概要
この記事ではエネルギー管理士(熱分野)の出題分野である、熱利用設備(ボイラ、蒸気輸送、貯蔵装置、蒸気原動機、内燃機関、ガスタービン)について解説します。
熱利用設備(ボイラ等)は課目Ⅳ"熱利用設備及びその管理"の中で、大問6問中2問出題されています。
実務で動力プラントに馴染みのある方は得点源となりますが、そうでない方には少し難しい分野だと思います。
以下で出題頻度が高かった内容を紹介しています。
ボイラの分類と特徴
ボイラの分類は主に循環方式での分類と構造での分類がありますが、ここでは構造による分類で説明します。
丸ボイラ
丸ボイラは自然循環ボイラの一種です。
丸ボイラの装置は、
- 円筒形のドラム
- 炉筒(燃焼室)
- 煙管(伝熱面)
などから構成されており、蒸発量10t/h、圧力1MPa程度以下の低圧・小容量向けで広く使用されています。
丸ボイラのメリットとしては、
- 構造が簡単で取り扱いが容易である。
- 負荷変動があっても蒸気圧力の変化は少ない。
などが挙げられます。
一方でデメリットとしては、
- 高圧の蒸気条件には適さない。
- 運転開始してから所要圧力の蒸気を発生させるまで時間がかかる。
などが挙げられます。
また、丸ボイラの種類として、
- 立てボイラ
- 炉筒ボイラ
- 煙管ボイラ、
- 炉筒煙管ボイラ
などが挙げられます。
これらの中では炉筒煙管ボイラが最も多く採用されており、80~90%程度の熱効率が得られています。
水管ボイラ
水管ボイラは、円筒形のドラムの外側に水管を配置することにより、ドラムの大きさに制限されることなく所要の伝熱面を確保できます。
そのため、高圧・大容量に向いており、蒸発量は10t/h以上や圧力は超臨界圧となるものもあります。
また、水管ボイラは循環方式の違いにより、
- 自然循環ボイラ
- 強制循環ボイラ
- 貫流ボイラ
の3つに分けられます。
特殊ボイラ
水以外の熱媒体を利用する場合や、特殊な燃焼法を使用するボイラを総称して特殊ボイラと呼んでいます。
具体的には、
- ガスタービンの複合サイクル排熱回収ボイラ
- 流動層燃焼によるボイラ
などが挙げられます。
特に出題されやすいガスタービンと蒸気タービンのコンバインド・サイクルと、コージェネレーションは後述します。
ボイラの自動制御
自動燃焼制御装置
自然循環ボイラ、強制循環ボイラでは、ボイラ出口圧力が一定になるように燃料供給量を調節し、適正な燃焼状態が確保されるように燃焼空気量を調整しています。
例えば燃料供給は単要素制御、空燃比は比率制御で調整することが考えられます。
給水制御装置
自然循環ボイラ、強制循環ボイラのドラムの水位は、負荷変動により変化するので、給水制御弁あるいは給水ポンプの速度を調節して水位を一定に保っています。
しかし、この水位は燃焼量や給水量の急激な変化があると一時的な逆応答を示すことが知られています。
したがって、水管ボイラのように保有水量の小さい場合は、水位の他に蒸気量を含めた2要素制御、あるいはドラム水位・蒸気量・給水量の3要素制御を採用することで対応します。
蒸気温度制御装置
過熱器及び再熱器出口の蒸気温度は、基本的に一定温度となるように制御します。
自然循環ボイラ、強制循環ボイラの燃焼量は圧力を一定にするために採用されているので、蒸気温度制御には別のパラメータを選択する必要があります。
一般的には、
- 出口蒸気に噴射注入する給水量
- 過熱器または再熱器を通過する燃焼ガスのバイパス量
- ボイラ出口の燃焼ガスの炉内への再循環量
- 炉内の火炎の位置や形状変化による加熱量
などが制御パラメータとして選択されます。
ボイラの水処理
ボイラで使用される水にも当然不純物が含まれており、何の対策もしないとボイラの運転を大きく阻害します。
試験にも出題されやすく、重要な内容です。
ボイラ伝熱面へのスケール付着
給水中の硬度成分や溶解している固形分がボイラ水の蒸発により濃縮し、溶解度を超えると析出します。
析出したスケール成分は伝熱面に付着するか、スラッジとなってボイラ下部に沈殿します。
このようなスケール発生を防止する手法として、給水中の硬度成分をイオン交換樹脂により除去する方法が一般的に挙げられます。
この装置は硬水軟化装置、あるいは脱アルカリ軟化装置などと呼ばれています。
伝熱面の腐食
給水中に溶存酸素が含まれていると、ボイラ水中に持ち込まれて腐食の原因となります。
この対策として、
- 脱気器を設置する。
- ヒドラジンなどの脱酸剤を注入する。
- ボイラ水をアルカリ性にする。
などが挙げられます。
ただし、ボイラ水をアルカリ性にする場合はボイラの循環形式に注意が必要です。
