概要
物質の成分の数と実現しうる相の間に成り立つ制約を相律、もしくはギブスの相律といい、(1)式で表されます。
$$F=C-P+2・・・(1)$$
F:自由度、C:成分の数、P:相の数
(1)式の自由度Fは相の数を変えずに自由に変化できる示強変数の数を意味します。
化学工学系の連立方程式を解くうえでは、自由度の分だけ式の数より変数が多くなるため、変数に何らかの条件を加える必要があります。
言い換えれば、自由度の分だけ設計条件を自由に指定できるため、化学プラントの装置設計において相律は重要な概念です。
簡単な例
まず、簡単な例で自由度を考えてみましょう。
1成分系気液平衡
1成分系気液平衡では、
- 成分の数C=1
- 相の数P=2
なので、自由度F=1-2+2=1となります。
したがって、1つの示強変数を決定すれば他の示強変数は自動的に決定されます。
例えばAntoine式からわかるように、温度を決定すればその系の圧力(蒸気圧)がAntoine式から自動的に決定されます。
2成分系気液平衡
2成分系気液平衡では、
- 成分の数C=2
- 相の数P=2
なので、自由度F=2-2+2=2となります。
したがって、2つの示強変数を決定すれば他の示強変数は自動的に決定されます。
例えばTxy線図からわかるように、温度と1成分の液相組成を決定すれば、もう1成分の液相組成や気相組成も自動的に決定されます。
導出
簡単な例では自由度Fはわかりやすく求まりますが、多成分系や相の数が増えると複雑になります。
そこで一般化して相律を導出してみましょう。
式の数
例えば成分の数がC個、相の数がP個あるものとし、i番目の成分のJ相の化学ポテンシャルをμijと表します。(i=1,2,・・・C、j=1,2,・・・P)
相が平衡にあるとき、各相の化学ポテンシャルは等しくなるため、
$$成分1:{μ_{1}}^{1}={μ_{1}}^{2}=・・・={μ_{1}}^{j}=・・・={μ_{1}}^{P}$$
$$成分2:{μ_{2}}^{1}={μ_{2}}^{2}=・・・={μ_{2}}^{j}=・・・={μ_{2}}^{P}$$
:
$$成分i:{μ_{i}}^{1}={μ_{i}}^{2}=・・・={μ_{i}}^{j}=・・・={μ_{i}}^{P}$$
:
$$成分C:{μ_{C}}^{1}={μ_{C}}^{2}=・・・={μ_{C}}^{j}=・・・={μ_{C}}^{P}$$
各成分に対して上に示した式が成り立ちます。
これらの式は、横方向にP-1個の等式があり、縦方向にC個の等式があるため、全部でC(P-1)個の等式が存在することになります。
独立変数の数
続いて、独立変数の個数を求めます。
各成分のモル濃度xi1、xi2・・・xiPは独立ではなく、
$$相1:{x_{1}}^{1}+{x_{2}}^{1}+・・・+{x_{C}}^{1}=1$$
$$相2:{x_{1}}^{2}+{x_{2}}^{2}+・・・+{x_{C}}^{2}=1$$
:
$$相j:{x_{1}}^{j}+{x_{2}}^{j}+・・・+{x_{C}}^{j}=1$$
:
$$相P:{x_{1}}^{P}+{x_{2}}^{P}+・・・+{x_{C}}^{P}=1$$
以上の式が成り立ちます。
これらの式から成分1,2~Cのうち、1つの成分は自動的に決定されるため、独立変数はC-1個あることがわかります。
加えて相がP個ありますから、モル濃度xについての独立変数は全部でP(C-1)個あることになります。
また、温度、圧力についてもそれぞれ独立変数としてカウントされます。
まとめると、独立変数は
- 組成:P(C-1)個
- 温度:1個
- 圧力:1個
となり、全部でP(C-1)+2個あります。
自由度
最後に、自由度をもとめます。
独立変数の個数から、式の個数を差し引いた値が自由に変化できる変数の数、すなわち自由度になります。
$$F=P(C-1)+2-C(P-1)=C-P+2・・・(1)$$
(1)式となり、冒頭の式が導出できました。
おわりに
相律について解説しました。
式の数と変数の数が合わないときは、相律に立ち返って考えるのがよいでしょう。