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化学工学 物性

【粘度】推算方法を解説:流体の流れやすさを示す指標

2020年11月28日

概要

粘度は物質収支、熱収支を取るうえでは必要ありませんので、概念設計段階ではあまり気にしなくてよいでしょう。

必要になるのは機器の詳細設計段階です。
例えば撹拌槽の設計においては、撹拌Reを算出するのに必要ですし、粘度によって撹拌翼を使い分けます。

また、熱流体解析を実施する場合には粘度は最重要物性となりますので、粘度の推算法はある程度知っておいた方が良いでしょう。

気体粘度の推算方法

気体分子運動論による方法

気体分子運動論をベースに、気体粘度を算出する方法が提案されています。

$$η=26.69\frac{\sqrt{MT}}{σ^{2}Ω_{v}}$$

η:気体粘度[μP]、M:分子量[g/mol]、T:温度[K]
Ωv:衝突積分、σ:剛体球分子としての直径[A]

衝突積分Ωv、剛体球分子直径σは物質の極性の有無により算出式が異なります。

極性がない場合は、

$$Ω_{v}=\frac{1.16145}{T'^{0.14874}}+\frac{0.52487}{{\rm{exp}}(0.7732T')}+\frac{2.16178}{{\rm{exp}}(2.43787)}$$

$$T'=\frac{T}{\frac{ε}{k}}$$

$$σ=(\frac{P_{c}}{T_{c}})^{-\frac{1}{3}}(2.3551-0.087ω)$$

$$\frac{ε}{k}=T_{c}(0.7915-0.1693ω)$$

T':規準化温度、k:ボルツマン定数、ε:分子の「特性エネルギ」
ω:偏心因子

これらの式からΩv、σを算出します。

極性がある場合は、

$$Ω_{v}=\frac{1.16145}{T'^{0.14874}}+\frac{0.52487}{{\rm{exp}}(0.7732T')}+\frac{2.16178}{{\rm{exp}}(2.43787)}+\frac{0.2δ^{2}}{T'}$$

$$T'=\frac{T}{\frac{ε}{k}}$$

$$σ=(\frac{1.585V_{b}}{1+1.3δ^{2}})^{\frac{1}{3}}$$

$$\frac{ε}{k}=1.18T_{b}(1+1.3δ^{2})$$

$$δ=\frac{1.94×10^{3}μ_{p}^{2}}{V_{b}T_{b}}$$

δ:極性パラメータ、μp:双極子能率、Tb:沸点[K]、Vb:沸点の分子体積[cm3/mol]

これらの式からΩv、σを算出します。

 μp[debye]σ[A]ε/k[K]δ
1.852.527751.0
アンモニア1.473.153580.7
塩化水素1.083.363280.34
亜硫酸ガス1.634.043470.42
硫化水素0.923.493430.21
クロロホルム1.0135.313550.07
塩化メチル1.873.944140.5
塩化エチル2.034.454230.4
メタノール1.703.694170.5
エタノール1.694.314310.3
プロパノール1.694.714950.2
イソプロパノール1.694.645180.2
エチルエーテル1.155.493620.08
アセトン1.204.505490.11
酢酸メチル1.725.044180.2
酢酸エチル1.785.244990.16
"設計者のための物性定数推算法"より引用

また、上表には主な物質の各パラメータを示します。

例として、プロパンの400Kにおける粘度を求めてみます。
プロパンの臨界温度は369.8K、偏心因子は0.152ですから、

$$\frac{ε}{k}=369.8×(0.7915-0.1693×0.152)≒283.2$$

$$T'=\frac{400}{283.2}≒1.413$$

プロパンの臨界圧力は41.9atmですから、

$$σ=(\frac{41.9}{369.8})^{-\frac{1}{3}}(2.3551-0.087ω×0.152)≒4.840$$

$$Ω_{v}=\frac{1.16145}{1.413^{0.14874}}+\frac{0.52487}{{\rm{exp}}(0.7732×1.413)}+\frac{2.16178}{{\rm{exp}}(2.43787)}≒1.468$$

プロパンの分子量は44.1なので、

$$η=26.69\frac{\sqrt{44.1×400}}{4.840^{2}×1.468}≒103.1μP$$

実測値は107.3μPですので、近い値となっています。

対応状態原理による方法

気体粘度を臨界定数から算出することができます。

無極性気体の場合、

$$ηξ=4.610T_{r}^{0.618}-2.04{\rm{exp}}(-0.449T_{r})+1.94{\rm{exp}}(-4.058T_{r})+0.1$$

ξ:粘度パラメータ

極性流体の場合、

$$水素結合する気体:ηξ=(0.755T_{r}-0.055)z_{c}^{-\frac{5}{4}}$$

$$水素結合しない気体:ηξ=(1.90T_{r}-0.29)^{\frac{4}{5}}z_{c}^{-\frac{2}{3}}$$

$$ξ=\frac{T_{c}^{\frac{1}{6}}}{M^{\frac{1}{2}}P_{c}^{\frac{2}{3}}}$$

Tc:臨界温度[K]、Pc:臨界圧力[atm]、M:分子量[g/mol]

