概要
二重境膜説はガス吸収におけるモデルの1つです。
上図に示すように、気液界面の両側にはそれぞれ境膜が存在し、成分Aが気相から液相に溶解する際にはこの境膜を通過します。
境膜内は常に層流に保たれているため、ガス吸収の速度は成分Aが境膜を通過する速度が最も遅く、律速となります。
この現象を式で表すことで、ガス吸収を定量的に計算できるようになり、現在では吸収塔の設計の基礎理論として使用されています。
この記事では二重境膜説の導出について紹介します。
二重境膜説の導出
概要の図で示したような気液界面について式を立てていきます。
まず液相での拡散を考えます。Fickの法則から、液相での物質拡散は
$$N_{A}=D_{LA}(\frac{dC_{A}}{dz})=CD_{LA}(\frac{dx_{A}}{dz})・・・(1)$$
NA:モル流束[mol/m2/s]、DLA:拡散係数[m2/s]
CA:成分Aの濃度[mol/m3]、xA:成分Aのモル分率[-]
(1)式で表されます。
バルク液の濃度をCA、気液界面での濃度をCAi、バルク液のモル分率をxA、気液界面でのモル分率をxAi、境膜の厚みをδLとすると、
$$N_{A}=\frac{D_{LA}}{δ_{L}}(C_{Ai}-C_{A})=\frac{CD_{LA}}{δ_{L}}(x_{Ai}-x_{A})$$
ここで、液相側物質移動係数kL、kxを導入します。
$$k_{L}=\frac{D_{LA}}{δ_{L}}$$
$$k_{x}=\frac{CD_{LA}}{δ_{L}}$$
kL:液相側物質移動係数[m/s]、kx:液相側物質移動係数[mol/m2/s]
定性的には拡散係数が大きく、境膜厚みが小さいほど物質移動係数が大きくなり、物質移動が促進されることになります。
kL、kxにより、
$$N_{A}=k_{L}(C_{Ai}-C_{A})=k_{x}(x_{Ai}-x_{A})・・・(2)$$
(2)式となります。
続いて気相における拡散を考えます。Fickの法則から、気相での物質拡散は
$$N_{A}=CD_{GA}(\frac{dy_{A}}{dz})・・・(3)$$
NA:モル流束[mol/m2/s]、DGA:拡散係数[m2/s]
CA:成分Aの濃度[mol/m3]、yA:成分Aのモル分率[-]
(3)式となります。(3)式の濃度Cについて理想気体の状態方程式を適用すると、
$$C=\frac{n}{V}=\frac{P}{RT}・・・(4)$$
(4)式となります。
(1)式に(4)式を代入すると、
$$N_{A}=\frac{D_{GA}}{RT}(\frac{dP_{A}}{dz})・・・(5)$$
(5)式となります。
バルクガスの圧力をPA、気液界面での分圧をPAi、バルクガスのモル分率をyA、気液界面での気相モル分率をyAi、境膜の厚みをδGとすると、(3)、(5)式から、
$$N_{A}=\frac{D_{GA}}{RTδ_{G}}(P_{A}-P_{Ai})=\frac{CD_{GA}}{RTδ_{G}}(y_{A}-y_{Ai})$$
となります。ここで、気相側物質移動係数kG、kyを導入します。
$$k_{G}=\frac{D_{GA}}{δ_{G}}$$
$$k_{y}=\frac{CD_{GA}}{δ_{G}}$$
kG:気相側物質移動係数[mol/m2/s/Pa]、ky:気相側物質移動係数[mol/m2/s]
kG、kyにより、
$$N_{A}=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=k_{y}(y_{A}-y_{Ai})・・・(6)$$
(6)式となります。(2)式と(6)式をまとめると、
$$N_{A}=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=k_{y}(y_{A}-y_{Ai})\\
=k_{L}(C_{Ai}-C_{A})=k_{x}(x_{Ai}-x_{A})・・・(7)$$
(7)式となります。
(7)式においては、測定することが困難である、境膜における分圧PAiや濃度CAi、モル分率yAi、xAiが含まれています。
そこで、Henryの法則によって平衡値を考えることにより、境膜における値を消します。
まず、境膜においてHenryの法則を適用すると、
$$P_{Ai}=HC_{Ai}・・・(8)$$
$$y_{Ai}=mx_{Ai}・・・(9)$$
H:ヘンリー定数[Pa・m3/mol]、m:ヘンリー定数[-]
次に、液中の成分Aの濃度CA、モル分率xAに平衡なガス分圧PA*、ガスモル分率yA*は、
$$P_{A}^{*}=HC_{A}・・・(10)$$
$$y_{A}^{*}=mx_{A}・・・(11)$$
次に、ガス中の成分Aの分圧PA、モル分率yAに平衡な液濃度CA*、液モル分率xA*は、
$$P_{A}=HC_{A}^{*}・・・(12)$$
$$y_{A}^{*}=mx_{A}^{*}・・・(13)$$
となります。ここで、(7)式においてバルク濃度と平衡濃度の差を考え、(8)、(10)式を(7)式に代入します。
$$N_{A}=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=k_{L}(C_{Ai}-C_{A})\\
=k_{G}(P_{A}-P_{Ai})=\frac{k_{L}}{H}(P_{Ai}-P_{A}^{*})\\
=\frac{(P_{A}-P_{Ai})}{\frac{1}{k_{G}}}=\frac{(P_{Ai}-P_{A}^{*})}{\frac{H}{k_{L}}}$$
ここで、加比の理を使用し、分母分子をそれぞれ足し合わせます。
$$N_{A}=\frac{(P_{A}-P_{A}^{*})}{\frac{1}{k_{G}}+\frac{H}{k_{L}}}$$
ここで、分母の係数について、気相側総括物質移動係数KGでおくことで二重境膜モデルの最終形になります。
$$N_{A}=K_{G}(P_{A}-P_{A}^{*})・・・(14)$$
$$\frac{1}{K_{G}}=\frac{1}{k_{G}}+\frac{H}{k_{L}}$$
KG:気相側の総括物質移動係数[mol/m2/s/Pa]
KGは伝熱で言うところの総括伝熱係数Uに近いですね。
同様に、他の総括物質移動係数についても立式することができます。まとめると、
$$N_{A}=K_{G}(P_{A}-P_{A}^{*})=K_{y}(y_{A}-y_{A}^{*})\\
=K_{L}(C_{A}^{*}-C_{A})=K_{x}(x_{A}^{*}-x_{A})・・・(15)$$
$$\frac{1}{K_{G}}=\frac{1}{k_{G}}+\frac{H}{k_{L}}$$
$$\frac{1}{K_{y}}=\frac{1}{k_{y}}+\frac{m}{k_{x}}$$
$$\frac{1}{K_{L}}=\frac{1}{Hk_{G}}+\frac{1}{k_{L}}$$
$$\frac{1}{K_{x}}=\frac{1}{mk_{y}}+\frac{1}{k_{x}}$$
KG:気相側の総括物質移動係数[mol/m2/s/Pa]
Ky:気相側の総括物質移動係数[mol/m2/s]
KL:液相側の総括物質移動係数[m/s]
Kx:液相側の総括物質移動係数[mol/m2/s]
となります。
平衡値はHenryの法則から算出することができますから、(15)式でガスがどのくらい吸収されるか、あるいは放散されるかを計算することができます。