概要
熱放射エネルギーを測定し温度を求める温度計を放射温度計といいます。
非接触の温度計で簡便に測定できるのがメリットですが、高精度な測定は難しく大まかな温度を知るのによく使用されます。
本記事では放射温度計の特徴を解説します。
原理
放射温度計は放射伝熱に関するいくつかの法則を利用しています。
プランクの法則
黒体から放射されるエネルギーは波長λにより変化します。この関係を表わしたものをプランクの法則といいます。
$$E_{bλ}=\frac{C_{1}}{λ^{5}[{\rm{exp}}(\frac{C_{2}}{λT})-1]}・・・(1)$$
$$C_{1}=2πh{c_{o}}^{2}・・・(2)$$
$$C_{2}=hc_{o}/k・・・(3)$$
Ebλ:波長λにおける放射エネルギー[W/m2]
C1:第一放射定数[W・μm4/m2]、C2:第二放射定数[W・μm4/m2]
h:プランク定数=6.6256×10-34 [J・s]、k:ボルツマン定数=1.3805×10-23 [J/K]
co:真空中の光速=2.998×108 [m/s]
単色放射温度計ではこのプランクの法則を利用し、特定波長の温度を測定します。
ステファン・ボルツマンの法則
プランクの式である(1)式を全波長にわたって積分するとステファン・ボルツマンの(4)式が得られます。
$$E_{b}=σT^{4}・・・(4)$$
Eb:全放射(輻射)エネルギー[W/m2]、T:絶対温度[K]
σ:ステファン・ボルツマン定数[W/(m2K4)]
全放射温度計ではステファン・ボルツマンの法則が基礎式となっています。
ステファン・ボルツマンの法則については以下の記事で解説しています。
【ステファン・ボルツマンの法則】について解説:輻射伝熱計算の基礎式
ある絶対温度Tの黒体から放射されるエネルギーEbが温度Tの4乗に比例することを表わした法則をステファン・ボルツマンの法則といいます。輻射伝熱計算において最も基本的な法則の1つです。全放射エネルギーは温度の4乗に比例することから、温度依存性が極端に大きいです。
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放射温度計の特徴
- 原理的に測定温度の上限がなく、高温測定に適する。
- 非接触測定であるため、移動物体や回転体、遠距離にある物体などの測定が可能。
- 被測定物の温度に影響を与えない。
- 原理的に応答速度が速い。
- 物体の放射率により測定精度が左右される。
- 測定対象の近くに高温物体があると、その物体の熱放射エネルギーが測定対象から反射されるため、大きな誤差を生じる。
- 放射温度計と測定対象の間に物質(透明に見える気体でも)があると、誤差を生じることがある。
放射温度計の種類
放射温度計の種類や原理について以下の表にまとめました。
放射温度計 | 検出素子 | 原理 |
全放射温度計 | サーモパイル 焦電素子 | 放射エネルギーをほぼ全波長にわたって熱に変換し、素子の温度上昇により測定する。 |
単色放射温度計 部分放射温度計 | Si、Ge、InGaAs PbS、PbSe | 放射エネルギーのうち、狭い波長帯の可視光または近赤外線を受けて電気信号に変換する。 |
二色放射温度計 | Si、Ge、InGaAs | 二つの波長の放射エネルギー強度の比を測定する。 |
走査放射温度計 | Si、InGaAs、PbS PbSe、InSb、HgCdTe | 一次元または二次元的に測定対象を走査して広い範囲の温度を測定する。 |
光高温計 | 肉眼 | 物体からの光の強さと電球フィラメントの光の強さを肉眼で比較する。 |
"エネルギー管理士試験講座 熱分野Ⅳ"より引用
各放射温度計の特徴を以下に示します。
全放射温度計
全放射温度計は放射エネルギーを熱に変換して、素子の温度上昇として検出する温度計です。
かつては中高温用の温度計として使用されたこともありましたが、現在ではその役割は単色放射温度計または部分放射温度計に移り、全放射温度計は低温用に使用されるようになりました。
測定波長は1~40μm程度で、主に赤外線を熱に変換します。ただし光路上にCO2や水蒸気が存在すると、放射エネルギーがこれらの物質に吸収されるため誤差を生じます。
そのため、CO2や水蒸気の影響が少ない8~13μmを測定波長に選ぶことが多いです。
また、応答時間は最大1秒で、単色放射温度計と比較して放射率の影響が大きいです。
単色放射温度計
単色放射温度計は光学フィルタで実用上単波長とみなせるように測定波長帯を狭くし、Si太陽電池等の検出素子で電気信号として検出する温度計です。
測定波長は素子の種類に依り、Siで0.5~1.2μm、Geで0.8~1.8μm、InGaAaで0.7~1.7μm程度です。
測定温度は中高温の600~1,600℃、測定精度は1~2%、応答時間は0.03秒程度で早いです。
二色放射温度計
二色放射温度計は放射率の影響を少なくするために、二つの波長における分光放射輝度を測定し、その比から温度を測定する温度計です。
二つの波長における放射率の比が一定であれば、単色放射輝度の比が測定温度のみに依存するため、理論上は放射率によらず温度を測定することができます。
ただし実際の放射率は物体の種類や形状、波長、温度によって変化するため、放射率の比は一定にならず多少の影響は残ります。
この場合、放射率比を基準温度で校正することで放射率の影響を軽減することができます。
またその他の特徴として、視野欠けや灰色減光に強いことが挙げられます。
- 視野欠け:視野が所定の大きさより小さくなると大きな誤差を生じる。
- 灰色減光:灰色の煙やガラスを通して測定すると、光の散乱や吸収の影響で誤差を生じる。
測定可能な条件は素子の分光感度によって決まり、例えばSiで700~1,500℃、0.85/1.0μm、精度1~2%、応答時間は約1秒です。
走査放射温度計
走査放射温度計は物体表面を線状または面状に走査して温度分布を測定する温度計です。
特に面状走査でカラーの熱画像を表示するものを、一般には赤外線カメラと呼んでいます。
工業的には高温で広い範囲の温度分布を確認するのに有効で、セメントキルン壁、高炉壁、熱風炉壁等の炉の内壁の異常監視等に使用されています。
光高温計
光高温計は標準電球を使用して物体の輝度を目視で測定する温度計です。
測定者は電球のフィラメント越しに測定対象を観察します。測定対象の放射輝度とフィラメントの輝度が等しくなるようにフィラメントに流す電流値を調整することで、このときのすべり抵抗から温度を知ることができます。
測定可能な温度は700~3,000℃程度で、測定波長は赤色ガラスと人間の目の比視感度から0.65μm程度とされています。
光高温計は手動の携帯用放射温度計として比較的安価で簡便なため現場で使用されることがありますが、自動測定ができないため最近はあまり使用されなくなっています。
まとめ
放射温度計について解説しました。
非接触の温度計という大きなメリットがありますが、測定原理を理解して補正しないと温度のずれが大きくなります。