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化学工学 伝熱

【伝熱】既設プラント伝熱計算でのポイント5つ

2021年3月30日

概要

実務では既設プラントの伝熱計算をすることは非常に多いです。

増産するときは既設プラントにどのくらいの能力余裕があるか確認する必要がありますし、トラブル時は原因究明のために計算します。

つまり、良い案件だろうと悪い案件だろうと伝熱計算はする必要があります。

対象機器は熱交換器が多いですが、たまに撹拌槽の伝熱計算もやります。

撹拌槽の伝熱計算はあまり確立されていないところがありますので、以前に解説記事を書きました。
本文は有料ですが、無料で読める前振り段階の内容も非常に重要ですのでよかったら見ていってください。

【撹拌槽伝熱】総括伝熱係数U・伝熱面積A・温度差ΔTそれぞれの改善手法を徹底解説

この記事では撹拌槽の伝熱能力についての考え方や計算方法、どのようにすれば伝熱性能を改善させることができるのか、について解説しています。

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本記事では、化学メーカーの設計担当者が実務で伝熱計算をするときのポイントや気をつけていることを5つ紹介します。

伝熱計算ポイント5つ

物性が合っているか

何はともあれ、まずは使用する物性が妥当かどうか確認しています。

計算式が正しくても、物性値が異なっていれば正しい結果が出ませんからね。

熱収支計算で使用する物性である、比熱、蒸発潜熱、熱伝導度の推算方法について以下の記事で解説しています。

【比熱】推算方法を解説:分子構造や対応状態原理から推算

熱収支を計算するうえで最も重要な物性は比熱です。蒸気圧や蒸発潜熱はわからなくても場合によっては計算できますが、比熱がわからないと熱収支は計算できません。本記事では比熱の推算方法について紹介します。

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【蒸発潜熱】推算方法を解説:主要物質の実測値も記載

活量係数モデルで気液平衡を計算する場合には、蒸発潜熱の推算が必要になります。活量係数モデルは気液平衡計算モデルの中でも使用頻度が高いので、蒸発潜熱の推算法も知っておいた方が良いでしょう。

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【熱伝導度】推算方法を解説:フーリエの法則の比例定数

気体や液体の熱伝導度は主に熱流体解析をするうえで必要になってきます。熱伝導度はフーリエの法則で使用されているため、伝導伝熱の寄与に関係します。

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最近は化工シミュレーションソフト内にこれらの物性計算式も組み込まれており、ソフト内に登録されている物質の物性は勝手に計算してくれます。

かなり便利になっている一方で、ソフト内にどのような計算式が入っているか把握せずに使用するのは危険です。

きちんと調べてからソフトを使用するようにしましょう。

流量・温度データはあるか

実機の流量・温度データは非常に貴重です。

というより、これらのデータなくして既設装置の伝熱能力解析はできません。

熱交換器であれば各流体の入口に流量計と、各流体の入口出口に温度計があれば完璧ですが、そんな豪華に計器が付いた熱交換器は見たことがありません。

実際はプロセス側に流量計が1つと、プロセス側の入口か出口どちらかに温度計があれば泣いて喜ぶレベルです。

用役側には計器が付いていないことが多いです。
大元の配管には付いていると思いますが、各ユーザー(装置)に分岐した後の配管にはいちいち計器を付けてられません。

マテバラを計算するくらいなら用役側の情報がなくてもなんとかなりますが、既設装置の伝熱能力解析をするなら情報が必要です。

別途温度や流量を測定してデータを取得しましょう。

運転条件に変動はあるか

流量計や温度計等のプラントデータをその数字のまま鵜呑みにしてはいけません。

その数字がいつどのような運転のときのデータなのかきちんと調べましょう。

バッチプラントだと時間経過で値が変動するため、言うまでもなく変動があります。

一方で連続プラントだと値が一定だと思いがちですが、期間によっては定常運転時とは違う値を取ることもあります。

具体的には定修明けのプラントの立ち上げ時、数日~数週間くらいは低ロードで運転することはよくあります。

また、最近多いのが生産調整です。コロナによって需給バランスがいつもと違うため、定常ロードで生産せずに低ロードで運転することもあります。

そのプラントに詳しい担当者に、データ取得時の運転状況をきちんと確認しましょう。

汚れやすい系か

汚れ係数の記事でも解説していますが、熱交換器を主とする伝熱装置は汚れると伝熱能力が低下します。

熱交換器の性能悪化の原因【汚れ係数】を解説:主要流体の参考値も記載

プラント機器の中でも熱交換器は流体の温度変化により溶解度が変化することや伝熱管が細いことから汚れが付着しやすい機器です。伝熱面表面に汚れが付着することで伝熱性能が悪化しますが、その度合いを汚れ係数で表現します。

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通常はそのプロセスの汚れやすさを考慮して汚れ係数を決定して装置設計しているため、汚れによって運転不能になることは少ないです。

しかしどのようなプロセスでも汚れは確実に蓄積していきます。

定修明けのきれいな状態から、次の定修直前の汚い状態まで装置の伝熱能力は少しずつ悪化し、場合によっては運転条件にも影響が出ます。

わかりやすいのはスチームを使う加熱系の場合です。
装置の伝熱能力悪化を補うためにスチームの背圧を少しずつ増加させます。

汚れ係数の増加によって総括伝熱係数Uが悪化するのを、スチームの温度上昇によってカバーしているわけです。

したがって、既設の装置の伝熱能力計算をする場合は、いつのデータを使用するかで汚れ係数の値も変わってきます。

また、汚れ係数の増加度合いを運転期間でプロットすることで、装置の汚れ速度を見積もることもできます。

振動・異音はあるか

伝熱計算とは直接関係ありませんが、熱交換器設計用のシミュレーションソフトを使用すると伝熱計算はもちろんのこと、装置の寸法と流量情報からチューブが振動するかどうか計算してくれます。

熱交換器の主要なトラブルの1つに、振動することによるチューブの摩耗・減肉があります。
減肉が進行し過ぎるとチューブに穴が空いて流体が漏れてしまいますので避けなければなりません。


ただソフトの計算上、振動する可能性がある結果となっても、実際に振動するとは限りません。

したがって、実際に装置を確認して振動や異音があるかどうか、あるいは定修時ならチューブの減肉検査をして確認しましょう。

まとめ

伝熱計算をするときに気をつけていることを5つ紹介しました。

最低限このくらいの内容を確認しておけば、割とまともな検討になると思います。

自分なりにある程度検討のチェックポイントをまとめておくと良いですね。