概要
この記事では高圧ガス製造保安責任者試験の法令分野のうち、コンビナート等保安規則(以下、コンビ則)から出題される内容について解説します。
法令は毎年11月の国家試験で受験する必要があります。5月の検定試験で学識と保安管理技術に合格していれば、11月の国家試験では法令のみに専念して勉強できます。
国家試験で学識、保安管理技術、法令の3科目を受験して合格するのはかなり難易度が高いため、なるべく検定試験を受けることをオススメします。
コンビナート等保安規則の出題数
全20問中、毎年5~6問ほど出題されています。
問題としてはあるコンビナート地域内にある事業所が問題文で与えられ、この事業所・事業者に適用される法令や規則を答える形式です。
コンビ則だけではなく高圧ガス保安法全体での複合問題が多く、他の出題分野より難易度は高めでしょう。
問題文中の事業所出題例
例年は問題文中である能力を持つ事業所が設定されます。
コンビナート等保安規則の適用を受ける事業所を特定製造事業所といいます。まずは問題文中で仮定された事業所が特定製造事業所に当てはまるかどうか確認する必要があります。
特定製造事業所となる条件は簡単にまとめると、
名称 | 地域 | 条件 |
コンビナート 地域内 | ー | 次の①、②の事業所は適用外 ①専ら燃料用であり、貯蔵能力2000m3(20t)以上の 可燃性ガス貯槽を設置していない製造事業所 ②専ら不活性ガス・空気の製造事業所 |
コンビナート 地域内外 | 地域に 関わらず | 保安用不活性ガス以外の処理能力が100万m3/日以上 (不活性・空気は400万m3/日以上) |
コンビナート 地域内外 | 用途地域内 | 保安用不活性ガス以外の処理能力が50万m3/日以上 (不活性・空気は200万m3/日以上) |
上の表となります。基本的にはコンビナート地域内にあれば①、②の例外でない限り特性製造事業所となります。
一方で問題文中では例えば以下のような条件が与えられることが多いです。
- ナフサを分解してエチレン、プロピレン、ブタジエンを製造する事業所
- 製造した高圧ガスを導管で他のコンビナート製造事業所に送る
- コンビナート地域内にある
- 認定完成検査実施者及び認定保安検査実施者である
- 事業所全体の処理能力:1億m3/日
- 可燃性ガスの処理能力:9,950万m3/日
- 液化エチレン貯蔵能力:3000t×3基
- 液化プロピレン貯蔵能力:3000t×3基
- 液化ブタジエン貯蔵能力:2000t×2基
様々な情報が載っていますが、問題を解くにあたって全ての情報が必要となるわけではありません。
ここでは、
- コンビナート地域内にある
- エチレン、プロピレン、ブタジエンを製造→不活性ガスではない
- 製造したガスを他の事業所に送る→燃料用途ではない
- 貯蔵能力2000~3000t→20tを超えている
これくらいの情報を読み取れれば、コンビナート等保安規則が適用される特定製造事業所であることがわかります。
ちなみに他の条件は、
- 導管:導管に関する問題が出題されるかも。
- 認定完成(保安)検査実施者:同じく関連する問題が出題されるかも。
- 事業所全体の処理能力:保安技術管理者の資格に関わる。
- 貯蔵能力:貯槽の問題で使用するかも。
上のようにその後の問題で関連する内容が出題される可能性が高いです。よく勉強しておきましょう。
コンビナート等保安規則の出題内容
過去に出題頻度の高かったものをピックアップして紹介します。
コンビ則第23~33条:自主保安のための措置
毎年1~2問は出題されており重要な分野ですが、同じような用語がいくつもあるため覚えにくく難問です。
保安統括者等の職務
各役職の職務について問われることがあります。
名称 | 職務 | 選任者イメージ |
保安統括者 | 保安業務の統括管理 | 工場長・所長 |
保安技術管理者 | 保安統括者の補佐 技術的事項を管理 | 製造部長 |
保安企画 推進委員 | 保安統括者の補佐 危害予防規定・保安教育計画の 企画・立案・推進等 | 保安管理部長 |
保安主任者 | 保安技術管理者の補佐 保安委員を指揮 | 製造課長 |
保安係員 | 施設、作業の監督・巡視・点検等 | 直長・係長 |
自分の職場でどんな人がその役になるのか当てはめると覚えやすいかもしれません。
保安統括者等の資格条件
各役職の選任者に必要な免状・経験等がほぼ毎年問われます。
そもそもなぜ高圧ガス製造保安責任者の資格を取る必要があるのか、という理由に関わってくるところなのでしっかり勉強したい内容です。
名称 | 免状 | 経験 | 再講習 | 選任区分 |
保安 統括者 | なし | 事業所を統括 管理できる者で あること | なし | 事業所 ごと |
保安技術 管理者 | 甲種 乙種(処理量 100万m3未満) 丙種(LPGのみで 処理量100万m3 未満) | 所定の経験 (1年以上) | なし | 事業所 ごと |
