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化学工学 撹拌

【撹拌翼】の種類や特徴を解説:小型翼・大型翼の使い分けは?

2021年3月3日

概要

撹拌・混合を目的としてタンクや槽に取り付けられており、回転することで液に流動を与える装置のプロペラ部分を撹拌翼といいます。

物質がよく混ざるかどうかに影響を与える因子は様々ありますが、その中でも撹拌翼は最も大きな影響を及ぼす因子の1つです。

撹拌翼の選定が悪いと、撹拌機の回転数を限界まで上げても混合性能が改善しないことがよくあります。

あるいは設計当初の条件であれば適していた撹拌翼でも、製品のグレード変更に伴い粘度が変化することで混合が悪くなるケースもあります。

そのような効率の悪い撹拌仕様で、無理やり顧客の承認を取ってしまうと後が大変です。

歩留まりは悪くなりますし、かといって勝手に撹拌条件を変えるわけにもいきません。
(4M変更に引っかかりますから)

仮にその製品が売れて増産するときでも、撹拌機の仕様は効率の悪いまま新系列を建てなければならない、といったことが弊社でもよくあります。

したがって、特に撹拌翼については検討初期の段階で適切なものを選定することが非常に重要です。

撹拌翼の種類

撹拌翼は混ぜる物質や目的によって適した形状があり、メーカーは様々な撹拌翼を作成しています。

撹拌翼は様々なカテゴリに分けることができますが、ここでは小型翼と大型翼に分けて説明します。

また、各翼のフローパターンについて載せています。

撹拌翼のフローパターンとは主に槽の垂直断面における流速ベクトルのことを示します。
これは垂直断面における上下の流れが撹拌翼の形状で最も特徴が出るためです。

槽の水平断面でみても、回転方向に液が旋回しているフローになることはどの翼も共通しており特徴がないので、あまり比較されません。

小型翼

低粘度液に使用されることがほとんどです。

小型翼は基本的にバッフルを設置して使用するため、フローパターンの図も板バッフルを設置しています。

大型翼と比較して安価なため、小型翼で済むなら小型翼で運転した方が良いです。

平パドル翼

薄い平板(パドル)を取り付けた撹拌翼です。
パドルの枚数は2枚か4枚であることが多いです。

構造が単純なため作りやすく、ラボスケールから工業生産まで幅広く使用されています。

特にラボスケールにおいては平パドル翼で様々な実験データが取得されており、動力や伝熱に関する実験式が豊富です。

平パドル翼のフローパターンを上図に示します。

翼から水平方向に液が吐出され、壁面に当たり上下に流れが分かれるのが特徴です。
そのため、撹拌翼の上側と下側で流れが分割されてしまいます。

この特徴は均一混合の観点から言えばデメリットです。

例えば上から投入した試薬が下側の領域に行きづらいため濃度が均一になりにくい、という現象が起こります。

ただ、時間をかければ最終的には均一に混合されるため、反応速度が遅い系や混合時間が長くても気にならない系に向いています。

傾斜パドル翼(ピッチドパドル翼)

薄い平板を傾斜を付けて取り付けた撹拌翼です。

傾斜の角度は45°か30°が一般的で、液をかき下げるように回転するよう取り付けます。

平パドル翼と同様に構造が簡単なため、ラボから実機まで幅広く使用されています。

傾斜パドル翼のフローパターンを上図に示します。

翼の傾斜が付いている斜め下方向に液を吐出します。
吐出された液は壁面にあたり上昇します。吐出流の勢いがなくなると内側に戻り元の撹拌翼の位置に戻ってきます。

平パドル翼と違って、上下で流れが分割されることがないため良好な混合となります。

もっとフローパターンの良い撹拌翼はありますが、メーカーオリジナルの翼でコストが高いことが多く、傾斜パドル翼で十分な場合が多いです。

自分が設計担当者であれば好んで採用したい翼の1つです。

デメリットは液高さが高いときに翼1段では上部が混ざりにくいことと、翼の真下がデッドスペースになることです。

しかし、液高さがある場合には傾斜パドル翼を多段設置すれば基本的に問題ありません。

また、翼の真下のデッドスペースは回転数を上げることである程度緩和されます。

固液撹拌で底に沈んでいる密度の大きい粒子を分散させるような系の場合には、違う翼を使用した方がよいかもしれません。

ラシュトンタービン翼(ディスクタービン翼)

円板(ディスク)を水平に取付け、その円板にパドルを複数枚垂直に取り付けた形状をしています。
パドルの枚数は6枚が多いです。

円板には撹拌槽の下から吹き込んだガスを一時的に受け止める役割があります。
受け止められたガスは円板の外側へ移動し、パドル翼で細かい泡に砕かれることで気液の接触効率が向上します。

ラシュトンタービン翼のフローパターンを上図に示します。

平パドル翼とほぼ同一のフローパターンとなります。

円板の効果で平パドル翼よりガスのホールドアップを大きくできるので、気液撹拌に使用されることが多いです。

プロペラ翼

名前の通り船のプロペラのような形状をした撹拌翼です。
プロペラの枚数は3枚か4枚が多いです。

滑らかな曲率を持った形状であり、パドル翼と比較して構造が少し複雑です。

流動解析(CFD)を行なう際にはCADでモデルを作る必要があるのですが、撹拌翼の中でもプロペラ翼はダントツに作りづらく、できれば解析したくない翼です。

プロペラ翼のフローパターンを上図に示します。

翼のほぼ真下に吐出して循環流れを形成します。

槽底の流れが速いことから、沈降している粒子を巻き上げるような固液撹拌の用途に向いています。

滑らかな形状であるため動力が小さい点もメリットです。

ただ製作上の都合か、大きいサイズの撹拌槽に採用されている例を見たことがありません。
小型の撹拌槽の使用例が多いイメージです。

3枚後退翼(ファウドラー翼)

