概要
公害防止管理者大気1種に合格したブログ管理人が、過去の出題傾向から頻出分野を紹介するシリーズです。
やみくもに参考書を読んだり過去問を周回するよりは、最初にある程度出題傾向や頻度を把握した方が効果的です。
出題分野ごとに傾向を解説していますので、資格勉強の方針を決める参考になればと思います。
この記事では大規模大気特論についてまとめています。
出題分野
大規模大気特論での全体の出題分野を以下の表に示します。
出題分野 | 問題数 |
拡散現象一般 | 2~5 |
拡散濃度の計算法 | 1~2 |
大気環境影響評価のための拡散モデル | 0 |
大気環境濃度の予測手法 | 0~2 |
大規模設備の大気汚染防止対策の事例 | 4 |
合計 | 10 |
"大規模設備の大気汚染防止対策の事例"が、4問と安定して出題数が多いのが特徴です。
その他の分野は年によって出題数が変わることがありますが、ここ数年の各分野の出題数は安定しています。
ここ最近の各分野の出題数は
拡散現象一般:3問
拡散濃度の計算法:2問
大気環境影響評価のための拡散モデル:0問
大気環境濃度の予測手法:1問
大規模設備の大気汚染防止対策の事例:4問
となっています。
10問中6問取れば合格です。
全ての分野をきっちり勉強するのが理想ですが、出題頻度を考えると割に合わない分野もあります。
資格勉強にあまり時間を割けない人は、点を取りやすい分野に絞って勉強するのがよいでしょう。
拡散現象一般
ここ数年は毎年3問出題されている分野です。
煙の拡散や大気の状態に関する分野で、いかにも大気の公害防止試験らしい内容が出題されています。
出題数も多いので力をいれて勉強したいところです。
排煙拡散の一般的特性
排煙の一般的な特性について出題されています。
2年に1回くらいの出題頻度です。
一般常識で選択肢を絞れる場合もあり、そこまで難しい分野ではありません。
ただ、頻出用語は確実に覚えておきましょう。
特にダウンウォッシュ、最大着地濃度、最大着地濃度距離に関連する内容は出題頻度が高いです。
気温勾配・大気安定度と自由対流
気温の勾配や大気安定度に関する内容が出題されています。
気温勾配と煙の形による大気の状態はどちらも頻出なので、確実に覚えましょう。
下の表に煙の形と特徴をまとめました。
煙の形 | 大気の状態 | 特徴 |
ループ形 | 全層不安定 | 煙が上下に大きく蛇行し、煙源近くが瞬間的に 高濃度となる。晴れた日中によく見られる。 |
錐形 | 全層中立 または 弱安定 | 水平方向、垂直方向の煙の拡散度合いがほぼ同じで、 円錐状に広がる。ループ形より遠くに最大濃度地点が 現れる。 |
扇形 | 全層強安定 | 煙は扇状に水平方向へと広がる。晴れた夜間から 朝方によく現れる。 |
屋根形 | 下層安定 上層不安定 | 温度勾配が途中で折れていて、煙は安定な下層の 上を屋根形に広がる。 |
いぶし形 | 下層不安定 上層安定 | 煙は安定した上層へは拡散せず、下層で拡散し いぶされた状態になる。 |
風速勾配と強制対流
出題頻度はそれほど高くないですが、風速を算出する式について出題されたことがあります。
式の形は問題文に記載されていることが多いため、勉強していなくても一般常識で選択肢を絞れる可能性があります。
優先順位は低めですが、余裕があれば勉強しましょう。
大気境界層
様々な大気境界層について出題されています。
ほぼ毎年1問出題されており、重要な分野です。
出題範囲が広く、個人的には覚えるのに苦労しました。この分野に馴染みがある人はかなり楽だと思います。
よく出題される境界層について下の表にまとめました。
特徴 | |
混合層 | 日射によって暖められた地表面上に発生する。熱対流が活発で 温位は高さによらずほぼ一定となり、層の高さは地上1km程度に 達する。層の上には温度逆転層が発生し、上方への煙の拡散を 停止させるのでふた(リッド)のような働きをする。 |
中立境界層 (強制対流層) | 風の強いときや曇天のときは大気安定度が中立の境界層が 形成される。層内は乱流であるため、強制対流層とも呼ばれる。 層の厚さは一般に数百m以下である。 |
設置安定層 (温度逆転層) | 設置安定層は主に5つの原因で形成される。 (地形性逆転、前線性逆転、沈降性逆転、放射性逆転、 移流性逆転)。 逆転層中は強い安定状態となっていて、煙の拡散速度は遅い。 |
