(\frac{∂V}{∂S}\Bigr)_{P}=\Bigl(\frac{∂T}{∂P}\Bigr)_{S}・・・(2)$$
$$\Bigl(\frac{∂S}{∂V}\Bigr)_{T}=\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}・・・(3)$$
$$\Bigl(\frac{∂S}{∂P}\Bigr)_{T}=-\Bigl(\frac{∂V}{∂T}\Bigr)_{P}・・・(4)$$
(1)~(4)式の左辺はエントロピーが含まれており、直接測定することが困難です。
一方で、右辺は圧力P、温度T、体積Vの関係式となっており、測定することが可能です。
したがって、熱力学の関係式で左辺のような形が導かれた場合は、Maxwellの関係式で右辺に変換することで実測できる関係式となります。
加えて、右辺の添え字がどのような条件下で測定すればよいか指定していることもわかります。
(1)、(2)式はエントロピーS一定であるため断熱過程、(3)式は体積V一定であるため定容過程、(4)式は圧力P一定であるため定圧過程で測定すればよいです。
導出
内部エネルギーUから
内部エネルギーの基礎式は(5)式で表されます。
$$dU=TdS-PdV・・・(5)$$
したがって、内部エネルギーUはエントロピーSと体積Vの関数であることがわかります。
この場合、内部エネルギーUは数学的にSとVの完全微分の形で表すことができ、(6)式のようになります。
$$dU=\Bigl(\frac{∂U}{∂S}\Bigr)_{V}dS+\Bigl(\frac{∂U}{∂V}\Bigr)_{S}dV・・・(6)$$
(5)、(6)式の右辺を比較し、V一定及びS一定であるときを考えると、
$$T=\Bigl(\frac{∂U}{∂S}\Bigr)_{V}・・・(7)$$
$$-P=\Bigl(\frac{∂U}{∂V}\Bigr)_{S}・・・(8)$$
(7)、(8)式が成り立ちます。
次に、(7)式の両辺をVで微分、(8)式の両辺をSで微分すると、
$$\Bigl(\frac{∂T}{∂V}\Bigr)_{S}=\frac{∂}{∂V}\Bigl[\Bigl(\frac{∂U}{∂S}\Bigr)_{V}\Bigr]_{S}・・・(9)$$
$$-\Bigl(\frac{∂P}{∂S}\Bigr)_{V}=\frac{∂}{∂S}\Bigl[\Bigl(\frac{∂U}{∂V}\Bigr)_{S}\Bigr]_{V}・・・(10)$$
(9)、(10)式となります。
ここで、内部エネルギーは状態量であり経路に依存しないため、微分の順序によらず等しくなります。
したがって、(9)式の微分の順序を交換することができ、(11)式となります。
$$\Bigl(\frac{∂T}{∂V}\Bigr)_{S}=\frac{∂}{∂S}\Bigl[\Bigl(\frac{∂U}{∂V}\Bigr)_{S}\Bigr]_{V}・・・(11)$$
よって、(10)式と(11)式の右辺が等しくなるため、
$$\Bigl(\frac{∂P}{∂S}\Bigr)_{V}=-\Bigl(\frac{∂T}{∂V}\Bigr)_{S}・・・(1)$$
冒頭の(1)式が導出されます。
エンタルピーHから
エンタルピーHの定義から、
$$H=U+PV・・・(12)$$
(12)式が成り立ちます。両辺微分し、(5)式を使用して整理すると、
$$dH=dU+PdV+VdP=TdS+VdP・・・(13)$$
(13)式となります。
(13)式から、エンタルピーHはエントロピーSと圧力Pの関数であることがわかります。
あとは内部エネルギーと同様に完全微分することで導出することができます。
$$dH=\Bigl(\frac{∂H}{∂S}\Bigr)_{P}dS+\Bigl(\frac{∂H}{∂P}\Bigr)_{S}dP・・・(14)$$
(13)、(14)式を比較すると、
$$T=\Bigl(\frac{∂H}{∂S}\Bigr)_{P}・・・(15)$$
$$V=\Bigl(\frac{∂H}{∂P}\Bigr)_{S}・・・(16)$$
(15)、(16)式が成り立ちます。
(15)式の両辺をPで微分、(16)式の両辺をSで微分すると、
$$\Bigl(\frac{∂T}{∂P}\Bigr)_{S}=\frac{∂}{∂P}\Bigl[\Bigl(\frac{∂H}{∂S}\Bigr)_{P}\Bigr]_{S}・・・(17)$$
$$\Bigl(\frac{∂V}{∂S}\Bigr)_{P}=\frac{∂}{∂S}\Bigl[\Bigl(\frac{∂H}{∂P}\Bigr)_{S}\Bigr]_{P}・・・(18)$$
(17)、(18)式となります。
