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化学工学 熱力学

【Debye-Hückelの理論】を解説:電解質溶液の活量係数計算式の基礎

2022年5月9日

概要

Debye-Hückelの理論は1923年に発表された希薄強電解質溶液の活量係数を表わす理論で、(1)式で表されます。

$${\rm{log}}γ_{j}=\frac{-A_{γ}z^{2}\sqrt{I}}{1+B_{γ}a\sqrt{I}}・・・(1)$$

γj:jイオンの活量係数、Aγ,Bγ:定数、I:イオン強度

(1)式はイオン強度が0.1M以下までの薄い濃度の溶液に適用することができます。しかしイオン強度が大きくなると実験値との誤差が大きくなります。

現在実用的に使用されている電解質モデルは、ほとんど全てこのDebye-Hückelの理論をベースにして、より適用範囲を広げるために改良されてきたモデルです。

したがって電解質モデルを理解するために、まずDebye-Hückelの理論を理解しておくことは非常に重要です。

本記事ではDebye-Hückelの理論の概要や大まかな導出過程について解説します。

Debye-Hückel式の導出

DebyeとHückelは電解質溶液における非理想性は、イオン同士がクーロン力により相互作用しているためと考えました。

どの程度のクーロン力でイオン同士の相互作用が働いているかは、イオン表面の静電ポテンシャルφで決まるものと考えます。

溶液中に存在する、ある電荷zieの1つのイオンに注目したとき、このイオンの静電ポテンシャルφはPoissonの式から、

$$∇^{2}φ=-\frac{4π}{ε}ρ・・・(2)$$

$$※∇^{2}φ=\frac{∂^{2}φ}{∂x^{2}}+\frac{∂^{2}φ}{∂y^{2}}+\frac{∂^{2}φ}{∂z^{2}}・・・(3)$$

ρ:電荷密度、ε:溶液の誘電率

(2)式で表されます。

ただし、溶液の誘電率εは純水の値とし、溶液中のどこの場所でも一定だという前提を置いています。

 

静電ポテンシャルφはイオンの中心点からの距離rに依存します。(3)式は直交座標系ですが、極座標系の方が都合がよいので変換します。

$$※∇^{2}φ=\frac{1}{r^{2}}\frac{d}{dr}(r^{2}\frac{dφ}{dr})=-\frac{4π}{ε}ρ・・・(4)$$

 

次に溶液中では電気的中性が成り立っており、イオンの電荷を全て足し合わせるとゼロになると考えます。

注目しているイオンがzieの電荷を持っているため、イオン中心からある特定の距離aから外側の領域に存在する電荷は-zieとなります。これを式に表すと、

$$\int_{a}^{∞}4πr^{2}ρ_{j}dr+z_{i}e=0・・・(5)$$

(5)式となります。この(5)式は後に境界条件で使用します。

 

1つのイオンの持つ静電ポテンシャルについては(4)式で表せたので、次に溶液中でのイオンの分布について考えます。

DebyeとHückelはボルツマン分布則に従ってイオンが分布していると仮定しています。

$$n_{i}'=n_{i}{\rm{exp}}(-\frac{z_{i}eφ_{j}}{kt})・・・(6)$$

ni':ある任意の点に局在しているイオンの数

ni:単位体積当たりに存在するイオンの数

φjはjイオンを原点としたときの静電場のポテンシャルです。

ここで、電荷密度ρj

$$ρ_{j}=\sum_{i}z_{i}en_{i}{\rm{exp}}(-\frac{z_{i}eφ_{j}}{kt})・・・(7)$$

(7)式で表されます。

(7)式について、溶液中のイオン濃度が薄くjイオンが他のイオンと十分に距離があると考え、jイオンの近傍でマクローリン展開を行ない第2項まで取得します。

$$ρ_{j}=\sum_{i}z_{i}en_{i}-\sum_{i}\frac{{z_{i}}^{2}e^{2}n_{i}φ_{j}}{kt}・・・(8)$$

