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化学工学 吸収・放散

【二重境膜説】を解説:ガス吸収の基礎理論

2020年12月8日

概要

二重境膜説はガス吸収におけるモデルの1つです。

上図に示すように、気液界面の両側にはそれぞれ境膜が存在し、成分Aが気相から液相に溶解する際にはこの境膜を通過します。

境膜内は常に層流に保たれているため、ガス吸収の速度は成分Aが境膜を通過する速度が最も遅く、律速となります。

この現象を式で表すことで、ガス吸収を定量的に計算できるようになり、現在では吸収塔の設計の基礎理論として使用されています。

この記事では二重境膜説の導出について紹介します。

二重境膜説の導出

概要の図で示したような気液界面について式を立てていきます。

まず液相での拡散を考えます。Fickの法則から、液相での物質拡散は

$$N_{A}=D_{LA}(\frac{dC_{A}}{dz})=CD_{LA}(\frac{dx_{A}}{dz})・・・(1)$$

NA:モル流束[mol/m2/s]、DLA拡散係数[m2/s]
CA:成分Aの濃度[mol/m3]、xA:成分Aのモル分率[-]

(1)式で表されます。

バルク液の濃度をCA、気液界面での濃度をCAi、バルク液のモル分率をxA、気液界面でのモル分率をxAi、境膜の厚みをδLとすると、

$$N_{A}=\frac{D_{LA}}{δ_{L}}(C_{Ai}-C_{A})=\frac{CD_{LA}}{δ_{L}}(x_{Ai}-x_{A})$$

ここで、液相側物質移動係数kL、kxを導入します。

$$k_{L}=\frac{D_{LA}}{δ_{L}}$$

$$k_{x}=\frac{CD_{LA}}{δ_{L}}$$

kL:液相側物質移動係数[m/s]、kx:液相側物質移動係数[mol/m2/s]

定性的には拡散係数が大きく、境膜厚みが小さいほど物質移動係数が大きくなり、物質移動が促進されることになります。

kL、kxにより、

$$N_{A}=k_{L}(C_{Ai}-C_{A})=k_{x}(x_{Ai}-x_{A})・・・(2)$$

(2)式となります。

続いて気相における拡散を考えます。Fickの法則から、気相での物質拡散は

$$N_{A}=CD_{GA}(\frac{dy_{A}}{dz})・・・(3)$$

NA:モル流束[mol/m2/s]、DGA:拡散係数[m2/s]
CA:成分Aの濃度[mol/m3]、yA:成分Aのモル分率[-]

(3)式となります。(3)式の濃度Cについて理想気体の状態方程式を適用すると、

$$C=\frac{n}{V}=\frac{P}{RT}・・・(4)$$

(4)式となります。

(1)式に(4)式を代入すると、

$$N_{A}=\frac{D_{GA}}{RT}(\frac{dP_{A}}{dz})・・・(5)$$

(5)式となります。

バルクガスの圧力をPA、気液界面での分圧をPAi、バルクガスのモル分率をyA、気液界面での気相モル分率をyAi、境膜の厚みをδGとすると、(3)、(5)式から、

$$N_{A}=\frac{D_{GA}}{RTδ_{G}}(P_{A}-P_{Ai})=\frac{CD_{GA}}{RTδ_{G}}(y_{A}-y_{Ai})$$

となります。ここで、気相側物質移動係数kG、kyを導入します。

$$k_{G}=\frac{D_{GA}}{δ_{G}}$$

$$k_{y}=\frac{CD_{GA}}{δ_{G}}$$

kG:気相側物質移動係数[mol/m2/s/Pa]、ky:気相側物質移動係数[mol/m2/s]

kG、kyにより、

$$N_{A}=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=k_{y}(y_{A}-y_{Ai})・・・(6)$$

(6)式となります。(2)式と(6)式をまとめると、

$$N_{A}=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=k_{y}(y_{A}-y_{Ai})\\
=k_{L}(C_{Ai}-C_{A})=k_{x}(x_{Ai}-x_{A})・・・(7)$$

(7)式となります。

(7)式においては、測定することが困難である、境膜における分圧PAiや濃度CAi、モル分率yAi、xAiが含まれています。

そこで、Henryの法則によって平衡値を考えることにより、境膜における値を消します。

まず、境膜においてHenryの法則を適用すると、

$$P_{Ai}=HC_{Ai}・・・(8)$$

$$y_{Ai}=mx_{Ai}・・・(9)$$

H:ヘンリー定数[Pa・m3/mol]、m:ヘンリー定数[-]

次に、液中の成分Aの濃度CA、モル分率xAに平衡なガス分圧PA*、ガスモル分率yA*は、

$$P_{A}^{*}=HC_{A}・・・(10)$$

$$y_{A}^{*}=mx_{A}・・・(11)$$

次に、ガス中の成分Aの分圧PA、モル分率yAに平衡な液濃度CA*、液モル分率xA*は、

$$P_{A}=HC_{A}^{*}・・・(12)$$

$$y_{A}^{*}=mx_{A}^{*}・・・(13)$$

となります。ここで、(7)式においてバルク濃度と平衡濃度の差を考え、(8)、(10)式を(7)式に代入します。

$$N_{A}=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=k_{L}(C_{Ai}-C_{A})\\
=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=\frac{k_{L}}{H}(P_{Ai}-P_{A}^{*})\\
=\frac{(P_{A}-P_{Ai})}{\frac{1}{k_{G}}}=\frac{(P_{Ai}-P_{A}^{*})}{\frac{H}{k_{L}}}$$

ここで、加比の理を使用し、分母分子をそれぞれ足し合わせます。

$$N_{A}=\frac{(P_{A}-P_{A}^{*})}{\frac{1}{k_{G}}+\frac{H}{k_{L}}}$$

ここで、分母の係数について、気相側総括物質移動係数KGでおくことで二重境膜モデルの最終形になります。

$$N_{A}=K_{G}(P_{A}-P_{A}^{*})・・・(14)$$

$$\frac{1}{K_{G}}=\frac{1}{k_{G}}+\frac{H}{k_{L}}$$

KG:気相側の総括物質移動係数[mol/m2/s/Pa]

KGは伝熱で言うところの総括伝熱係数Uに近いですね。

同様に、他の総括物質移動係数についても立式することができます。まとめると、

$$N_{A}=K_{G}(P_{A}-P_{A}^{*})=K_{y}(y_{A}-y_{A}^{*})\\
=K_{L}(C_{A}^{*}-C_{A})=K_{x}(x_{A}^{*}-x_{A})・・・(15)$$

$$\frac{1}{K_{G}}=\frac{1}{k_{G}}+\frac{H}{k_{L}}$$

$$\frac{1}{K_{y}}=\frac{1}{k_{y}}+\frac{m}{k_{x}}$$

$$\frac{1}{K_{L}}=\frac{1}{Hk_{G}}+\frac{1}{k_{L}}$$

$$\frac{1}{K_{x}}=\frac{1}{mk_{y}}+\frac{1}{k_{x}}$$

KG:気相側の総括物質移動係数[mol/m2/s/Pa]

Ky:気相側の総括物質移動係数[mol/m2/s]

KL:液相側の総括物質移動係数[m/s]

Kx:液相側の総括物質移動係数[mol/m2/s]

となります。

平衡値はHenryの法則から算出することができますから、(15)式でガスがどのくらい吸収されるか、あるいは放散されるかを計算することができます。