概要
表面張力は機器表面の濡れ性を考慮する際に必要となることがあります。
例えば蒸留塔の詳細設計においては、充填物表面の濡れ面積を算出するのに表面張力が必要になります。
充填物の濡れ性能は分離性能に大きく寄与するため、非常に重要な計算項目です。
また、液と充填物の材質との相性も重要です。
全く同じ形状の充填物でも、材質が異なり濡れ性能が違うだけで能力が出ないことはよくあります。
プラスチック系の充填物が水系に採用されづらいのは、プラスチックが水をはじいて気液接触面積が小さくなるからです。
この記事では表面張力の実測値と推算方法について紹介します。
実測値
空気中での各物質の表面張力の実測値を示します。
物質 | 温度[℃] | 表面張力[dyn/cm] | 物質 | 温度[℃] | 表面張力[dyn/cm] |
アルゴン | -187.16 | 12.84 | 水銀 | 20.0 | 475.0 |
アンモニア | -45.0 | 36.67 | 水素 | -256.0 | 2.41 |
一酸化炭素 | -193.0 | 9.8 | 窒素 | -203.0 | 10.5 |
一酸化窒素 | -156.0 | 23.83 | 二酸化硫黄 | 30.0 | 20.6 |
一酸化二窒素 | 20.0 | 1.75 | 二酸化炭素 | 20.0 | 1.16 |
塩化水素 | -93.0 | 24.7 | ネオン | -248.16 | 5.5 |
塩素 | 20.0 | 18.4 | フッ化水素 | 10.0 | 9.62 |
過酸化水素 | 18.2 | 76.1 | フッ素 | -200.0 | 16.82 |
三酸化硫黄 | 35.3 | 30.3 | ヘリウム | -270.0 | 0.239 |
酸素 | -202.0 | 18.01 | 水 | 25.0 | 71.97 |
四塩化炭素 | 30.0 | 25.7 | ヨウ化水素 | -36.0 | 27.1 |
臭化水素 | -70.0 | 27.65 | ヨウ素 | 125.0 | 36.8 |
臭素 | 20.0 | 41.5 |
水の表面張力が約72dyn/cmであることくらいは覚えておきましょう。
表面張力の推算法
パラコール法
表面張力σと密度ρの関係、及び対応状態原理を使用した式が提案されています。
$$σ=([P]ρ_{Lb})^{4}(\frac{1-T_{r}}{1-T_{br}})^{4n}$$
σ:表面張力[dyn/cm]、ρLb:標準沸点における分子密度[mol/cm3]
[P]:パラコール定数、Tr:対臨界温度、Tbr:対臨界沸点温度
パラコール定数は以下の表の加算因子から求めます。
パラコール定数[P] | パラコール定数[P] | ||
C | 9.0 | ケトン 炭素数3 | 22.3 |
H | 15.5 | ケトン 炭素数4 | 20.0 |
CH3- | 55.5 | ケトン 炭素数5 | 18.5 |
-CH2- | 40.0 | ケトン 炭素数6 | 17.3 |
CH3-CH(CH3)- | 133.3 | -CHO | 66 |
CH3-CH2-CH(CH3)- | 171.9 | O | 20 |
CH3-CH2-CH2-CH(CH3)- | 211.7 | N | 17.5 |
CH3-CH(CH3)-CH2- | 173.3 | S | 49.1 |
CH3-CH2-CH(C2H5)- | 209.5 | P | 40.5 |
CH3-C(CH3)2- | 170.4 | F | 26.1 |
CH3-CH2-C(CH3)2- | 207.5 | Cl | 55.2 |
CH3-CH(CH3)-CH(CH3)- | 207.9 | Br | 68.0 |
CH3-CH(CH3)-C(CH3)2- | 243.5 | I | 90.3 |
C6H5- | 189.6 | 二重結合 端 | 19.1 |
-COO- | 63.8 | 二重結合 2,3位置 | 17.7 |
-COOH | 73.8 | 二重結合 3,4位置 | 16.3 |
-OH | 29.8 | 三重結合 | 40.6 |
-NH2 | 42.5 | 3員環 | 12.5 |
-O- | 20.0 | 4員環 | 6.0 |
-NO2 | 74 | 5員環 | 3.0 |
-NO3 | 93 | 6員環 | 0.8 |
-CO(NH2) | 91.7 |
指数nは、アルコール類なら0.25、炭化水素,エーテル類なら0.29、他の有機化合物なら0.31を使用します。
例として、エタノールの20℃における表面張力を求めてみます。
表からパラコール定数は、
$$[P]=(CH_{3}-)+(-CH_{2}-)+(-OH)\\
=55.5+40.0+29.8=125.3$$
$$T_{r}=\frac{273.15+20}{516.2}≒0.568$$
$$T_{br}=\frac{273.15+78.5}{516.2}≒0.681$$
エタノールの沸点における液密度は0.734g/cm3、分子量は46.1g/molですから、
$$σ=(125.3×0.734/46.1)^{4}(\frac{1-0.568}{1-0.681})^{4×0.25}\\
≒21.5dyn/cm$$
実測値は22.8dyn/cmですので、近い値となっています。
Aspen Plusでの推算(DIPPR式)
Aspen PlusではDIPPR式が表面張力推算式のデフォルトとして設定されています。
$$σ=C_{1}(1-T_{r})^{(C_{2}+C_{3}T_{r}+C_{4}T_{r}^{2}+C_{5}T_{r}^{3})}$$
σ:表面張力[dyn/cm]、Tr:対臨界温度
上式となります。
C1~5は物質固有の定数であり、シミュレータ内に内蔵されています。
同様に、エタノールの20℃における表面張力を求めてみると、
25.7dyn/cmとなりました。
実測値は22.8dyn/cmですので、少しズレがあるかな、という精度です。