概要
液滴の大きさや分裂の指標となるウェーバー数Weを撹拌に適用させたものを撹拌ウェーバー数Weといいます。
$$We=\frac{ρ_{c}n^{2}d^{3}}{σ}・・・(1)$$
ρc:連続相の密度[kg/m3]、n:撹拌回転数[1/s]、d:翼径[m]、σ:表面張力[N/m]
"化学工学の進歩24 攪拌・混合"を参照
撹拌Weは(1)式で表されます。
撹拌Weは液液混合系において、撹拌翼の回転によるせん断でどのくらいの大きさの液滴が生じるかを推算するときに使用します。
$$\frac{d_{32}}{d}=C・We^{-\frac{3}{5}}・・・(2)$$
d32:体面積平均の液滴径[m]、C:定数
様々な仮定を置くことで(2)式を導けることが知られています。(2)式から撹拌Weと翼径dを一定とすれば液滴径d32も一定値となることがわかります。
ただし、撹拌Weの次数である-3/5乗は、扱う系により値が変化することも報告されています。
厳密に(2)式を使用する場合は、実験データから(2)式の定数Cと撹拌Weの次数をフィッティングするのが望ましいでしょう。
撹拌We数の導出
(1),(2)式の導出について解説します。
まず通常のウェーバー数Weは(3)式で表されます。
$$We=\frac{ρLV^{2}}{σ}・・・(3)$$
ρ:分散相の密度[kg/m3]、L:代表長さ[1/s]、V:代表速度[m]、σ:表面張力[N/m]
Weは慣性力と表面張力の比で表される無次元数です。
Weが大きいと(3)式分子の慣性力が大きくなるため、液滴が分裂しやすくなることを示しています。
また、(3)式は液滴界面に加わる外力τを使用して、
$$We=\frac{τ・d}{σ}・・・(4)$$
τ:液滴界面に加わる外力[N/m2]、d:液滴径[m]
(4)式で表すことも可能です。液滴径dを代表長さとして取ります。
ここで、1つの液滴が分裂する場合を考えます。
ここでは、
- 流れにより液滴に加わる外力(動圧変動やせん断力)
- 液滴の界面圧
- 液滴内粘性応力
以上の3つのバランスで分裂するかどうかが決まります。
(4)式の外力τと界面力d/σの比が臨界値を超えると液滴は分裂するとしてHinzeは次の(5)式を提案しています。
$$We_{crit}=C[1+f(N_{vi})]・・・(5)$$
Wecrit:臨界ウェーバー数[-]、C:定数、Nvi:無次元粘性グループ
仮に分散相の粘度が低く、粘性応力が無視できる場合は(5)式は
$$We_{crit}≒C・・・(6)$$
(6)式へと簡略化できます。
また、Kolmogoroffの局所等方性理論から、エネルギー消散渦のスケールηが液滴径dpより十分小さい場合は、
$$τ∝ρ_{c}(ε・d_{p})^{\frac{2}{3}}・・・(7)$$
ε:単位体積当たりのエネルギー消散速度
(7)式が成立します。(4),(7)式から、
$$We_{crit}∝\frac{ρ_{c}ε^{\frac{2}{3}}{d_{p}}^{\frac{5}{3}}}{σ}≒C・・・(8)$$
(8)式となります。
ここで、単位体積当たりのエネルギー消散速度εが単位体積当たりの撹拌動力Pvに比例すると考え、乱流条件下では
$$ε∝P_{v}∝n^{3}d^{2}・・・(9)$$
(9)式が成立します。
(8),(9)式から、
$$\frac{ρ_{c}(n^{3}d^{2})^{\frac{2}{3}}{d_{p}}^{\frac{5}{3}}}{σ}≒C$$
$$\frac{ρ_{c}n^{2}d^{3}}{σ}d^{-\frac{5}{3}}{d_{p}}^{\frac{5}{3}}≒C$$
$$\frac{d_{p}}{d}=C・(\frac{ρ_{c}n^{2}d^{3}}{σ})^{-\frac{3}{5}}・・・(10)$$
(10)式となります。
液滴径dpについて、ここでは体面積平均径d32に置き換えます。
$$\frac{d_{32}}{d}=C・(\frac{ρ_{c}n^{2}d^{3}}{σ})^{-\frac{3}{5}}・・・(10)$$
最後に撹拌We数として
$$We=\frac{ρ_{c}n^{2}d^{3}}{σ}・・・(1)$$
(1)式を定義することにより、
$$\frac{d_{32}}{d}=C・We^{-\frac{3}{5}}・・・(2)$$
(2)式の関係を導くことができます。
おわりに
撹拌ウェーバー数Weについて解説しました。
撹拌翼によって生じる液滴径を制御したい場合は取り扱うことになるかと思います。