保安企画 推進委員 | なし | 所定の経験 (経験の内容により 異なるが最低でも 3年以上) | 選任後6ヶ月以内に 1回かつ講習日の翌年度 から5年以内ごと | 事業所 ごと |
保安 主任者 | 甲種 乙種 丙種(LPGのみ) | 所定の経験 (1年以上) | 免許交付日年度の翌 年度から3年以内に初回 受講。その後は5年以 内ごとに受講 | 施設区分 ごと |
保安係員 | 甲種 乙種 丙種 | 所定の経験 (1年以上) | 免許交付日年度の翌 年度から3年以内に初回 受講。その後は5年以 内ごとに受講 | 施設区分 ごと 交代制ごと |
甲種であれば処理量によらず各役職に就くことができます。可能な限り上位の資格を取った方が出世の面では有利ですね。
保安技術管理者の選任不要条件
保安技術管理者の選任が不要になるケースがあり、試験にも出やすいところです。
- 保安統括者が所定の免状を保有している
- 処理能力25万m3未満で、
- 気化器又は減圧弁で可燃性ガス・毒性ガスを製造する場合
- 燃料消費用で製造する場合
- 可燃性ガス・毒性ガス以外を製造をする場合
- 移動式製造設備のみの事業所
- 処理量50万m3未満のLPG燃料消費、LPG充填用で製造する場合
特に保安統括者の免状有無が試験で問われやすいです。
保安統括者等の代理者の選任
代理者に関する内容もほぼ毎年出題されており重要です。
保安統括者等が病気や事故で職務を行なえない場合に備えてあらかじめ代理者を選任しておく必要があります。
名称 | 代理者 | 選任・解任時の届出 |
保安統括者 | 保安統括者を直接補佐する職位 | 正・副とも遅滞なく届出 |
保安技術 管理者 | 保安技術管理者を直接補佐する 職位かつ所定の免状・経験 | 正:前年の8/1~7/31までの選任・解任 について8/1以降遅滞なく届出 副:届出不要 |
保安企画 推進委員 | 保安係員の担当製造施設に 従事する者かつ所定の 免状・経験 | 正:前年の8/1~7/31までの選任・解任 について8/1以降遅滞なく届出 副:届出不要 |
保安主任者 | 保安主任者を直接補佐する 職位かつ所定の免状・経験 | 正:前年の8/1~7/31までの選任・解任 について8/1以降遅滞なく届出 副:届出不要 |
保安係員 | 職位に関係なく、所定の 知識・経験 | 正:前年の8/1~7/31までの選任・解任 について8/1以降遅滞なく届出 副:届出不要 |
※正:選任者、副:代理者
代理者を選任する場合に、それぞれの役職を直接補佐する職位であることが必要な場合があります。試験に出やすいポイントなので覚えておきましょう。
コンビ則第40条等:完成検査に係る認定の申請等
毎年1問ほど出題されています。
高圧ガス保安法第20条第3項第2号で、
第十四条第一項又は前条第一項の許可を受けた者は、高圧ガスの製造のための施設又は第一種貯蔵所の位置、構造若しくは設備の変更の工事(経済産業省令で定めるものを除く。以下「特定変更工事」という。)を完成したときは、製造のための施設又は第一種貯蔵所につき、都道府県知事が行う完成検査を受け、これらが第八条第一号又は第十六条第二項の技術上の基準に適合していると認められた後でなければ、これを使用してはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 高圧ガスの製造のための施設又は第一種貯蔵所につき、経済産業省令で定めるところにより協会又は指定完成検査機関が行う完成検査を受け、これらが第八条第一号又は第十六条第二項の技術上の基準に適合していると認められ、その旨を都道府県知事に届け出た場合
二 自ら特定変更工事に係る完成検査を行うことができる者として経済産業大臣の認定を受けている者(以下「認定完成検査実施者」という。)が、第三十九条の十一第一項の規定により検査の記録を都道府県知事に届け出た場合
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000204
"認定完成検査実施者"であれば自ら完成検査を実施することができます。
ただし、自ら完成検査を実施できる工事は以下のようにコンビ則第40条第2項に定められています。
2 法第三十九条の二第一項の経済産業省令で定める特定変更工事は、新たな製造施設の追加の工事以外の変更の工事であつて、継続して二年以上高圧ガスを製造している施設に係るものとする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=361M50000400088
つまり、新しい製造設備の追加工事は自ら完成検査を行なうことはできません。引っ掛け問題として出題されやすいので覚えておきましょう。
コンビ則第42条等:保安検査に係る認定の申請等
完成検査と同様に保安検査も出題されやすい内容です。
高圧ガス保安法第35条第1項第2号で、"認定保安検査実施者"であれば特定施設の保安検査を自ら実施することができます。
ただし、自ら保安検査を実施できる施設は新たな製造施設の追加の工事以外の変更の工事であって、継続して二年以上高圧ガスを製造している施設に限られます。