自然循環ボイラ、強制循環ボイラでは薬品添加によりアルカリ性にすることができますが、貫流ボイラでは薬品添加できないので、アンモニアなどの揮発性物質を添加する必要があります。
また、特に丸ボイラではアルカリ成分がボイラ水中で濃縮されて、ドラム内部に脆化・亀裂を生じることがあります。これを苛性脆化といいます。
プライミング
ボイラの負荷が急激に変動しドラム内の蒸発が盛んになると、水位が急上昇して気泡や水滴が外に運び出されることがあります。
この現象をプライミングといい、ボイラ水中の固形分の増加により誘発されます。
したがって、給水中の溶解固形分をあらかじめ除去することや、ブローなどによりボイラ水中の固形分を減らす必要があります。
キャリーオーバ
溶解固形分が外に運び出され、蒸気に混入する現象をキャリーオーバといいます。
蒸気に混入した固形分は、タービンの翼などに付着して障害を起こす可能性があります。
フォーミング
給水ともに油脂分がボイラ水中に入ると、ドラム水面上に気泡層が生じることがあります。
この現象をフォーミングといい、前述したプライミングを助長するため好ましくありません。
対策としては、給水中の不純物をあらかじめ除去することが最も効果的です。
ボイラの性能計算
ボイラの性能に関する計算問題はほぼ毎年出題されており、非常に重要です。
必ず解けるようにしておきましょう。
ボイラ効率
燃料の保有する熱量のうち、どのくらいの熱量が蒸気発生に利用されたかを示す割合をボイラ効率ηBといい、
$$η_{B}=\frac{W_{s}(h_{1}-h_{4})}{G_{f}H_{1}}×100・・・(1)$$
ηB:ボイラ効率[%]、Ws:ボイラの発生蒸気量[kg/h]
h1:発生蒸気のエンタルピー[kJ/kg]、h4:給水のエンタルピー[kJ/kg]
Gf:燃料消費量[kg/h]、H1:燃料の低発熱量[kJ/kg]
(1)式で表されます。
(1)式で単にボイラ効率を算出する問題や、ボイラ効率が問題で与えられ燃料消費量を逆算する問題が出題されたことがあります。
どのパラメータが与えられても計算できるようになっておきましょう。
また、ボイラの発生蒸気量は[t/h]、燃料の低発熱量は[MJ/kg]で与えられることが多いので単位換算に注意しましょう。
ボイラの熱損失
ボイラの熱損失は大きく5つに分けられます。
- 排ガス熱損失
- 不完全燃焼による熱損失
- 燃えがら中の未燃分による熱損失
- 放散熱による熱損失
- その他熱損失
これらのうち、排ガス熱損失が大きくなることが多く、計算問題としても出題されやすいです。
排ガス熱損失LGは、
$$L_{G}=Gc_{p}(T_{g}-T_{0})・・・(2)$$
LG:燃料単位質量当たりの排ガス熱損失[kJ/kg-f]
G:燃料単位質量当たりの排ガス量[kg/kg-f]
cp:ボイラ排ガスの平均比熱[kJ/(kg・K)]
Tg:ボイラの排ガス温度[℃]、T0:基準温度[℃]
(2)式で表されます。
改善前、改善後で計2回計算して熱損失がどれだけ減少したか比較する問題が過去に出題されています。
乾き度
ボイラの発生蒸気の乾き度を計算する問題もよく出題されます。
$$x_{ad}=\frac{h_{1}-h'}{h''-h'}・・・(3)$$
h1:ボイラ出口蒸気の比エンタルピー[kJ/kg]
h':膨張前の圧力での飽和水の比エンタルピー[kJ/kg]
h'':膨張前の圧力での飽和蒸気の比エンタルピー[kJ/kg]
乾き度xad[-]は(3)式で計算できます。
蒸気タービンの構造
蒸気タービンの構造は大きく5つに分けられます。
動力発生部
熱エネルギーを動力に変換させる部分で、ノズル(静翼)と回転羽根(動翼)の組み合わせで構成されています。
ノズルでは熱エネルギーを速度エネルギーに変換し、回転羽根では速度エネルギーの一部を動力に変換して出力軸に伝達しています。
動力伝達部
回転羽根を取り付ける羽根車、軸、軸継手などから構成されています。
羽根車と軸をまとめたものはロータと呼ばれ、ロータは軸受を介してケーシングに支持されています。
ケーシング
高速で回転しているロータなどを覆うケースで、ロータを支持する役割と圧力容器としての役割があります。
なるべく軸対称で急激な肉厚の変化のない構造として、過大な熱応力が働かないように考慮する必要があります。
軸受部
軸を介してロータを支持し、ロータの円滑で安定な回転状態を保つための役割があります。
軸受部からの高圧蒸気の漏れを防止するために、ラビリンスシールや水封式のシールを設置します。
制御保安部