(8)式の第一項は溶液の電気的中性からゼロになるので、

$$ρ_{j}=-\sum_{i}\frac{{z_{i}}^{2}e^{2}n_{i}φ_{j}}{kt}・・・(9)$$

(9)式となります。

(9)式を(4)式に代入すると、

$$\frac{1}{r^{2}}\frac{d}{dr}(r^{2}\frac{dφ_{j}}{dr})=\sum_{i}\frac{{4πz_{i}}^{2}e^{2}n_{i}}{εkt}φ_{j}$$

ここで、(10)式とおくと、

$$κ^{2}=\sum_{i}\frac{{4πz_{i}}^{2}e^{2}n_{i}}{εkt}・・・(10)$$

$$\frac{1}{r^{2}}\frac{d}{dr}(r^{2}\frac{dφ_{j}}{dr})=κ^{2}φ_{j}$$

$$\frac{d^{2}φ_{j}}{dr^{2}}+\frac{2}{r}\frac{dφ_{j}}{dr}-κ^{2}φ_{j}=0・・・(11)$$

(11)式となります。

(11)式の形は一般解があり、

$$φ_{j}=\frac{A}{r}{\rm{exp}}(-κr)+\frac{B}{r}{\rm{exp}}(κr)・・・(12)$$

(12)式のような形になります。あとは、境界条件から定数A、Bを決定します。

まず、r→∞のとき静電ポテンシャルφjは収束する必要がありますから、B=0となります。

したがって、(13)式となります。

$$φ_{j}=\frac{A}{r}{\rm{exp}}(-κr)・・・(13)$$

次に(9)、(13)式を(5)式に代入すると、

$$-\int_{a}^{∞}4πr^{2}・(\sum_{i}\frac{{z_{i}}^{2}e^{2}n_{i}}{kt})\frac{A}{r}{\rm{exp}}(-κr)dr+z_{i}e=0$$

$$-\sum_{i}\frac{{4πz_{i}}^{2}e^{2}n_{i}A}{kt}\int_{a}^{∞}r・{\rm{exp}}(-κr)dr=-z_{i}e・・・(14)$$

(14)式となります。

(14)式の積分項は部分積分で解くことができます。

積分項だけに注目すると、

$$\begin{align}\int_{a}^{∞}r・{\rm{exp}}(-κr)dr&=\left[-\frac{r}{κ}{\rm{exp}}(-κr)\right]^{∞}_{a}+\int_{a}^{∞}\frac{1}{κ}{\rm{exp}}(-κr)dr\\&
=\frac{a・{\rm{exp}}(-κa)}{κ}+\left[-\frac{{\rm{exp}}(-κr)}{κ^{2}}\right]^{∞}_{a}\\&
=\frac{1+κa}{κ^{2}}{\rm{exp}}(-κa)\end{align}$$

 

となります。

その後、(14)式を整理すると、

$$-\sum_{i}\frac{{4πz_{i}}^{2}e^{2}n_{i}A}{kt}\frac{1+κa}{κ^{2}}{\rm{exp}}(-κa)=-z_{i}e$$

$$-κ^{2}εA\frac{1+κa}{κ^{2}}{\rm{exp}}(-κa)=-z_{i}e$$

$$A=\frac{z_{i}e}{ε}\frac{{\rm{exp}}(κa)}{1+κa}・・・(15)$$

定数Aは(15)式で表されます。

したがって、静電ポテンシャルφjは(15)式を(13)式に代入し、

$$φ_{j}=\frac{z_{i}e}{ε}\frac{{\rm{exp}}(κa)}{1+κa}\frac{{\rm{exp}}(-κr)}{r}・・・(16)$$

(16)式となります。

 

