概要
撹拌槽は化学プラントの中で最も重要な装置の1つです。 撹拌槽の用途は様々ですが、特に重要なのが反応器としての用途です。一般に槽型反応器と呼ばれる形式で、槽内の液体を撹拌翼で混合することで濃度と温度が均一な反応場を作り出しています。
しかし実際に撹拌槽の設計や運転に携わってみると、濃度や温度を均一にすることは容易ではないことがわかります。
この記事では撹拌槽の温度を均一にする、という点に絞り撹拌槽の伝熱について解説していきます。
反応槽の伝熱の重要性
反応においては反応槽の温度管理が非常に重要になります。例えば発熱反応であれば、反応が進行するにつれて熱が発生し反応槽内の温度が上昇します。
もし反応槽の温度管理をしていないと、どんどん温度が上昇し、そのうちに反応液の沸点に達してしまします。
液体が気体へと変化すると約1000倍の体積増加となりますから、槽内圧力が急上昇し最悪の場合は反応槽の破裂や爆発に至ります。
したがって、通常は反応槽温度が一定に保てるように除熱する必要があります。
しかしながら反応槽の除熱能力は装置形状や運転条件によって様々な制約を受けます。
その代表例として、反応槽のスケールアップ時の伝熱性能について考えてみます。 上図に示すような平底の撹拌槽を10倍にスケールアップするとします。
槽内の液は底面と側面のジャケットで熱交換させます。
簡単のために、スケールアップ前の槽径、液高さを1とします。
相似形状を保ったままスケールアップすると、スケールアップ後の槽径、液高さは10となります。
スケールアップ前後のジャケット伝熱面積Aと液体積Vを計算すると下の表になります。
撹拌槽において伝熱面積が足りているかどうかの指標として、単位液量当たりの伝熱面積A/Vをよく使用します。
スケールアップ前後でA/Vを比較すると、スケールアップ前はA/Vが5であるのに対して、スケールアップ後は0.5しかありません。
つまり、単位液量当たりに使用できる伝熱面積がスケールアップ後は小さくなることを意味しています。
もちろん撹拌槽のサイズや液の物性、スケールアップ倍率によってA/Vの値は変化しますが、スケールアップ後のA/Vが小さくなるという傾向はどんな撹拌槽でも変わりません。
したがって、何も考えずにスケールアップすると撹拌槽の伝熱能力が不足し、所定の温度で運転できない可能性が高いです。
そこで通常は伝熱能力を補うために、何かしらの工夫をする必要があります。
しかし具体的にどのような工夫をすべきかについての知見は非常に少ないです。
この記事では撹拌槽の伝熱能力についての考え方や計算方法、どのようにすれば伝熱性能を改善させることができるのか、について解説しています。
以下、内容について目次を表示します。
・数式のパラメータと単位まとめ
・撹拌槽の伝熱能力について
・総括伝熱係数Uの改善
・撹拌槽内の境膜抵抗
・回転数の増加
・撹拌翼の変更
・ジャケット側の境膜抵抗
・伝熱媒体の流量増加
・ジャケット構造の変更
・撹拌槽壁の熱伝導抵抗
・ジャケット部の材質変更
・内部ジャケットの板厚減少
・伝熱面積Aの改善
・伝熱コイルの設置
・螺旋コイル
・縦コイル
・外部循環熱交換器の設置
・循環ポンプを必要とする場合
・循環ポンプを必要としない場合
・温度差ΔTの改善
・伝熱媒体の変更
・槽内運転温度の変更
・まとめ
この記事の本文は以下の参考書や論文の情報を参考にしています。
参考書
・熱交換器ハンドブック編集委員会, "熱交換器ハンドブック" (1965)
・JAMES Y. OLDSHUE, "FLUID MIXING TECHNOLOGY" (1983)
・橋本健治, "工業反応装置 選定・設計・実例"(1984)
・高松武一郎, "熱計算ハンドブック" (1988)
・化学工学会, "化学工学の進歩24 攪拌・混合"(1990)
・化学工学会, "実用 化学装置設計ガイド" (1991)
・山本一夫, "撹拌技術" (1992)
・尾花英朗, "熱交換器設計ハンドブック" (2000)
・化学工学会, "化学工学便覧 改訂7版" (2011)
・Don W.Green, "PERRY'S CHEMICAL ENGINEER'S HANDBOOK 9TH EDTION" (2018)
論文
・水科篤郎, "ニュートン流体の撹拌槽壁側伝熱係数に関する実験的研究"(1966)
・永田進治, "撹拌槽壁面よりの乱流熱伝達" (1971)
・永田進治, "撹拌槽伝熱コイルよりの乱流熱伝達" (1971)
・佐野雄二, "攪拌槽壁面伝熱係数の所要動力による相関" (1978)
・佐野雄二, "攪拌槽伝熱コイルの外面伝熱係数の攪拌所要動力による相関" (1981)
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