概要
ポンプの揚水性能を表わす手法として、縦軸に全揚程H、横軸にポンプの吐出し量Qを取ったものをH-Q曲線といいます。
上図にH-Q曲線を示します。
通常はポンプの吐出し量Qがゼロ付近で最も全揚程Hが高くなり、吐出し量が増加するにつれて全揚程が小さくなっていくのが特徴です。
H-Q曲線はポンプの種類や羽根車の形状、回転数、ポンプ台数によって変化します。
ユーザーは運転に必要な全揚程と吐出し量を満たすようなH-Q曲線を持つポンプを選定する必要があります。
最近では運転条件をポンプメーカーに提示すればポンプの選定をやってくれるメーカーが多いため、ユーザーがポンプを選定する機会は減っているかもしれません。
ただし社内でバックチェックする場合や既設ポンプの運転条件を変更する場合は、当然H-Q曲線の知識が求められます。
この記事ではH-Q曲線が単独運転、直列運転、並列運転でどう変化するかを解説しています。
単独運転
実揚程が一定のとき
上図に実揚程が一定のときのH-Q曲線と管路抵抗曲線を示します。
単純に、2つの曲線の交点がポンプの運転点になります。
実揚程が変化するとき
実揚程が変化すると管路抵抗曲線がRからR'へ上下に平行移動し、運転点もAからA’に変わります。
タンク内の液を抜き出す等、液面が大きく変化する場合が当てはまります。
実揚程の変動幅と運転頻度を考慮してポンプの最高効率点の位置を設定しましょう。
吐出し弁開度を変更するとき
吐出し弁の開度を変更すると、管路抵抗曲線の傾きが変化します。
- 弁開度を大きくする:管路抵抗曲線がRからR'へ、運転点がAからA'へと変化し吐出し量が増加、全揚程減少
- 弁開度を小さくする:管路抵抗曲線がRからR''へ、運転点がAからA''へと変化し吐出し量が減少、全揚程増加
多少の流量変化や短時間で流量が変化する際には便利な調整方法です。
ただし、弁開度を小さくして流量を減少させてもポンプ動力はあまり変わりません。
そのため長期間低流量で運転する場合には、ポンプ回転速度を減少させて流量調整する方法等が経済的に有利なことが多いです。
ポンプ回転速度を変更するとき
1台のポンプの回転速度を変更する場合、
$$Q'=Q\frac{n'}{n}$$
$$H'=H(\frac{n'}{n})^{2}$$
上の2式が成り立ちます。
したがって、回転速度を減少させる場合には下図のようにH-Q曲線が変化します。
管路抵抗曲線が同じ場合、ポンプの運転点はAからA'に変化し吐出し量が減少します。
運転に必要な全揚程が十分足りていれば、吐出し弁の絞り調整よりもポンプ回転速度を減少させる方がポンプ動力を削減できます。
ただしあまりにも回転数を減少させすぎるとポンプ効率の悪い運転となってしまうため注意が必要です。
直列・並列運転
直列・並列運転の使い分け
複数台のポンプで運転する場合に直列・並列運転のどちらが良いかは、H-Q曲線と管路抵抗曲線の傾きで決まります。
上図に性能が同じポンプ2台運転時の直列特性、並列特性、管路抵抗曲線を示します。
直列・並列運転の使い分けの分岐点となるのが点Aです。点Aは2台直列運転と2台並列運転のH-Q性能がちょうど同じとなる点です。
この点Aよりも管路抵抗曲線の傾きが大きくR'のような曲線の場合は、2台直列運転の方が全揚程・吐出し量ともに並列運転より大きくなり有利です。
一方で点Aよりも管路抵抗曲線の傾きが小さくR''のような曲線の場合は、2台並列運転の方が全揚程・吐出し量ともに直列運転より大きくなり有利です。
以上のようにH-Q曲線と管路抵抗曲線の傾きを算出することでどちらが有利かを判定できます。
ポンプ複数台運転時のH-Q曲線の算出方法は後述します。
管路抵抗曲線はポンプの全揚程Hを各吐出し量Qで算出することで引くことができます。
ポンプの全揚程Hの算出方法は以下の記事で解説しています。
ポンプの【全揚程】計算方法を解説:損失水頭の計算が重要
くみ揚げたい高さ(実揚程)分のエネルギーにプラスして、摩擦によるエネルギー損失分や入口出口の圧力差分のエネルギーを加える必要があります。これら全てのエネルギーを合計し、ポンプの揚程として表したものを全揚程といいます。
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直列運転
同性能ポンプの直列運転
ポンプ2台の直列運転時のH-Q曲線を上図に示します。
直列運転の場合は、各吐出し量での2台の全揚程を足すことで合成直列性能を算出することができます。
上図からもわかるように直列運転は全揚程を高くできるのが特徴で、高い揚程が求められる場合に採用されます。
異なる性能ポンプの直列運転
異なる性能のポンプ2台の直列運転時のH-Q曲線を上図に示します。
異なる性能ポンプの直列運転の場合も、同様にそれぞれの吐出し量での全揚程を足すことで合成直列性能を算出することができます。
ただし、上図の点Zより吐出し量が大きくなるような点で運転すると、容量の小さいポンプの運転点がC'のように負の揚程となり逆に性能が悪化します。
このような領域で運転する場合には容量の大きいポンプ1台で運転した方が性能が良くなります。
したがって、直列運転は吐出し量が大きく増加する可能性のある系には適さず、点Zよりも吐出し量が小さい運転点で運転するのが望ましいです。
また、ポンプを直列で並べるときの順番ですが、必ず容量の大きいポンプを1段目にし、容量の小さいポンプを後段にする必要があります。
もし逆の配置にすると容量の大きいポンプの吸込み側にキャビテーションが発生する可能性があります。
並列運転
同性能ポンプの並列運転
ポンプ2台の並列運転時のH-Q曲線を上図に示します。
並列運転の場合は、各揚程での2台の吐出し量を足すことで合成並列性能を算出することができます。
並列運転は吐出し量を大きくできるのが特徴で、流量が大きい場合に採用されます。
一方で、上図のように管路抵抗曲線の傾きが大きく、H-Q曲線が平坦に近いと吐出し量がHからH'にわずかに増加する程度となり、並列運転しても吐出し量の増加はあまり見込めません。
ちゃんと並列運転時のH-Q曲線を書いて確認しましょう。
異なる性能ポンプの並列運転
異なる性能のポンプ2台の並列運転時のH-Q曲線を上図に示します。
異なる性能ポンプの並列運転の場合も、同様にそれぞれの全揚程での吐出し量を足すことで合成並列性能を算出することができます。
ただし、全揚程に関しては小容量ポンプの数値が上限になります。小ポンプの最大揚程である点Zの値より低い合成運転点であれば運転可能です。
したがって、上図のように吐出し弁を絞り管路抵抗曲線の傾きを増加させてしまうと、小容量ポンプは揚程不足となり吐出し量がゼロになりますので注意が必要です。
このような領域では大容量ポンプのみで運転すべきです。
まとめ
ポンプの揚水性能を表わすH-Q曲線について解説しました。
- 直列運転:高揚程が得られる
- 並列運転:高吐出し量が得られる
大まかにでもよいので、直列・並列運転の特徴を覚えておきましょう。