概要
HETPはHeight Equivalent to a Theoretical Plateの略で、理論段数1段と同等の性能となる充填高さを表わします。
HETPを利用すれば、充填塔の充填高さZ[m]は
$$Z=HETP×理論段数$$
上式で算出できます。
段塔の考え方である理論段数をそのまま充填塔に利用できるため、非常に便利な指標です。
その一方で、HETPはHTUと同様に塔の様々な運転条件に左右される値であるため、正確な値を求める手法が今のところ存在しません。
本記事では、HETPの概算方法について紹介します。
HETPの概算方法
実測データの利用
メーカーの充填物であれば、カタログにHETPのグラフが載っていることがほとんどです。
ただし、HETPが測定された系をよく確認しましょう。普通は、メタノール-水の2成分系などの汎用的な系で測定されています。
測定された2成分系が、設計したい系と気液平衡関係が全く異なる場合はカタログ値を使用するのは控えた方が良いでしょう。
その充填物で設計したければ、素直にメーカーに相談するのが良いです。
また、ラボで実験して実測データを取り、スケールアップするのも一つの手です。
推算式
HETPは理論的根拠に乏しいパラメータなので、推算式は実験データをベースとした式になっています。
実験データが取得された操作条件に近ければ精度は高いと思いますが、操作条件を外れると信頼性が下がると思います。
使用する場合は、元文献をよく確認するのが良いです。
Ellisの式
$$HETP=[18d_{p}+0.305m(G/L-1)](Z/3.05)^{0.5}$$
dp:充填物の寸法[m]、m:気液平衡線の勾配[-]
G:単位断面積当たりのガス質量流量[kg/m2/h]
L:単位断面積当たりの液質量流量[kg/m2/h]
Z:充填高さ[m]
式に充填高さZが含まれているため、新規で充填塔を設計する場合には使いづらい式です。
Granvilleの式
$$HETP=28d_{p}(mG_{M}/L_{M})$$
GM:単位断面積当たりのガスモル流量[kmol/m2/h]
LM:単位断面積当たりの液モル流量[kmol/m2/h]
Hand&Wittの式
$$HETP=70(d_{p}μ_{L}/L)^{0.5}$$
μL:液粘度[cp]
Murchの式
$$HETP=K_{1}G^{K_{2}}d_{t}^{K_{3}}Z^{1/3}αμ_{L}/ρ_{L}$$
dt:塔径[m]、α:比揮発度[-]、ρL:液密度[g/cm3]、μL:液粘度[cp]
K1,K2,K3:充填物による定数
種類 | 寸法 | K1 | K2 | K3 |
ラシヒリング | 3/8 in | 13.5 | -0.37 | 1.24 |
1/2 in | 44.8 | -0.24 | 1.24 | |
1 in | 2.4 | -0.10 | 1.24 | |
2 in | 1.5 | 0 | 1.24 | |
ベルルサドル | 1/2 in | 25.5 | -0.45 | 1.11 |
1 in | 2.1 | -0.14 | 1.11 | |
マクマホン | 1/4 in | 0.011 | 0.50 | 1.00 |
3/8 in | 0.20 | 0.25 | 1.00 | |
1/2 in | 0.36 | 0.20 | 1.00 | |
キャノン | 1/4 in | 0.030 | 0.25 | 0.30 |
3/8 in | 0.0039 | 0.50 | 0.30 | |
1 in | 0.288 | 0.12 | 0.30 | |
ステッドマン No.128 | 2 in | 0.0033 | 0.48 | 0.24 |
ステッドマン No.107 | 3 in | 0.0219 | 0.26 | 0.24 |
ステッドマン No.115 | 6 in | 0.0120 | 0.32 | 0.24 |
Robinson&Gillilandの式
$$HETP=\frac{d_{t}}{M_{G}}[8.74G^{0.2}+\frac{42G}{(\frac{αM_{L}}{ρ_{L}})D_{L}(\frac{L}{μ_{L}})^{0.75}(\frac{μ_{L}}{ρ_{L}D_{L}})^{0.5}}]$$
MG:気相の平均分子量[g/mol]、ML:液相の平均分子量[g/mol]
μL:液粘度[p]
液粘度がこの式だけポイズ(p)であることに注意です。
既設の塔・類似の塔を参照
私自身がHETPで困ったことがない一番の理由が、既設プラントの改造や既設の系列増の案件ばかりで、既設の塔の充填高さやHETPを参考にできるからです。
会社の風土にもよると思いますが、このご時世で全く社内に実績のないプラントを建てるのはリスクがあります。
その結果、保守的な会社では、既設の改造で生産能力増強を行なったり、既設のコピーやマイナーチェンジ程度の変更で新系列を立ち上げることがほとんどです。
既設の改造では処理流量が増えるため、充填高さやHETPよりは、フラッディングの方が引っかかることが多いです。
そのため、充填高さはそのままで塔径だけ大きくする改造をよくやります。
もし皆さんが全くの新規プラント設計に携わることがあれば、非常に貴重な経験ですので特に頑張って取り組んだ方が良いと思います。