拡散濃度の計算法
ここ数年は毎年2問出題されています。
分野の名前の通り、計算問題が出題されることがあります。
しかし複雑な式は問題文で与えられることが多く、丸暗記する必要性のある式は簡単なものです。
計算方法をきちんと理解しておけば、むしろ簡単に正解できる分野です。
過去に出題頻度の高かった項目を下に示します。
モーゼスとカーソンの式
頻出です。
ただ、この式を使って計算するというよりは、式中のパラメータが変化したときに上昇高さΔHがどう変化するか問われることが多いです。
モーゼスとカーソンの式は問題文中に示されることが少ないので、式の形を覚える必要があります。
$$ΔH=\frac{C_{1}v_{g}D+C_{2}Q_{H}^{1/2}}{u}$$
ΔH:上昇高さ[m]、C1,C2:係数、vg:吐出速度[m/s]
QH:排出熱量[W]、u:煙突出口高さにおける風速[m/s]
コンカウの式
モーゼスとカーソンの式と形は似ていますが、出題頻度は低いです。
風速が分母にあるため、無風時は使用できないことを覚えておきましょう。
$$ΔH=\frac{0.0854Q_{H}^{1/2}}{u^{3/4}}$$
ΔH:上昇高さ[m]、QH:排出熱量[W]
u:煙突出口高さにおける風速[m/s]
ダウンウォッシュのある場合の計算式
ダウンウォッシュが発生する場合にはその分煙突高さを高くする必要があります。
一般に、排ガス吐出速度vgが風速の1.5倍より低い場合にダウンウォッシュが発生すると言われていますので、その条件のときは煙突高さを補正します。
vg<1.5uのとき
$$H'=H+2D(\frac{v_{g}}{u}-1.5)$$
vg≧1.5uのとき
$$H'=H$$
H:煙突高さ[m]、D:煙突直径[m]
vg:排ガスの吐出速度[m/s]、u:風速[m/s]
正規型プルーム式
煙の濃度を計算する式の1つで、煙の濃度が正規分布になることが特徴です。
計算式が与えられて濃度を計算する問題や、正規分布の特徴を答える問題が出題されています。
出題頻度は高めです。
$$C=\frac{Q}{2πuσ_{y}σ_{z}}{\rm{exp}}(-\frac{y^{2}}{2σ_{y}^{2}})[{\rm{exp}}(-\frac{(H_{e}-z)^{2}}{2σ_{z}^{2}})+{\rm{exp}}(-\frac{(H_{e}+z)^{2}}{2σ_{z}^{2}})]$$
C:煙流中心軸直下の地上濃度[ppm]、Q:排出量[m3/s]、u:風速[m/s]
σy:水平拡散幅[m]、σz:鉛直拡散幅[m]、He:有効煙突高さ[m]
z:鉛直方向の位置[m]
パスキルの拡散幅推定法
図から値を読み取って計算する問題が出題されています。
出題頻度が高めなので、必ず解けるようにしておきましょう。
上図はパスキルの安定度によるプルーム式の正規化着地濃度です。
パスキルの安定度分類を覚えておく必要があります。
上図はパスキルの安定度Dのときの、有効煙突高さが変化した場合の正規化着地濃度です。
こちらの方が出題頻度が高いですが、計算式も簡単なのでボーナス問題です。
大気環境影響評価のための拡散モデル
ここ10年ではこの分野からの出題はありませんでした。
他の分野の勉強に力を入れましょう。
大気環境濃度の予測手法
ほぼ毎年1問出題されています。
大気シミュレーションモデルについて大まかな特徴が問われます。
あまり細かい内容は出題されていないので、過去問でどのくらいのレベルが出題されているか確認してから参考書を読むのがよいでしょう。
予測手法の分類
計算モデルについて出題されています。
特にそのモデルが数値解モデルか解析解モデルかを問う問題は出題されやすいので覚えておきましょう。
前の"拡散濃度の計算法"の分野で出てきたモデルは解析解モデルに該当します。ちなみに数値解モデルはコンピュータに微分方程式を解かせるような複雑なモデルが該当します。
各大気環境シミュレーションの特徴
様々な大気環境シミュレーションモデルについて出題されています。
私たちの日常に近い状況になるほど複雑な計算となり、数値解モデルが使用されています。
下の表に主なシミュレーションモデルをまとめました。
シミュレーション モデル | |
平坦な地形に立地している施設の 高煙突からの煙の拡散 | 正規形プルーム拡散式 |