"認定保安検査実施者"という文言は問題文中に含まれていることが多いので覚えておきましょう。
法第26条等:危害予防規定
高圧ガス保安法の内容ですが、コンビナートの問題で合わせて出題されることが多いです。
第一種製造者は、経済産業省令で定める事項について記載した危害予防規程を定め、経済産業省令で定めるところにより、都道府県知事に届け出なければならない。これを変更したときも、同様とする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000204
危害予防規定は都道府県知事に届出をする必要があることを覚えておきましょう。
法第27条: 保安教育計画
前に紹介した危害予防規定と対比されて出題されることが多いです。
3 第一種製造者は、保安教育計画を忠実に実行しなければならない。
4 第二種製造者、第一種貯蔵所若しくは第二種貯蔵所の所有者若しくは占有者、販売業者又は特定高圧ガス消費者(次項において「第二種製造者等」という。)は、その従業者に保安教育を施さなければならない。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000204
第一種製造者は保安教育計画を作成し忠実に実行する必要があります。
ただし、規定されているのは忠実に実行することのみで、都道府県知事への届出等は必要ありません。"保安教育計画を変更した場合に届出が必要"といった引っ掛け問題が出題されやすいので覚えておきましょう。
コンビ則第5条:製造設備に係る技術上の基準
保安距離
ほぼ毎年出題されています。直感的に答えられる問題ではなく、きちんと覚えていないと全くわからないタイプの問題なので難問です。
加えて扱うガスの種類や設備の種類によって保安距離も変わるので覚え間違いをしやすいです。正直、どれかの分野を捨てるのであればこの保安距離関連の問題になりそうです。
可燃性ガス製造施設ー保安物件間距離
可燃性ガス製造施設での貯蔵設備及び処理設備から保安物件までの距離Xは、
X=0.480×(K・W)1/3
K:ガスの種類・温度による係数、W:貯蔵能力又は処理設備内の質量
となります。
ただし注意点として、以下の項目が挙げられます。
- 計算したXが50mより小さい場合は保安距離が50mとなる。
- 新設設備の場合は係数が0.480→0.576となり、保安物件→事業所境界線となる。
細かい計算までは出ないと思いますが、距離Xがどのようなパラメータに依存するかは覚えておきましょう。"処理能力に依存する"といった引っ掛け問題がよく出題されています。
毒性ガス製造施設ー保安物件間距離
毒性ガス製造施設では、
- 製造施設から事業所境界線まで20m以上確保する。
- ガス設備から保安物件まで貯蔵能力又は処理能力に応じた保安距離を確保する。
それぞれ距離を確保する必要があります。
その他ガスの製造施設ー保安物件間距離
可燃性ガス・毒性ガス以外のガス製造施設から保安物件に対して50m以上の距離を確保する必要があります。
"窒素などのイナートガスは距離を取らなくてよい"、といった引っ掛け問題が過去に出題されていますので注意です。
事業所ー事業所間距離
製造設備から隣接する特性製造事業所の境界線まで20m以上の距離を取る必要があります。
同様に隣接する事業所も設備と境界線まで20m以上取るので、設備間距離は実質40m以上となります。
設備の能力に依存せず距離を取る必要がある点を覚えておきましょう。
高圧ガス設備ー高圧ガス設備間距離
隣接する保安区画内の高圧ガス設備に対して30m以上の距離を取る必要があります。
注意点として、
- 燃焼熱量によらず30m以上の距離を取る必要がある。
- 保安区画の面積、保安区画内の燃焼熱量に制限がある。
が挙げられます。 "確保すべき距離は燃焼熱量によって算定される"といった引っ掛け問題が出題されたことがあるので気を付けましょう。
高圧ガス設備ー可燃性ガス貯槽間距離
一定規模以上の高圧ガス設備又は圧縮機と可燃性ガス貯槽の間に30m以上の距離を取る必要があります。
一定規模とは、
- 高圧ガス設備、可燃性ガス貯槽:燃焼熱量50.2GJ以上
- 圧縮機:処理能力20万m3以上
を指します。
燃焼熱量が具体的な数字で与えられることがあまりないので出題されにくいと思いますが、他の距離と合わせてセットで覚えておきましょう。
可燃性ガス貯槽ー可燃性ガス貯槽間距離
貯槽間の距離は、
- 1m
- 当該貯槽及び他の貯槽の最大直径の和の1/4
上の2項目のうち大きい距離を取る必要があります。
貯槽の直径が具体的な数字で与えられることがあまりありませんが、"燃焼熱量から距離が算定される"といった引っ掛け問題が過去に出題されたことがあります。
他の距離と混同しないようにしましょう。
まとめ
コンビナート等保安規則から出題される内容について解説しました。
覚えにくい分野ではありますが出題数が多いので勉強しないわけにはいきません。特に保安統括者などの役割や選任条件は出題されやすいのでよく勉強しましょう。