概要
二重境膜説において、気相側の物質移動係数kG[mol/m2/s/atm]と充填物の比表面積a[m2/m3]の積を気相側物質移動容量係数kGaといいます。
$$\frac{1}{K_{G}a}=\frac{1}{k_{G}a}+\frac{H}{k_{L}a}・・・(1)$$
KG:気相側の総括物質移動係数[kmol/m2/s/atm]
H:ヘンリー定数[atm・m3/kmol]、kL:液相側の物質移動係数[m/s]
気相側の総括容量係数KGaと気相側物質移動容量係数kGaの関係は(1)式で表されます。
液体に溶けやすい気体を扱う場合、液相抵抗が非常に小さく気相側の抵抗が支配的となるため、
$$K_{G}a≒k_{G}a・・・(2)$$
(2)式のようにみなすことができます。
また、気相側の総括容量係数KGaは(3)式のように移動単位高さHOGを算出するのに使用します。
$$H_{OG}=\frac{G}{K_{G}a・P}・・・(3)$$
HOG:移動単位高さ[m]、G:塔断面積当たりのガス流量[kmol/(m2・h)]
KGa:気相側物質移動容量係数[kmol/(m3・h・atm)]、P:気相圧力[atm]
移動単位高さHOGから、
$$Z=N_{OG}×H_{OG}・・・(4)$$
Z:充填高さ[m]、NOG:移動単位数[-]
(4)式を使用して充填塔の充填高さZを算出することができます。
したがって、気相側物質移動容量係数kGaはガス吸収塔の仕様を決めるのに必要なパラメータです。
その一方で、kGaは蒸留塔設計で使用する気液平衡物性と違って測定データが少ないです。自分が設計したい吸収塔とぴったり一致するkGaデータはほとんどありません。
そこで本記事では既知のkGaから未知のkGaを推算する式を紹介します。
文献データ
まず、既知の文献データを紹介します。
ガス | 吸収液 | kGa [kmol/(m3・h) |
HCl | H2O | 353 |
NH3 | H2O | 337 |
Cl2 | 8% NaOH | 272 |
SO2 | 11% Na2CO3 | 224 |
HF | H2O | 152 |
Br2 | 5% NaOH | 131 |
HCN | H2O | 114 |
HCHO | H2O | 114 |
HBr | H2O | 98 |
H2S | 4% NaOH | 96 |
SO2 | H2O | 59 |
CO2 | 4% NaOH | 38 |
Cl2 | H2O | 8 |
"PERRY'S CHEMICAL ENGINEER'S HANDBOOK 9TH EDITION"より引用
上表の実験条件を以下に示します。
- 充填物:38mm Intarox saddles (セラミックス)
- 充填高さ:3.05 m
- 塔径: 0.76 m
- 圧力:1 atm
- 温度:16~24℃
- ガス流量:1.3 kg/(m2・s)
- 吸収液流量:3.4~6.8 kg/(m2・s)
吸収水に関しては、水で吸収できるものは水を使用し、できないものはNaOHのようなアルカリを使用するのが一般的です。
KGaは高いほどガスが吸収されやすいことを示しています。したがって、HClやNH3は吸収液が水でも十分に吸収できると言えます。
一方で、Cl2やSO2は吸収液が水の場合はKGaが低く、十分に吸収することはできないでしょう。その場合はアルカリを吸収液に選定する必要があります。
Kgaの推算式
気相側物質移動容量係数kGaに関して(3)式のような経験式が提唱されています。
$$\frac{k_{G}a_{2}}{k_{G}a_{1}}=(\frac{D_{v2}}{D_{v1}})^{0.56}・・・(3)$$
Dv:拡散係数[m2/s]
"RULES OF THUMB FOR CHEMICAL ENIGINEERS FOURTH EDITION"より引用
気相の物質移動が良いかどうかは気体が拡散しやすいかどうかによって決まる、という考えで立式されています。
(3)式から、既知のkGaと既知の系における拡散係数、加えて未知の系の拡散係数がわかれば未知のkGaを算出することができます。
拡散係数の推算方法は以下の記事で解説しています。
また、既知のkGaを選定する際には、
- 求めたい系の化合物の構造と近い物質を選ぶ。
- 可能ならば求めたい系よりも吸収されにくい系を選ぶ。
上の2点を意識した方が良いです。
1つ目に関しては、例えば求めたい系が酸性ガスの吸収ならば、既知の系も酸性ガスを選ぶ、といったようなことです。
2つ目に関しては吸収塔の設計上、より安全側になるよう配慮する、という意味合いです。既知のkGaを吸収されやすい系にしてしまうと、その値に引きずられて未知のkGaも大きい値となることがあります。
そうなると(1),(2)式で算出する充填高さZが小さくなります。ちゃんと計算通りに吸収能力を発揮できればよいですが、計算誤差が大きいと能力不足となりやすいです。
したがって、充填高さは少し大きめに見積もるのがよいでしょう。
おわりに
気相側物質移動容量係数kGaの文献値や推算式について紹介しました。
参考にできる文献値があればその値を使用すればよいですが、ない場合はこのような推算で値を求めましょう。