ただし、これらの式は水素、ヘリウム、ハロゲン、会合性気体には適用できません。

同様にプロパンの400Kにおける粘度を求めてみます。
プロパンの臨界温度は369.8Kですから、

$$T_{r}=\frac{400}{369.8}≒1.082$$

プロパンの臨界圧力は41.9atm、プロパンの分子量は44.1なので、

$$ξ=\frac{369.8^{\frac{1}{6}}}{44.1^{\frac{1}{2}}41.9^{\frac{2}{3}}}≒0.0334$$

$$ηξ=4.610×1.082^{0.618}-2.04{\rm{exp}}(-0.449×1.082)\\
+1.94{\rm{exp}}(-4.058×1.082)+0.1≒3.708$$

$$η=3.708/0.0334≒111.0μP$$

実測値は107.3μPですので、この推算式も近い値となっています。

Aspen Plusでの推算(DIPPR式)

Aspen PlusではDIPPR式が粘度推算式のデフォルトとして設定されています。
DIPPR式は計算条件によって何種類も式の形があるのですが、気体粘度の式は

$$η=\frac{C_{1}T^{C_{2}}}{1+C_{3}/T+C_{4}/T^{2}}$$

C1~4:物質固有の定数

上式となります。
C1~4は物質固有の定数であり、シミュレータ内に内蔵されています。

同様に、プロパンの400Kにおける粘度を求めると、
108.6μPとなりました。

実測値は107.3μPですから、かなり実測値に近いですね。

液体粘度の推算方法

標準沸点以下での推算法(Thomas式)

元素、原子群ごとに割り当てられた粘度定数を足し合わせることで標準沸点以下の粘度を推算できます。

$${\rm{log}}(8.569\frac{η_{L}}{ρ_{L}^{0.5}})=θ(1/T_{r}-1)$$

ηL:液体粘度[cp]、ρL:密度[g/cm3]、Tr:対臨界温度、θ:粘度定数

 粘度定数θ
C-0.462
H0.249
O0.054
Cl0.340
Br0.326
I0.335
S0.043
C6H5(フェニル基)0.385
CO0.105
CN0.381
"設計者のための物性定数推算法"より引用

粘度定数θは上表の値を使用します。
ただし、この推算法はアルコール、酸、アルデヒド、ナフテン、ヘテロ環、ハロゲンを2つ以上含む化合物には適用できません。

例として、クロロベンゼンの70℃における液体粘度を求めてみます。
クロロベンゼンの臨界温度は632.4Kですから、

$$T_{r}=\frac{343.15}{632.4}≒0.543$$

クロロベンゼン(C6H5-Cl)の粘度定数θは表から、

$$θ=0.385+0.340=0.725$$

クロロベンゼンの70℃における密度1.053kg/m3を使用し、

$${\rm{log}}(8.569\frac{η_{L}}{1.053^{0.5}})=0.725×(1/0.543-1)≒0.611$$

$$η_{L}=10^{0.611}\frac{1.053^{0.5}}{8.569}≒0.489cp$$

実測値は0.458cpですので、近い値となっています。

高温での推算法

対臨界温度Trが0.76~0.98の温度範囲では、対応状態原理を利用して飽和状態の液体粘度を算出する式が提案されています。

$$η_{L}ξ=(η_{L}ξ)^{(0)}+ω(η_{L}ξ)^{(1)}$$

$$(η_{L}ξ)^{(0)}=0.015174-0.02135T_{r}+0.0075T_{r}^{2}$$

$$(η_{L}ξ)^{(1)}=0.042552-0.07674T_{r}+0.0340T_{r}^{2}$$

$$ξ=\frac{T_{c}^{\frac{1}{6}}}{M^{\frac{1}{2}}P_{c}^{\frac{2}{3}}}$$

ηL:液体粘度[cp]、Tr:対臨界温度、ω:偏心因子

例として、クロロベンゼンの300℃における液体粘度を求めてみます。
クロロベンゼンの臨界温度は632.4Kですから、

$$T_{r}=\frac{300+273.15}{632.4}≒0.906$$

クロロベンゼンの臨界圧力は44.6atm、分子量は112.6ですから、

$$ξ=\frac{632.4^{\frac{1}{6}}}{112.6^{\frac{1}{2}}44.6^{\frac{2}{3}}}≒0.0220$$

$$(η_{L}ξ)^{(0)}=0.015174-0.02135×0.906+0.0075×0.906^{2}\\
=0.00198$$

$$(η_{L}ξ)^{(1)}=0.042552-0.07674×0.906+0.0340×0.906^{2}\\
=0.000929$$

クロロベンゼンの偏心因子0.249を使用し、

$$η_{L}ξ=0.00198+0.249×0.000929≒0.00222$$

$$η_{L}=0.00222/0.0220=0.100cp$$

実測値は0.116cpですので、近い値となっていますね。

Aspen Plusでの推算(DIPPR式)

液体粘度の推算式のデフォルトもDIPPR式です。
液体粘度の式は、

$${\rm{ln}}η=C_{1}+C_{2}/T+C_{3}{\rm{ln}}T+C_{4}T^{C_{5}}$$

C1~5:物質固有の定数

上式となります。
C1~5は物質固有の定数であり、シミュレータ内に内蔵されています。

例として、クロロベンゼンの70℃における粘度を求めると、
0.475cpとなりました。

実測値は0.458cpですから、良い精度ですね。