概要
移動単位高さ(HTU)は移動単位数(NTU)を充填高さで割ったときの塔高を表わします。
単位はメートル[m]です。
HTUは小さいほど単位高さ当たりの吸収効率が良いことを示し、塔の吸収性能が良いことになります。
加えて、HTUはNTUと同様に吸収塔の塔高計算をする際に必要なパラメータです。
しかし実は、HTUは精度良く求めるのが難しい値です。
吸収塔の設計がいまいち精度が良くなく、安全率がガバガバに掛かっているのは、HTUを常に精度良く求める手法が今のところ存在しないからです。
HTUは基本的に実験値や実験式から求めますが、充填物の種類や吸収ガス・液の種類に依存するため、無数の組み合わせが存在します。
吸収は気液平衡に比べるとデータが少なく、自分が設計したい系そのものの実験式があることは少ないでしょう。
本記事では本記事ではHTUの算出における考え方や計算方法について紹介します。
HTUの算出方法
HTUの使い分け
HTUは、下の4式から求まるHOG、HG、HOL、HLのことを指します。
$$H_{OG}=\frac{G}{K_{y}aA}$$
$$H_{G}=\frac{G}{k_{y}aA}$$
$$H_{OL}=\frac{L}{K_{x}aA}$$
$$H_{L}=\frac{L}{k_{x}aA}$$
HOG:気相基準の総括HTU[m]、HG:気相HTU[m]
HOL:液相基準の総括HTU[m]、HL:液相HTU[m]
a:充填物の気液界面積[m2/m3]、A:塔の断面積[m2]
KG:ガス境膜基準の総括物質移動係数[mol/m2/s/Pa]
Ky:ガス境膜基準の総括物質移動係数[mol/m2/s]
KL:液境膜基準の総括物質移動係数[mol/m2/s/Pa]
Kx:液境膜基準の総括物質移動係数[mol/m2/s]
4つの式の使い分けとしては、
Henry定数が小さい系(溶解度が大きく、ガス側抵抗支配):HOG、HG
Henry定数が大きい系(溶解度が小さく、液側抵抗支配):HOL、HL
上のように、抵抗支配となっている相の移動係数を使うのが望ましいです。
抵抗が小さい相の移動係数を使って設計すると、実際は吸収が遅くて塔高が足りない、ということになりかねません。
また、総括HTUであるHOGと気相HTUであるHGの使い分けについては、自分の認識ではあまりはっきりと使い分けされていない印象です。
実測値のHOGがあれば使いますし、推算式でHGが求められるならそれを使う場合もあります。
より精度の高いデータがある方を使う、というスタンスです。
設計する系の実測データがある場合
設計したい成分系、充填物、装置スケールでの実測HOG、HOLデータがある場合は、そのデータを使うのが最も精度が良くなります。
しかしそのようなデータがあることはほとんどないでしょう。
代替案として、ラボで実験してデータを取り、そのデータをもとに実機へスケールアップする方法があります。
ただし、HOG、HOLは装置スケールや液ガス流量に対して依存性があるため、例え同じ成分、同じ充填物でデータを取ったとしても、そのラボデータをそのまま適用することはできません。
実機でのHOG、HOLが安全側に見積もられるように係数をかけて補正するのが良いでしょう。
具体的にどのくらい補正するかについては、エンジニアの力量が問われるところです。絶対的な正解はありません。
ラボから実機へのスケールアップ倍率が低い場合は、それほど大きな補正はかけなくても良いですし、倍率が高い場合は補正を大きくするのが普通です。
自信がないからと言って、補正係数をかけ過ぎると塔が大きくなってコストが高くなりますから注意が必要です。
ベテランエンジニアはその系の吸収塔ならどのくらいのコストになるか経験的に知っている人も多いですから、上司・先輩に聞くのも良いでしょう。
サラリーマン的に言うなら、上司に納得してもらえるような補正係数にしましょう、ということです。
設計する系の文献値がある場合
設計したい系の文献値があるかどうか頑張って探しましょう。
有名な文献では、Perryのハンドブックには主要成分のKyaが載っており、KyaからHOGを計算できます。