複雑地形上での拡散 | VALLEYモデル |
光化学大気汚染モデル | 格子モデル 流跡線モデル |
全地球環境モデル | 大循環モデル(GCM) |
高密度ガス拡散モデル | 数値解モデルなど |
道路沿道に大きな障害物のない直線道路 を対象とした自動車排出ガス拡散モデル | HIWAYモデル CALINEモデル |
ストリートキャニオン内のモデル | STREETモデル |
大きな交差点や高速道路の インターチェンジ | 数値解モデル |
建屋後流拡散モデル | ISCモデル NRCモデル PRIMEモデル |
沿岸域での内部境界層による ヒュミゲーション時の拡散モデル | Lyons and Cole モデル |
風洞実験
出題頻度は低いですが、風洞実験に関する内容が出題されています。
とりあえず後回しにしていい分野だと思います。
大規模設備の大気汚染防止対策の事例
石油、発電設備、セメント、ごみ焼却設備、鉄鋼とこれら5つの分野全般を合わせた6つの中から4問が出題されることが多いです。
この試験で最も問題数が多く、かつ出題範囲があまり広くないので点を取りやすい分野です。
石油
石油や製油所に関する内容が出題されています。
特に頻出なのは、ガソリン等の揮発油の成分に関する内容です。
ガソリンの規格値を下の表にまとめました。
種類 | 規格項目 | 規格値 |
ガソリン | 鉛 | 検出されないこと |
硫黄分 | 0.001質量%以下 | |
ベンゼン | 1体積%以下 | |
メタノール | 検出されないこと | |
酸素分 | 1.3質量%以下 |
発電設備
発電設備の排煙処理に関する内容が出題されています。
特に石炭火力発電の排煙処理システムは出題頻度が高いので、必ず覚えておきましょう。
下の表にシステムの構成順を簡単にまとめました。
システム構成順 | |
高温形電気 集じん装置 | ボイラー → 集じん装置 → 脱硝装置 →エアヒーター → GGH → 脱硫装置 → GGH → 煙突 |
低温形電気 集じん装置 | ボイラー → 脱硝装置 →エアヒーター → 集じん装置 → GGH → 脱硫装置 → GGH → 煙突 |
低低温形電気 集じん装置 | ボイラー → 脱硝装置 →エアヒーター → GGH → 集じん装置 → 脱硫装置 → GGH → 煙突 |
セメント
セメント工場における大気汚染防止対策について出題されています。
他の分野より若干出題頻度が低い気がしますが、手を抜くべきではないです。
セメント関連で特に頻出なのが、セメント製造工程自体が高い脱硫率を有しているため、特別な脱硫装置が不要である点です。
ごみ焼却設備
ごみ焼却設備に関する内容が出題されています。
他の分野と比較して出題範囲が広く、勉強するのに時間がかかります。しかし出題頻度が高いので真面目に勉強して覚えましょう。
過去に出題されたことのある、都市ごみを焼却した際に発生する有害物質について下の表にまとめました。
有害物質 | 発生濃度 |
塩化水素 | 250~1000ppm |
SOx | 約60ppm(50~150ppm) |
NOx | 80~200ppm |
水銀 | 0.1~0.5mg/m3N |
ばいじん | 2~5g/m3N |
ダイオキシン類 | 1~10ng-TEQ/m3N |
鉄鋼
鉄鋼プロセスに関する内容が出題されています。
特に脱硫、脱硝に関して出題されやすいので勉強しておきましょう。
よく出る内容について下の表にまとめました。
特徴 | |
SOxの発生源 | 焼結炉からの発生が全体の7割前後を 占める。 |
コークス炉ガスの脱硫 | 湿式脱硫法が主流だが、近年は 乾式脱硫法の導入例もある。 |
焼結炉の脱硫 | 湿式:石灰-石こう法、水酸化マグネシウムスラリー法 乾式:活性炭吸着法 |
脱硝 | アンモニア接触還元法 |
まとめ
おさらいで全体の出題範囲を下の表に示します。
出題分野 | 問題数 |
拡散現象一般 | 2~5 |
拡散濃度の計算法 | 1~2 |
大気環境影響評価のための拡散モデル | 0 |
大気環境濃度の予測手法 | 0~2 |
大規模設備の大気汚染防止対策の事例 | 4 |
合計 | 10 |
問題数が多く、かつ勉強しやすい"大規模設備の大気汚染防止対策の事例"で点数を稼ぐのがよいと思います。
詳細な内容については参考書や過去問で繰り返し確認して覚えましょう。