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化学工学 蒸留

【ウィーピング】を解説:蒸留塔トレイからの液漏れ現象

2021年2月13日

概要

棚段塔において、トレイの小孔(ガスの通り穴)から液が漏れる現象をウィーピングといいます。

ウィーピングが起こっても塔を運転することはできますが、トレイ上の液深が低くなり気液接触の効率が悪化してしまいます。

ウィーピングの度合いがさらに増加すると小孔からの液漏れが激しくなり、トレイ上に液深が立たなくなります。

このような現象をダンピングといい、発生するポイントをダンプポイントといいます。

ダンピングが起こると塔内でほとんど全く気液接触できなくなり、分離ができず運転不能となります。

普通は、ウィーピングが起こらない範囲で運転できるようトレイを設計します。

トレイによる液の漏れやすさ

トレイの種類によりウィーピングのしやすさは変わってきます。

構造上、全くウィーピングしないトレイもあります。

Sieve Tray

"改訂新版トレイ・パッキング"より引用

単純にトレイに穴が開いただけの構造であり、最も液が漏れやすいです。

ウィーピングしないためにガス速度を大きめに設定する必要があります。

Bubble Cap Tray

"改訂新版トレイ・パッキング"より引用

ガスがのぼってくる穴にライザー管を設置し、その上にキャップを被せた構造です。

ライザー管により最小限の液深が保たれるため、ウィーピングしません。

塔の運転を停止したときにトレイ上に液が残ってしまうので、あえて液抜き用の穴を別途設置します。

Valve Tray

"改訂新版トレイ・パッキング"より引用

小孔をカバープレートで覆っているトレイです。カバープレートは完全に固定させず、ガス流速によって動くようになっています。

ガス流速が小さいときはカバーが穴に被さっているのでウィーピングしません。
ガス流速が大きいときはガスがカバーを押し上げて液中に噴き出します。

このような機構により、低圧損で運転範囲も広いのが特徴です。

カバープレートの形状はトレイメーカー各社で異なっており、様々な製品があります。

有名なものは、Koch-Glitsch社が開発したFlexi tray(フレキシトレイ)やBallast tray(バラストトレイ)が挙げられます。

ウィーピングの計算

ウィーピングは現象としてかなり複雑で、理論的に計算することは困難です。

汎用的なトレイであるシーブトレイに関しては実験式が発表されていますので、ウィーピングするかどうかの計算をすることができます。

"絵とき蒸留技術基礎のきそ"より引用

上図にトレイ上の液の模式図を示します。

トレイ上の清澄液ヘッドhcがトレイを通過するガスの圧力損失より大きくなるとウィーピングが起こります。

単純に言うと、上から下へ落ちようとする液の圧力と、下から上へ上がるガスの圧力のどっちが大きいか、という話です。

液の圧力は清澄液ヘッドhcですが、さらに細かく表すと、

$$h_{c}=h_{w}+h_{ow}・・・(1)$$

hw:出口堰の高さ、how:堰上にある液の高さ

上式となります。

ガスの圧力損失hgは液が無い状態のときの乾き圧力損失と、ガスが液を通過するときの圧力損失の和となります。

$$h_{g}=h_{d}+h_{σ}・・・(2)$$

hd:乾き圧力損失、hσ:ガスが液を通過するときの圧力損失

よって、

$$h_{c}>h_{g}・・・(3)$$

であればウィーピングすることになります。

(1)、(2)式のパラメータを実験式や相関図から計算すれば、ウィーピングするかどうかを判定できます。

ただし問題なのが、ウィーピングが起こるトレイのガス穴近傍の圧力損失と、(1)、(2)式で表されるようなトレイ全体での圧力損失は値が異なってくるということです。

仮に(3)式が成り立ったとしても、ガス穴近傍の圧力損失でみるとhgの方が高い場合にはウィーピングしません。

そこで(1)、(2)式からウィーピング現象を表現できるよう、実験等でガス穴近傍の圧力損失とトレイ全体の圧力損失の相関を導く必要があります。

ウェアは経験的に

$$h_{g}=f(h_{c})$$

となるとして、ガスの圧力損失と液の清澄液ヘッドの間に相関関係を導きました。

"絵とき蒸留技術基礎のきそ"より引用

上図に相関関係の図を示します。
縦軸が(2)式、横軸が(1)式のグラフとなっています。

横軸の値を算出し、縦軸の値を読み取ります。
この縦軸の値はちょうど液とガスの圧力が釣り合っている(hc=hg)ことを意味します。

その後、別途(2)式の値を実験式から算出し、相関図から読み取った値より大きければウィーピングすると判断できます。

まず、出口堰の高さhwについては既設プラントであれば図面からわかりますし、これから設計するのであれば自分で決める値です。

続いて堰上にある液の高さhowは、

$$h_{ow}=0.48F_{w}(\frac{Q_{L}}{l_{w}})^{0.67}・・・(4)$$

Fw:係数、QL:液流量[gal/min]、lw:堰長さ[in]

(4)式から算出できます。

係数Fwについては下のグラフから読み取ります。

"絵とき蒸留技術基礎のきそ"より引用

これで(1)式の値が求まるので、相関図から液ガスの圧力が釣り合うときのhgがわかります。

続いて、別途hdとhσを求めます。

hd

$$h_{d}=0.186(\frac{u_{h}}{C_{0}})^{2}\frac{ρ_{V}}{ρ_{L}}・・・(5)$$

uh:ガス穴通過速度[ft/s]、C0:係数
ρV:ガス密度[kg/m3]、ρL:液密度[kg/m3]

(5)式から算出できます。

係数C0は下のグラフから読み取ります。

"絵とき蒸留技術基礎のきそ"より引用

最後にhσ

$$h_{σ}=\frac{0.04σ}{ρ_{L}d_{h}}・・・(6)$$

σ:表面張力[dyn/cm]、ρL:液密度[kg/m3]、dh:穴径[in]

(6)式で算出できます。

(5)、(6)式で算出したhd+hσが相関図から読み取ったhd+hσを超えているとウィーピングする、と判断できます。

その場合にはガス流速を見直す、トレイの種類を変更するなどの対応が必要となります。