概要
平衡状態にある系に外部から状態を変化させる操作を行なった場合に、系はその変化を相殺するように平衡を移動させます。
このような原理をル・シャトリエ(Le Chatelier)の原理といいます。
実務の反応器設計においては、どのような運転条件に設定すれば反応がよく進むのかを知れる原理であるため、非常にお世話になります。
この記事ではNH3(アンモニア)の平衡反応を例にル・シャトリエの原理を解説します。
ル・シャトリエの原理
$$N_{2}+3H_{2}⇄2NH_{3}+45.9kJ/mol_{-NH_{3}}・・・(1)$$
(1)式のNH3の生成反応について考えます。
NH3が1mol生成すると、45.9kJの発熱が生じる反応です。
圧力が変化する場合
例えば系の温度を一定に保ちつつ全圧を増加させた場合、(1)式の平衡は圧力の増加を打ち消すように右側へ移動します。
(1)式の反応物の量論比をみると、
- 左辺:N2(1mol)、H2(3mol)
- 右辺:NH3(2mol)
であり、右辺に平衡が移動するほど分子のモル量が少なくなり圧力が低くなります。
そのため系の圧力を増加させた場合は、その影響を緩和するために平衡が右側に移動します。
温度が変化する場合
今度は系の全圧を一定に保ちつつ温度を増加させた場合、(1)式の平衡は温度の増加を打ち消すように左側へ移動します。
(1)式から、NH3が生成するとNH31mol当たり45.9kJの熱が発生します。
N21mol当たりでは、NH3が2mol生成するので、45.9×2=91.8kJの熱が発生します。
逆にNH31molが分解してN2とH2に戻るときは45.9kJの熱を周囲から奪います。
したがって、温度を増加させた場合はその影響を緩和するために平衡が左側に移動して吸熱します。
反応器での応用例
アンモニア生成反応
$$N_{2}+3H_{2}⇄2NH_{3}+45.9kJ/mol_{-NH_{3}}・・・(1)$$
上の例でも出したNH3生成反応ですが、かの有名なハーバー・ボッシュ法で製造されています。
ル・シャトリエの原理を利用し、300~500kPaGの高圧条件下で反応を進めています。
温度については低温ほど平衡関係的には有利ですが、あまり低くし過ぎると反応速度が低下し反応器のサイズが大きくなってしまいます。
ハーバー・ボッシュ法では反応器の前段では400℃前後の温度で反応させ、反応器後段に進むにつれて冷却してNH3の反応率を上げています。
エステル化反応
$$CH_{3}COOH+C_{2}H_{5}OH⇄CH_{3}COOC_{2}H_{5}+H_{2}O・・・(2)$$
$$K=\frac{[CH_{3}COOC_{2}H_{5}][H_{2}O]}{[CH_{3}COOH][C_{2}H_{5}OH]}・・・(3)$$
酢酸のエステル化反応は(2)式、平衡定数は(3)式で表されます。
この反応では目的生成物である酢酸エチルの他に水が複製します。
したがって、水だけを何らかの方法で取り除くことができれば(3)式の分子の水濃度が小さくなるため、平衡が(2)式の右側に傾きます。
水の除去としてプラントでよく使用される方法は蒸留です。しかし、単に熱を与えるだけで水が分離すればよいですが、酢酸エチル-水の2成分は共沸することで知られています。
そのような系の場合は水のみと共沸するような共沸剤を反応器に投入することで、水のみを分離することができます。
メタノール合成
$$CO+2H_{2}⇄CH_{3}OH・・・(4)$$
一酸化炭素からメタノールを合成する反応です。
ΔH=-91kJ/molの発熱反応で、アンモニア生成反応と同様に低温高圧にするほど平衡が右側にシフトします。
1960年頃までは20~30MPa、300~400℃の条件で合成されていましたが、近年では触媒技術の進歩により5~10MPa、250℃前後の条件で合成されるようになりました。
まとめ
ル・シャトリエの原理について説明しました。
実際には反応温度や反応圧力に制約がある中で、どのような反応条件に設定するのが良いか、考えるのが反応器設計の醍醐味です。