概要
(1)式で表される平衡定数Kと温度T、標準反応エンタルピーΔH0の関係をファントホッフ(van't Hoff)の式といいます。
$$\frac{d\ {\rm{ln}}K}{dT}=\frac{ΔH^{0}}{RT^{2}}・・・(1)$$
K:平衡定数[-]、ΔH0:標準反応エンタルピー[J/mol]
T:温度[K]、R:気体定数[J/(mol・K)]
(1)式を最も有効に活用できるのは、標準状態(25℃)以外の温度の平衡定数を求めるときでしょう。
標準状態(25℃)における平衡定数K0は、標準状態におけるギブス自由エネルギー変化ΔG0の関係式である(2)式から求めることができます。
$${\rm{ln}}K^{0}=-\frac{ΔG^{0}(T_{0})}{RT_{0}}・・・(2)$$
標準反応エンタルピーΔH0が考慮している温度範囲で一定であれば、(1)式は簡単に積分することができます。
温度T0~Tで積分すると、
$${\rm{ln}}\frac{K_{T}}{K_{T_{0}}}=-\frac{ΔH^{0}}{R}(\frac{1}{T}-\frac{1}{T_{0}})・・・(3)$$
(3)式となります。
T0=298.15K(25℃)、KT0=K0とすれば、任意の温度Tにおける平衡定数KTを算出することができます。
ファントホッフ式の導出
ファントホッフの式である(1)式を導出してみましょう。
まず、ギブス自由エネルギーの定義より、
$$G=H-TS・・・(4)$$
(4)式が成り立ちます。
次にギブス自由エネルギーに関する熱力学の相互関係式より、
$$dG=-SdT+VdP・・・(5)$$
(5)式が成り立ちます。
ここで定圧変化を仮定すると、dP=0となります。
このとき(5)式は、
$$S=-\frac{dG}{dT}・・・(6)$$
(6)式となります。(6)式を(4)式に代入すると、
$$G=H+T\frac{dG}{dT}$$
$$TdG-GdT=-HdT・・・(7)$$
(7)式となります。
(7)式の両辺をT2で割ると、
$$\frac{TdG-GdT}{T^{2}}=-H\frac{dT}{T^{2}}・・・(8)$$
(8)式となります。
ここで、(8)式の左辺は商の積分公式より、
$$\frac{TdG-GdT}{T^{2}}=d(\frac{G}{T})・・・(9)$$
(9)式となります。したがって、
$$d(\frac{G}{T})=-H\frac{dT}{T^{2}}$$
$$[\frac{∂(\frac{G}{T})}{∂T}]_{p}=-\frac{H}{T^{2}}・・・(10)$$
(10)式となります。この(10)式をギブスーヘルムホルツの式といいます。
標準状態におけるギブスエネルギー変化量について適用すると、
$$[\frac{∂(\frac{ΔG^{0}}{T})}{∂T}]_{p}=-\frac{ΔH^{0}}{T^{2}}・・・(11)$$
(11)式となります。
あとは、(11)式に(12)式を代入すると、
$${\rm{ln}}K=-\frac{ΔG^{0}}{RT}・・・(12)$$
$$\frac{d\ {\rm{ln}}K}{dT}=\frac{ΔH^{0}}{RT^{2}}・・・(1)$$
(1)式が導出できました。
標準反応エンタルピーが一定でない場合
ファントホッフの式から導出される(3)式は、標準反応エンタルピーΔH0が温度に依存せず一定であることを仮定していました。
もし標準反応エンタルピーΔH0が温度依存性を持つ場合は、ΔH0を温度の関数として表現し積分する必要があります。
キルヒホッフの式からΔH0は、
$$ΔH^{0}(T)=ΔH^{0}(T_{0})+\int_{T_{0}}^{T}ΔCpdT・・・(13)$$
ΔCp:生成物と反応物の定圧比熱差
(13)式で表されます。ΔCpは通常、
$$ΔCp=Δa+ΔbT+ΔcT^{2}・・・(14)$$
Δa,Δb,Δc:生成物と反応物の定圧比熱の定数差
(14)式のような温度の関数で表されます。
(14)式を(13)式に代入し積分すると、
$$ΔH^{0}(T)=ΔH^{0}(T_{0})+Δa(T-T_{0})+\frac{Δb}{2}(T^{2}-{T_{0}}^{2})+\frac{Δc}{3}(T^{3}-{T_{0}}^{3})・・・(15)$$
(15)式となります。
この(15)式を(1)式に代入し、T=T*~Tまで積分すると、
$$\begin{align}\frac{{\rm{ln}}K(T)}{{\rm{ln}}K(T_{0})}&=\frac{1}{R}(ΔH^{0}(T_{0})-ΔaT_{0}-\frac{Δb}{2}(T^{2}-{T_{0}}^{2})-\frac{Δc}{3}(T^{3}-{T_{0}}^{3}))\int_{T_{0}}^{T}\frac{1}{T^{2}}dT\\&+\frac{Δa}{R}\int_{T_{0}}^{T}\frac{1}{T}dT+\frac{Δb}{2R}\int_{T_{0}}^{T}dT+\frac{Δc}{3R}\int_{T_{0}}^{T}TdT\\&=-\frac{1}{R}(ΔH^{0}(T_{0})-ΔaT_{0}-\frac{Δb}{2}(T^{2}-{T_{0}}^{2})-\frac{Δc}{3}(T^{3}-{T_{0}}^{3}))(\frac{1}{T}-\frac{1}{T_{0}})\\&+\frac{Δa}{R}{\rm{ln}}\frac{T}{T_{0}}+\frac{Δb}{2R}(T-T_{0})+\frac{Δc}{6R}(T^{2}-{T_{0}}^{2})・・・(16)\end{align}$$
(16)式になります。
したがって、ある温度T0における標準反応エンタルピーΔH0(T0)、平衡定数K(T0)と、生成物・反応物の比熱の定数差Δa、Δb、Δcがわかれば任意の温度Tにおける平衡定数K(T)を求めることができます。
おわりに
ファントホッフの式について解説しました。
各パラメータの温度依存性をよく確認してから使用するようにしましょう。