※本記事で記載しているKya、Kxaは一般にKGa、KLaという記号で表されることが多いです。記号の表記上の違いだけで、意味は同じです。
但し、文献データを測定した条件は確認しておき、自分の設計に適用して問題ないか判断しましょう。
液ガス流量や充填物の性能があまりにも違う場合は、使用すべきでないこともあります。
また、充填物メーカーがカタログでHOGやKyaのスペックを発表している場合もありますし、メーカーに頼めば計算してくれることもあります(有償・無償対応かは内容によります)。
設計する系の推算式がある場合
汎用的な充填物であれば、HTUやKyaの推算式が化工便覧等に載っていますので、その式を使って推算します。
Fellingerの式
NH3を水に吸収させる実験から、HGの推算式が提案されています。
$$H_{G}=c\frac{G^{p}}{L^{q}}(\frac{μ_{G}}{ρ_{G}D_{G}})^{\frac{2}{3}}$$
G:ガスの質量流量[kg/m2/s]、L:液の質量流量[kg/m2/s]
μG:ガスの粘度[Pa・s]、ρG:ガスの密度[kg/m3]
DG:気相中の拡散係数[m2/s]、c,p,q:充填物の種類・大きさによる定数
充填物 | 大きさ | c | p | q | ガス流速G 適用範囲 [kg/m2/s] | 液流速L 適用範囲 [kg/m2/s] |
ラシヒリング | 10mm | 0.664 | 0.39 | 0.47 | 0.27~0.68 | 0.68~2.05 |
25mm | 0.653 0.598 | 0.39 0.32 | 0.58 0.51 | 0.27~1.09 0.27~0.82 | 0.55~0.68 0.68~6.14 | |
38mm | 0.891 0.739 | 0.38 0.38 | 0.66 0.40 | 0.27~0.95 0.27~0.95 | 0.68~2.05 2.05~6.14 | |
50mm | 0.958 | 0.41 | 0.45 | 0.27~1.09 | 0.68~6.14 | |
ベルルサドル | 13mm | 0.581 0.394 | 0.30 0.30 | 0.74 0.24 | 0.27~0.95 0.27~0.95 | 0.68~2.05 2.05~6.14 |
25mm | 0.494 | 0.36 | 0.40 | 0.27~1.09 | 0.55~6.14 | |
38mm | 0.700 | 0.32 | 0.45 | 0.27~1.36 | 0.55~6.14 |
Sherwoodの式
水に溶解したO2、CO2、H2の空気中への放散実験から、HLの推算式が提案されています。
$$H_{L}=(\frac{1}{α})(\frac{L}{μ_{L}})^{n}(\frac{μ_{L}}{ρ_{L}D_{L}})^{0.5}$$
L:液の質量流量[kg/m2/s]
μL:液の粘度[Pa・s]、ρL:液の密度[kg/m3]
DL:液相中の拡散係数[m2/s]、α,n:充填物の種類・大きさによる定数
充填物 | 大きさ | α | n |
ラシヒリング | 10mm | 3100 | 0.46 |
13mm | 1400 | 0.35 | |
25mm | 430 | 0.22 | |
38mm | 380 | 0.22 | |
50mm | 340 | 0.22 | |
ベルルサドル | 13mm | 690 | 0.28 |
25mm | 780 | 0.28 | |
38mm | 730 | 0.28 |
設計する系の文献値・推算式がない場合
マイナーな成分で、文献値も推算式もない場合は、性状が近い成分のHTUを代用せざるを得ません。
この場合には、なるべく設計値が安全側になるような系を選定します。
例えば吸収操作の場合には、設計したい成分よりも液に溶けにくい成分のHTUを代用します。
充填物の種類に関しても同様で、使用したい充填物のHTUがわからない場合は、その充填物より性能が劣る充填物のHTUを代用します。(ラシヒリングやベルルサドルの値を代用することが多いです)