同様に、(17)式の微分の順序を交換します。
$$\Bigl(\frac{∂T}{∂P}\Bigr)_{S}=\frac{∂}{∂S}\Bigl[\Bigl(\frac{∂H}{∂P}\Bigr)_{S}\Bigr]_{P}・・・(19)$$
よって、(18)式と(19)式の右辺が等しくなるため、
$$\Bigl(\frac{∂V}{∂S}\Bigr)_{P}=\Bigl(\frac{∂T}{∂P}\Bigr)_{S}・・・(2)$$
冒頭の(2)式が導出されます。
ヘルムホルツ自由エネルギーAから
ヘルムホルツ自由エネルギーAの定義から、
$$A=U-TS・・・(20)$$
(20)式が成り立ちます。両辺微分し、(5)式を使用して整理すると、
$$dA=dU-TdS-SdT=-SdT-PdV・・・(21)$$
(21)式となります。
(21)式から、ヘルムホルツ自由エネルギーAは温度Tと体積Vの関数であることがわかります。
あとは同様の手順です。
$$dA=\Bigl(\frac{∂A}{∂T}\Bigr)_{V}dT+\Bigl(\frac{∂A}{∂V}\Bigr)_{T}dV・・・(22)$$
(21)、(22)式を比較すると、
$$-S=\Bigl(\frac{∂A}{∂T}\Bigr)_{V}・・・(23)$$
$$-P=\Bigl(\frac{∂A}{∂V}\Bigr)_{T}・・・(24)$$
(23)、(24)式が成り立ちます。
(23)式の両辺をVで微分、(24)式の両辺をTで微分すると、
$$-\Bigl(\frac{∂S}{∂V}\Bigr)_{T}=\frac{∂}{∂V}\Bigl[\Bigl(\frac{∂A}{∂T}\Bigr)_{V}\Bigr]_{T}・・・(25)$$
$$-\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}=\frac{∂}{∂T}\Bigl[\Bigl(\frac{∂A}{∂V}\Bigr)_{T}\Bigr]_{V}・・・(26)$$
(25)、(26)式となります。
同様に、(25)式の微分の順序を交換します。
$$-\Bigl(\frac{∂S}{∂V}\Bigr)_{T}=\frac{∂}{∂T}\Bigl[\Bigl(\frac{∂A}{∂V}\Bigr)_{T}\Bigr]_{V}・・・(27)$$
よって、(26)式と(27)式の右辺が等しくなるため、
$$\Bigl(\frac{∂S}{∂V}\Bigr)_{T}=\Bigl(\frac{∂P}{∂T}\Bigr)_{V}・・・(3)$$
冒頭の(3)式が導出されます。
ギブス自由エネルギーGから
ギブス自由エネルギーGの定義から、
$$G=H-TS・・・(28)$$
(28)式が成り立ちます。両辺微分し、(12)式を使用して整理すると、
$$dG=dH-TdS-SdT=-SdT+VdP・・・(29)$$
(29)式となります。
(29)式から、ギブス自由エネルギーGは温度Tと圧力Pの関数であることがわかります。
あとは同様の手順です。
$$dG=\Bigl(\frac{∂G}{∂T}\Bigr)_{P}dT+\Bigl(\frac{∂G}{∂P}\Bigr)_{T}dP・・・(30)$$
(29)、(30)式を比較すると、
$$-S=\Bigl(\frac{∂G}{∂T}\Bigr)_{P}・・・(31)$$
$$V=\Bigl(\frac{∂G}{∂P}\Bigr)_{T}・・・(32)$$
(31)、(32)式が成り立ちます。
(31)式の両辺をPで微分、(32)式の両辺をTで微分すると、
$$-\Bigl(\frac{∂S}{∂P}\Bigr)_{T}=\frac{∂}{∂P}\Bigl[\Bigl(\frac{∂G}{∂T}\Bigr)_{P}\Bigr]_{T}・・・(33)$$
$$\Bigl(\frac{∂V}{∂T}\Bigr)_{P}=\frac{∂}{∂T}\Bigl[\Bigl(\frac{∂G}{∂P}\Bigr)_{T}\Bigr]_{P}・・・(34)$$
(33)、(34)式となります。
同様に、(33)式の微分の順序を交換します。
$$-\Bigl(\frac{∂S}{∂P}\Bigr)_{T}=\frac{∂}{∂T}\Bigl[\Bigl(\frac{∂G}{∂P}\Bigr)_{T}\Bigr]_{P}・・・(35)$$
よって、(34)式と(35)式の右辺が等しくなるため、
$$\Bigl(\frac{∂S}{∂P}\Bigr)_{T}=-\Bigl(\frac{∂V}{∂T}\Bigr)_{P}・・・(4)$$
冒頭の(4)式が導出されます。
おわりに
Maxwellの関係式を解説しました。
熱力学系の式変形に出てくることがありますので、一度は導出しておきましょう。