ここで、私たちが知りたいのはjイオン以外の全てのイオンの静電ポテンシャルであり、φjからjイオンのポテンシャルを差し引くことで算出できます。

$$\begin{align}{φ_{j}}^{*}&=\frac{z_{i}e}{ε}\frac{{\rm{exp}}(κa)}{1+κa}\frac{{\rm{exp}}(-κr)}{r}-\frac{ze}{εr}\\&
=\frac{ze}{εr}(\frac{{\rm{exp}}(κa)}{1+κa}\frac{{\rm{exp}}(-κr)}{r}-1)・・・(17)\end{align}$$

rはある特定の距離aより小さくなれないため、r<aの範囲のポテンシャルはr=aのポテンシャルに等しくなります。

$${φ_{j}}^{*}=-\frac{ze}{ε}\frac{κ}{1+κa}・・・(18)$$

ここで、jイオンのポテンシャルの減少量がギブス自由エネルギー変化と考えると、

$${G_{j}}^{ex}=\frac{ze{φ_{j}}^{*}}{2}・・・(19)$$

(19)式が成り立ちます。2で割っているのは各イオンを2回数えているためです。

化学ポテンシャルで表すためにアボガドロ数Nをかけて1mol当たりとすると、

$${μ_{j}}^{ex}=-\frac{z^{2}e^{2}N}{2ε}\frac{κ}{1+κa}・・・(20)$$

(20)式となります。

また、そもそも活量係数γは

$${μ_{j}}^{ex}=RT{\rm{ln}}γ_{j}・・・(21)$$

(21)式で定義されていますから、(20)式を代入して、

$${\rm{ln}}γ_{j}=-\frac{z^{2}e^{2}N}{2εRT}\frac{κ}{1+κa}$$

ボルツマン定数k=R/Nで表すと、

$${\rm{ln}}γ_{j}=-\frac{z^{2}e^{2}}{2εkT}\frac{κ}{1+κa}・・・(22)$$

(22)式となります。

(22)式でも活量係数を表わす式として正しいのですが、一般的にDebye-Hückelの理論の活量係数は(1)式のように常用対数で表されることが多いので、ここから式変形していきます。

 

まず(10)式に含まれるイオンの数niを単位変換します。

$$n_{i}=\frac{c_{i}N}{1000}・・・(23)$$

ni:単位体積当たりに存在するイオンの数[個/cc]、ci:モル濃度[mol/L]

続いて、モル濃度ciを質量モル濃度mi[mol/kg]に変換します。

その際、溶液の密度は水の密度ρに近似できるとして、

$$c_{i}≒m_{i}ρ・・・(24)$$

(23)、(24)式を(10)式に代入すると、

$$κ^{2}=\frac{{4πe^{2}ρ\sum_{i}m_{i}z_{i}}^{2}}{1000εkt}・・・(25)$$

(25)式となります。

ここで、イオン強度Iを

$$I=\frac{1}{2}\sum_{i}m_{i}{z_{i}}^{2}・・・(26)$$

(26)式と定義します。

(25)式は、

$$κ^{2}=\frac{8πe^{2}ρI}{1000εkt}・・・(27)$$

(27)式となります。

(22)式に(27)式を代入すると、

$${\rm{ln}}γ_{j}=-\frac{z^{2}e^{2}}{2εkT}\frac{\sqrt{\frac{8πe^{2}ρI}{1000εkt}}}{1+a・\sqrt{\frac{8πe^{2}ρI}{1000εkt}}}$$

ここで、

$$B_{γ}=\sqrt{\frac{8πe^{2}Nρ}{1000εkt}}・・・(28)$$

$$A_{γ}=\frac{\sqrt{2πN}e^{3}\sqrt{ρ}}{{\rm{ln}}(10)\sqrt{1000}(εkT)^{3/2}}・・・(29)$$

(28)、(29)式とおくと、

$${\rm{log}}γ_{j}=\frac{-A_{γ}z^{2}\sqrt{I}}{1+B_{γ}a\sqrt{I}}・・・(1)$$

(1)式が導出できます。

また、平均イオン活量係数γ±を求める場合は、

$${\rm{log}}γ_{±}=\frac{-A_{γ}\left|z_{+}z_{-}\right|\sqrt{I}}{1+B_{γ}a\sqrt{I}}・・・(30)$$

(30)式のように修正して使用することができます。

おわりに

Debye-Hückelの理論や式の導出を解説しました。

電解質モデルのベースとなる理論なので、概要だけでも理解しておきましょう。