平板を湾曲させたものを3枚取り付けた撹拌翼です。
ファウドラー翼という名前は(株)神鋼環境ソリューションの商品名です。

撹拌槽の底ぎりぎりに設置して撹拌するのが特徴です。

3枚後退翼のフローパターンを上図に示します。

ゆるい上下循環流を形成します。

また、バッフル効果が小さい条件で撹拌することが多く、旋回流が強いのが特徴です。
(上図は板バッフルですが、実際は棒バッフルやフィンガーバッフルを使用することが多いです。)

そのため液面が渦を巻いて凹むことがあります。

低動力で粒子を浮遊させることができるため、固液撹拌によく使用されます。

大型翼

主に中粘度~高粘度液の撹拌に使用します。

液粘度が大きいと翼で運動量を与えてもすぐに減衰して流動しなくなるため、物理的に翼を大きくして撹拌せざるを得なくなります。

アンカー翼

名前の通りアンカー(錨)の形をした撹拌翼です。

翼径d/槽径Dの比が0.8~0.9くらいあるのが普通で、かなり大きい翼です。

アンカーのボトム形状は撹拌槽の形状に合わせて作成され、平底であれば直角、半楕円や皿底であれば緩やかなカーブを持たせます。(下図は半楕円形状です。)

アンカー翼のフローパターンを上図に示します。

基本的に旋回流が支配的で、上下の流れはほとんどありません。
垂直断面では、ほとんど吐出がないように見えるのがアンカー翼の特徴です。

高粘度用途の大型翼の中では構造が簡単ですが、あまり性能がよくないので自分は好んで使いたくありません。

ヘリカルリボン翼

螺旋状に薄板を化工して支持棒に巻き付けた撹拌翼です。

螺旋状の薄板(リボン)は1つ設置したタイプと2つ設置したタイプがあります。
リボンを2つ設置したものを特にダブルヘリカルリボン翼と呼びます。

構造がとても複雑なため、アンカー翼と比べると高価です。

ダブルヘリカルリボン翼のフローパターンを上図に示します。

リボンで液をかき下げるパターンとかき上げるパターン両方ありますが、どちらかというとかき下げで使用することが多いと思います。

リボンによって上下の液循環が生まれるため、アンカー翼よりも混合性は良いです。

高粘度液で混合性を重視するならオススメです。

スクリュー翼

ヘリカルリボンと同様に螺旋状の薄板が取り付けられていますが、こちらは撹拌軸の周りに取り付けられており、翼径が小さいのが特徴です。

用途として、液の撹拌よりもスクリューフィーダーのような固体・粉体輸送に使われることが多いイメージです。

スクリュー翼のフローパターンを上図に示します。

スクリュー翼の翼径に合わせた筒状の案内板(ドラフトチューブ)を設けて循環流れを作るのが一般的です。

液を流動させるというよりは押し出す機能であり、サイズが小さい高粘度撹拌に向いていると思います。

MAXBLEND

住友重機械プロセス機器(株)が上市している大型撹拌翼です。

国内で最初に大型の平板を使用した撹拌翼を作成したのがこの会社です。

MAXBLENDのフローパターンを上図に示します。

下側の大きな平板で強い吐出を生み出し循環流を形成しています。
上側の格子部分では通過する液を細かく細分化する効果があると言われています。

また大型翼全般のメリットとして、同一Pv値であれば回転数が下がるので、せん断力を液体にあまりかけずに混合することができます。

そのため、晶析や重合などせん断に弱い粒子を扱う系に向いています。

加えて粘度範囲も低粘度~中粘度の液体であれば撹拌することができるため、重合のように途中で粘度変化する系にも対応できます。

ただし、あまりにも高粘度の流体に使用すると混合性能が落ちるため、アンカー翼やヘリカルリボン翼など別の翼を選定した方が良いでしょう。

スーパーミックス(MR205)

佐竹化学機械工業(株)が上市しているスーパーミックスシリーズの1つです。

台形の大きな板に少しすき間を空けて小型の板を設置しています。
大型の翼と小型の翼の間に縮流が生じ、強い吐出流が生まれることが特徴です。

スーパーミックスのフローパターンを上図に示します。

台形の翼は上側を小さく下側を大きく作ることで上下の吐出力に差が生じ、吐出力の強い下側から上側への上下流が生まれます。

MAXBLENDと同様に混合性能が非常に良いです。

フルゾーン

(株)神鋼環境ソリューションが上市している大型撹拌翼です。

大きな2枚のパドル翼を位相差を付けて立体的な配置にしているのが特徴です。

フルゾーンのフローパターンを上図に示します。

局所的には上下それぞれの翼で小さな循環流を形成し、かつ上下に大きな循環流も存在するため槽全体の均一混合も容易に行えます。

この翼も他の大型翼と同様に広い粘度範囲に適用でき、低せん断が必要とされる系に向いています。