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化学工学 反応

【定常状態近似】について解説:反応速度式の簡略化手法

2022年1月24日

概要

化学反応では化合物だけではなくイオンやラジカルも取り扱います。

イオンやラジカルは場合によりますが、

  • 反応性が高い
  • 濃度が低い

などの特徴があり、反応開始後すぐに定常状態となり、見かけ上これらの濃度が変化しなくなります。

このとき、イオンやラジカルの反応速度をdCA/dtとすると、

$$\frac{dC_{A}}{dt}≒0・・・(1)$$

(1)式のように反応速度がゼロと近似することを定常状態近似といいます。

この近似を行なうことでいくつかの素反応で成り立つ式を簡略化することができます。

この記事では臭化水素を例に定常状態近似の使用例を解説しています。

臭化水素の反応例

例として、臭化水素の生成反応を考えてみます。

$$H_{2}+Br_{2}→2HBr・・・(2)$$

化学反応式は単純に書くと(2)式となります。しかし、実際には次の5つの反応機構でHBrが生成します。

$$Br_{2}\overset{k_{1}}{\rightarrow}2Br・・・(3)$$

$$Br+H_{2}\overset{k_{2}}{\rightarrow}HBr+H・・・(4)$$

$$H+Br_{2}\overset{k_{3}}{\rightarrow}HBr+Br・・・(5)$$

$$H+HBr\overset{k_{4}}{\rightarrow}H_{2}+Br・・・(6)$$

$$2Br\overset{k_{5}}{\rightarrow}Br_{2}・・・(7)$$

H:水素ラジカル、Br:臭素ラジカル

水素ラジカル、臭素ラジカルを含む連鎖移動反応となっており、ラジカルの生成速度について定常状態近似を使用することで式を簡略化します。

まず水素ラジカルについて(3)~(7)式から、

$$\frac{d[H]}{dt}=k_{2}[Br][H_{2}]-k_{3}[H][Br_{2}]-k_{4}[H][HBr]≒0・・・(8)$$

(8)式が成り立ちます。

次に臭素ラジカルについて、

$$\begin{align}\frac{d[Br]}{dt}&=2k_{1}[Br_{2}]-k_{2}[Br][H_{2}]+k_{3}[H][Br_{2}]\\&+k_{4}[H][HBr]-2k_{5}[Br]^{2}≒0・・・(9)\end{align}$$

(9)式が成り立ちます。

(8)、(9)式から、

$$k_{1}[Br_{2}]=k_{5}[Br]^{2}$$

$$[Br]=(\frac{k_{1}}{k_{5}}[Br_{2}])^{\frac{1}{2}}・・・(10)$$

臭素ラジカル濃度[Br]を(10)式で表すことができます。

また、(8)式に(10)式を代入し、

$$[H]=\frac{k_{2}[Br][H_{2}]}{k_{3}[Br_{2}]+k_{4}[HBr]}=(\frac{k_{1}}{k_{5}}[Br_{2}])^{\frac{1}{2}}\frac{k_{2}[H_{2}]}{k_{3}[Br_{2}]+k_{4}[HBr]}・・・(11)$$

水素ラジカル濃度[H]を(11)式で表すことができます。

続いて、真に求めたい反応速度であるHBrの生成速度について式を立てます。

$$\frac{[HBr]}{dt}=k_{2}[Br][H_{2}]+k_{3}[H][Br_{2}]-k_{4}[H][HBr]$$

(8)式を代入し、

$$\frac{[HBr]}{dt}=2k_{3}[H][Br_{2}]$$

と2つの項を消すことができます。

最後に(11)式を代入し、

$$\begin{align}\frac{[HBr]}{dt}&=(\frac{k_{1}}{k_{5}}[Br_{2}])^{\frac{1}{2}}\frac{2k_{2}k_{3}[H_{2}][Br_{2}]}{k_{3}[Br_{2}]+k_{4}[HBr]}\\&=\frac{2(k_{1}/k_{5})^{\frac{1}{2}}k_{2}[H_{2}][Br_{2}]^{\frac{1}{2}}}{1+\frac{k_{4}}{k_{3}}\frac{[HBr]}{[Br_{2}]}}・・・(12)\end{align}$$

臭化水素の反応速度式(12)式が導けました。

おわりに

臭化水素HBrの生成反応を例に、定常状態近似について解説しました。ラジカルやイオンの素反応を簡略化することができます。

特に重合反応は連鎖移動反応が多く、定常状態近似を使用する場面があると思います。