実務担当者が自発的にマニュアルを作ると・・・
弊社では現在、業務マニュアルが機能していません。
業務マニュアルに近いもの(設計指針書)はありますが、10年以上前にマニュアルの改訂が止まっており、現状は使い物になっていません。
ちなみに前職でも業務マニュアル・業務フローと呼べるものは一切ありませんでした。
そのため寿司屋の職人のような"見て技を盗め"というほど極端ではないにせよ、効率の悪い技術伝承がメーカーでは為されている、というのが私の所感です。
この問題の最も恐ろしいのは、自分が初心者であるときはマニュアルがないことに危機感を覚えますが、仕事を覚えていくうちに危機感が薄れていく点です。
自分も入社1~2年目のときは覚えた仕事をまとめて簡易的なマニュアルを作っていましたが、実務の仕事量が増えるにつれそんなことはやっていられなくなりました。
そうこうしているうちに仕事のノウハウは溜まりに溜まり、気づいたときにはマニュアルを作る気が失せる量になっています。
それでも苦労してマニュアルを作ったとしても、その恩恵を最も受けるのは自分自身ではなく後輩です。
あなたが苦労して作ったマニュアルでどんどん仕事をこなし上司から評価される後輩を見て、"マニュアルが後輩の役に立って良かった"と、素直に思えるでしょうか?
5,6歳以上離れている後輩であればどんなに成長したとしても、自分が抜かれることはまずないでしょう。
しかし、1,2歳下で優秀な後輩であれば、もはやライバルに近い存在に成りうると思います。
もちろんそんな打算的なことは考えず後輩に親切にできる人もいますが、反対にできない人もいるわけです。
といったように、実務担当者が自発的にマニュアルを作成するのは、人によって様々な思惑があるのでなかなか継続し難いと言えます。
そもそもマニュアルは必要か?
そもそも論としてマニュアルを作る必要はあるでしょうか?
世間的にはマニュアルに沿って仕事を行なうことはあまり良い印象ではありません。
しかし、マニュアルはうまく機能すれば仕事の品質を一定以上に保つ効果があります。
何回も経験しないとわからないような設計のポイントを、初心者が抑えられるということです。
ビジネスのスピードが速くなっている現代において、新入社員の即戦力化は1つの課題です。
その課題への対応として、このような知見の可視化・共有は特別なコストをかけずにやることができます。
私からすればやらない理由はないと思います。
組織の業務として定義する
私が考えるマニュアル化促進方法の1つは、実務担当者のボランティアに頼らず、上司が組織の業務として業務マニュアル・業務フロー作成という仕事を定義し、部下に命じてやらせることです。
どのくらいの量のマニュアルを作成するかにもよりますが、中堅の実務担当者に数週間~1ヵ月くらい時間を与えてやらせればそれなりの質のものができるはずです。
こんな解決法は当たり前のことかもしれませんが、意外にマニュアル作成を組織の仕事として考えていない上司が多いように感じます。
おそらくは上司本人が忙し過ぎて目の前の仕事に忙殺され、組織全体の運営まで意識が回らないのでしょう。
もしくは、自組織の業務は複雑でマニュアルを作成することなどできないと思っているかもしれません。
しかし私は、工場全体の運転で業務マニュアル・業務フローを作り、さらにIT化まで行った例を知っています。
ダイセル式生産革新
化学メーカーのダイセルは、"ダイセル式生産革新"と呼ばれるプラントの運転最適化を行なっています。
熟練のオペレータにヒアリングして技術ノウハウを抽出してまとめ、かつその知見をプラントの運転システムに入力する。これを工場全体の規模で実施しています。
これによって、新人のオペレータでも熟練オペレータと同じようにプラントを運転することができるようになったそうです。
製品のラインナップに加えて、生産技術・製造技術を強みとして勝負できる、というのはいちケミカルエンジニアとして羨ましく思います。
ただ、このダイセルの例は現場のプラント運転に対するもので、普段私が担当している設計業務と内容は異なります。
しかし、業務マニュアル・業務フロー作成という観点では理想的なことをされており、他の仕事でも十分参考にできるでしょう。
ダイセルでは、生産革新後も日々の業務で知見や改善点を見つければ、システムに組み込みアップデートすることを繰り返しています。
設計業務のマニュアルも同様で、一度作ってからほったらかしではいけません。
少なくとも毎年1度は改訂する機会を与えるべきでしょう。
まとめ
・実務担当者の自発的なマニュアル作成は長くは続かないでしょう。
・組織の仕事としてマニュアル作成を定義し、毎年改定させれば長続きすると考えられます。