概要
ある系の温度T、圧力P、体積Vに対して臨界温度Tc、臨界圧力Pc、臨界体積Vcで比を取ります。
$$T_{r}=\frac{T}{T_{c}}$$
$$P_{r}=\frac{P}{P_{c}}$$
$$V_{r}=\frac{V}{V_{c}}$$
Tr:対臨界温度、Pr:対臨界圧力、Vr:対臨界体積
これら3つの対臨界定数について、同じ対臨界状態では物質の種類に依らず同じ対臨界定数となることを対応状態原理といいます。
もっと簡単に言えば、どれか二つの対臨界定数が同じ値になれば、残り一つの対臨界定数は物質に関係なく同じ値となるということです。
この法則はファン・デル・ワールス式から導出することができ、気体に関しては広い範囲で成立することが知られています。
この法則のすごいところは物質による依存性がなく、同じルールの下で温度、圧力、体積を扱える点です。
世の物性はたいてい温度依存性、圧力依存性がありますから、対応状態原理に従う物質は同じような規則性を示します。
ひいては様々な物性推算に応用できる、というわけです。
ファン・デル・ワールス式からの導出
実際にファン・デル・ワールス式を変形して物性依存がないことを確認しましょう。
$$(P+\frac{a}{V^{2}})(V-b)=RT・・・(1)$$
P:圧力、V:体積、T:温度、R:気体定数、a、b:物質に固有な定数
ファン・デル・ワールス式は上式で表されます。
a,bは物質の種類に依存する定数であり、このa、bを消去することができれば物質に依存しない式となります。
まず(1)式をP=の形に変形します。
$$P=\frac{RT}{V-b}-\frac{a}{V^{2}}・・・(2)$$
続いて(2)式を圧力Pについて2階偏微分します。
(2)式には温度Tと体積Vの2変数が含まれていますので、ここでは温度Tを固定して体積Vについて偏微分します。
$$\biggr(\frac{∂P}{∂V}\biggr)_{T}=-\frac{RT}{(V-b)^{2}}+\frac{2a}{V^{3}}・・・(3)$$
$$\biggr(\frac{∂^{2}P}{∂V^{2}}\biggr)_{T}=\frac{2RT}{(V-b)^{3}}-\frac{6a}{V^{4}}・・・(4)$$
ここで臨界点について考えます。
臨界点では圧力Pが極大値かつ変曲点をもつことで知られており、
(3)式=0
(4)式=0
となります。
T、VをTc、Vcに書き換えて、
$$-\frac{RT_{c}}{(V_{c}-b)^{2}}+\frac{2a}{V_{c}^{3}}=0$$
$$\frac{2RT_{c}}{(V_{c}-b)^{3}}-\frac{6a}{V_{c}^{4}}=0$$
$$\frac{RT_{c}}{(V_{c}-b)^{2}}=\frac{2a}{V_{c}^{3}}・・・(5)$$
$$\frac{2RT_{c}}{(V_{c}-b)^{3}}=\frac{6a}{V_{c}^{4}}・・・(6)$$
(5)÷(6)とすると
$$\frac{V_{c}-b}{2}=\frac{V_{c}}{3}$$
$$V_{c}=3b・・・(7)$$
次に(5)式をTc=の形に変形し(7)式を代入します。
$$T_{c}=\frac{2a(V_{c}-b)^{2}}{RV_{c}^{3}}=\frac{8a}{27Rb}・・・(8)$$
次に(2)式をPc、Tc、Vcに書き換えて(7)式、(8)式を代入します。
$$P_{c}=\frac{R\frac{8a}{27Rb}}{3b-b}-\frac{a}{(3b)^{2}}=\frac{a}{27b^{2}}$$
(7)式を代入し、
$$a=3P_{c}V_{c}^{2}・・・(9)$$
また、(8)式に(7)式、(9)式を代入すると
$$T_{c}=\frac{8×3P_{c}V_{c}^{2}}{27R\frac{V_{c}}{3}}$$
$$\frac{RT_{c}}{P_{c}V_{c}}=\frac{8}{3}・・・(10)$$
(10)式が得られます。
ここで最初の(1)式に戻ります。概要で説明した対臨界定数の関係から、
$$T=T_{c}T_{r}$$
$$P=P_{c}P_{r}$$
$$V=V_{c}V_{r}$$
として、(7)式、(9)式と一緒に(1)式に代入します。
$$(P+\frac{a}{V^{2}})(V-b)=RT・・・(1)$$
$$(P_{c}P_{r}+\frac{3P_{c}V_{c}^{2}}{V_{c}^{2}V_{r}^{2}})(V_{c}V_{r}-\frac{V_{c}}{3})=RT_{c}T{r}$$
両辺をPcVcで割ると、
$$(P_{r}+\frac{3}{V_{r}^{2}})(V_{r}-\frac{1}{3})=\frac{RT_{c}T{r}}{P_{c}V_{c}}$$
ここで(10)式を右辺に代入すると、
$$(P_{r}+\frac{3}{V_{r}^{2}})(V_{r}-\frac{1}{3})=\frac{8}{3}T{r}$$
となりa、bが消去され対臨界定数で表された式となりました。
この式の形を見れば物性に依存せず、なおかつ対臨界定数のうち二つが同じ値となれば残り一つの対臨界定数も同じ値に決まることがわかるかと思います。