蒸気タービンの回転数を所定の値に制御する必要があるので、調速機(ガバナ)を設置することが多いです。
回転数の変化を検知すると蒸気加減弁の開度を変更し、所定の回転数に戻すような制御が行なわれます。
内燃機関の特徴
火花点火機関(ガソリン機関)
火花点火機関は、燃料として気化しやすいガソリンあるいは気体燃料を使用し、シリンダ内の燃焼室で火花により着火させて動力発生を行なう機関です。
排ガス温度は500~600℃で比較的高温であるため、NOx発生が多く脱硝触媒の設置が望まれます。
火花点火機関の理論サイクルは下図に示すようなオットーサイクルです。
オットーサイクルの熱効率ηthは、
$$η_{th}=(1-(\frac{1}{ε})^{κ-1})×100・・・(4)$$
ε:圧縮比[-]、κ:作動媒体の比熱比[-]
(4)式で表され、圧縮比を増加させるほど熱効率が向上することがわかります。
ただし、圧縮比とともに圧縮後の空気温度が上昇し、ノッキング(異常燃焼)を起こす可能性が高くなります。
したがって、通常は圧縮比を5~13程度として運転することが多いです。
ノッキングの防止策としては、高オクタン価の燃料を選定する方法があります。
圧縮着火機関(ディーゼル機関)
圧縮着火機関は、燃料として噴霧しやすい軽油・重油を使用し、シリンダ内の燃焼室で圧縮着火させ動力発生を行なう機関です。
火花点火機関と同様に高温燃焼方式であるため脱硝触媒の設置が望まれ、加えて未燃のすすが発生するため、これの除去も必要です。
圧縮着火機関の理論サイクルは下図に示すようなディーゼルサイクルです。
ディーゼルサイクルの熱効率ηthは、
$$η_{th}=(1-(\frac{1}{ε})^{κ-1}(\frac{ξ^{κ}-1}{κξ-κ}))×100・・・(5)$$
ε:圧縮比[-]、κ:作動媒体の比熱比[-]、ξ:燃料噴射締切比[-]
(5)式で表され、オットーサイクルと同様に圧縮比を増加させるほど熱効率が向上することがわかります。
ディーゼルサイクルでは圧縮後の空気温度を燃料の着火温度以上にする必要があるため、圧縮比を12~22と大きくとることができます。
そのため、圧縮着火機関(ディーゼル機関)の方が火花点火機関(ガソリン機関)より熱効率が高くなります。
ガスタービンの性能
ガスタービンの理論サイクル
ガスタービンの理論サイクルは下図に示すようなブレイトンサイクルとなります。
燃焼による作動媒体の変化を無視して、熱効率ηthを算出すると、
$$η_{th}=\frac{(h_{1}-h_{2})-(h_{4}-h_{3})}{h_{1}-h_{4}}・・・(6)$$
h1:燃焼器出口のエンタルピー[kJ/kg]、h2:タービン出口のエンタルピー[kJ/kg]
h3:圧縮機入口のエンタルピー[kJ/kg]、h4:圧縮機出口のエンタルピー[kJ/kg]
(6)式となります。
熱効率の計算問題が出題されることはほとんどないと思いますが、サイクルの特徴は覚えておきましょう。
ガスタービンの性能改善
ガスタービンの性能改善は、
- タービン入口温度の上昇
- 翼冷却空気量の削減
- 圧縮機入口温度の低下
などが挙げられます。
特にタービン入口温度の上昇に関する内容はよく出題されていました。
コンバインド・サイクル発電
ガスタービンの排ガス温度は約600℃と高く、この排ガスを回収して蒸気タービンを駆動させる手法を、コンバインド・サイクル発電方式といいます。
蒸気タービン側でどのように熱回収するかによって方式が様々あり、
- 給水予熱方式:ガスタービンの排熱で蒸気プラントの給水を加熱する。
- 排気再燃方式:ガスタービンの排気をボイラ燃焼用空気として利用する。
- 排気助燃方式:ガスタービンの排気を助燃して、排熱回収ボイラで熱回収する。
- 排熱回収方式:ガスタービンの排気を排熱回収ボイラで熱回収する。
などが挙げられます。
これらの中では、排熱回収方式が最も熱効率が高いとされています。
コージェネレーション
タービン等による発電だけでなく、発電の過程で生じた排熱を有効利用することにより動力プラント全体の熱効率を向上させるシステムをコージェネレーションといいます。
排熱を回収して蒸気や温水として有効利用することで、総合的な熱効率は80%を超えることもあります。
ただし電気と熱はエネルギーの質が異なるため、コージェネレーションの採用には蒸気や温水の需要が必要となってきます。
おわりに
エネルギー管理士(熱分野)課目Ⅳの熱利用設備(ボイラ等)の分野について解説しました。
課目Ⅱの熱力学の基礎分野と被る内容があるので、合わせて勉強しましょう。