論文紹介 撹拌槽

【論文紹介】混合時間の各種測定方法

2020年9月21日

今回は撹拌槽の混合時間に関する研究を紹介します。

論文概要

Mixing time in stirred vessels: A review of experimental techniques

Gabriel Ascanio, Chinese Journal of Chemical Engineering 23 (2015) 1065–1076

撹拌槽の評価指標として混合時間は非常に重要なパラメータです。

この論文では各種混合時間の測定方法と特徴について紹介しています。

混合時間の測定方法

混合時間の測定方法ですが、おおまかなカテゴリーに分けることができます。

まずは測定方法が流れに干渉するかどうかです。
当然、干渉しない方がその系の純粋な混合時間を得ることができます。

非干渉の測定方法
・比色定量法(カラリメトリー)
・電気抵抗トモグラフィー法(ERT)
・平面レーザー誘起蛍光法(pLIF)
・サーモグラフィー法

干渉する測定方法
・導電率測定法
・pH測定法

が挙げられます。

次に混合時間を直接的に測定するか、間接的に測定するかで分けられます。
直接測定する方がより正確な混合時間を算出できるとされています。

直接測定法
・比色定量法(カラリメトリー)
・平面レーザー誘起蛍光法(pLIF)
・導電率測定法
・pH測定法

間接測定法
・電気抵抗トモグラフィー法(ERT)
・サーモグラフィー法

が挙げられます。

それぞれの測定法の特徴について以下で述べていきます。

比色定量法(カラリメトリー)

混合時間の測定法の中では最も一般的なものです。
撹拌槽内に着色剤、もしくは脱色剤を投入し、色の変化を観察することで混合時間を測定します。

反応させて色の変化を起こす場合は、混合時間に比べて反応速度が十分に速い試薬を選ばなければなりません。

論文より引用

上図のように、良く混ざる領域から順番に色の変化が起こっていきます。

最終的に槽内が均一な色となった時点で混合完了となり、着色剤(脱色剤)の投入から混合完了までの間が混合時間となります。

混合が良い領域、悪い領域を判別することもでき、動画や写真を撮っておけば非常に説得力のあるデータとなります。

電気抵抗トモグラフィー法(ERT)

撹拌槽の外周に多数の電極を貼り付けて微弱な電流を印加し、電極電位の変位から導電率を測定します。

導電率が変化するトレーサーを投入することで導電率の経時変化を測定し、導電率が変化しなくなれば混合完了となります。

撹拌槽の壁に電極を貼り付けなければならないことを考えると、測定は水平断面が主となります。

論文より引用

上図は槽上部と槽下部の2断面の導電率を測定した例となります。

トレーサーは食塩水を使用し、各断面の導電率変化をグラフに載せています。
おおよそ19sで混合完了しています。

平面レーザー誘起蛍光法(pLIF)

論文より引用

上図に平面レーザー誘起蛍光法の装置図を示します。
レーザーシートと呼ばれる平面レーザーを撹拌槽に照射し、その照射された断面で励起した蛍光をCCDカメラ等で検出します。

トレーサーは化学反応するものとしないもの、両方あります。

論文より引用

上図は化学反応するトレーサーを用いて測定した例を示しています。

撹拌前のトレーサー濃度をカラーバーの1(赤色)となるよう標準化し、経時変化を測定しています。

撹拌すると2液が接触して反応しトレーサー濃度が減少していきます。
カラーバーの値が0(青色)になるとトレーサー濃度が0となり混合完了となっています。

上図では計測開始から25sほどで混合完了しています。

サーモグラフィー法

この方法では液晶をトレーサーとして使用します。

液晶には温度によって反射する色が変化するものがあり、その色変化を測定することで混合度合いを把握します。

論文より引用

上図にサーモグラフィー法で測定した例を示します。

槽上部から感温型液晶が封入されたカプセルを投入し、200ms後の槽内の混合状態を示しています。

2段のラシュトンタービン翼の真横に赤い領域が広がっており、混合が良い領域が赤色に変わっていっていることが読み取れます。

領域がすべて同じ色に変化し終われば混合完了となります。

導電率測定法

トモグラフィー法では電極を用いて導電率を測定していましたが、こちらではプローブを用いて導電率を測定します。

論文より引用

上図に導電率測定法の装置画像を示します。
上図のように壁面に沿わせる形で設置することが多いです。

バッフルがある場合はバッフルに沿わせてプローブを設置すると、それほどフローパターンを変えずに測定できます。
ルート

撹拌槽の大きさも重要で、小さすぎるとプローブの影響が大きくなります。
比較的大きめの撹拌槽での測定に向いています。

また、温度変化にも敏感で事前に測定する環境温度で校正する必要があります。

論文より引用

上図は導電率測定法で測定した例となります。
導電率から計算されるトレーサー濃度が一定値に落ち着けば混合完了となります。

pH測定法

測定手法は導電率測定法と同じで、撹拌槽内にプローブを設置して測定します。
こちらはpHの経時変化を測定します。

論文より引用

上図にpH測定法の例を示します。
この実験では2つのプローブを設置してpHの経時変化を測定しています。

pHが一定値に落ち着けば混合完了となります。

各測定法の比較

最後に私見ですが各測定法の特徴をまとめました。
加えてラボ・実機へ適用できるかどうかについても記載しました。

 測定
範囲
気液
混相
流れへ
の干渉
直接 or 間接
測定法
測定
難易度
比色定量法
(カラリメトリー)

槽全体

高ガス流量
は不可

非干渉

直接

簡便
校正なし
電気抵抗トモ
グラフィー法(ERT)

電極の
設置断面

測定可

非干渉

間接

校正あり
準備に時間
がかかる
平面レーザー
誘起蛍光法(pLIF)

レーザー
シート断面

高ガス流量
は不可

非干渉

直接

校正あり
サーモグラ
フィー法

槽全体

高ガス流量
は不可

非干渉

間接

校正なし
データ加工に
時間がかかる
導電率測定法
プローブ
設置位置

測定可

干渉

直接

簡便
校正あり
pH測定法
プローブ
設置位置

測定可

干渉

直接

簡便
校正あり
 槽材質測定
精度
コストラボ
適用
実機
適用
比色定量法
(カラリメトリー)

透明槽のみ

画像処理有

画像処理無

低コスト
×
電気抵抗トモ
グラフィー法(ERT)

不透明槽OK

正しく測定するには
慣れが必要

測定機材が高価
平面レーザー
誘起蛍光法(pLIF)

透明槽のみ

機材の性能によるが
かなり良い

測定機材が高価
×
サーモグラ
フィー法

透明槽のみ
×
導電率測定法
不透明槽OK

プローブ位置に依存
温度に依存

低コスト
pH測定法
不透明槽OK

プローブ位置に依存
温度に依存

低コスト
助手
実機に適用できるものは少ないですね・・・
実機は基本的に耐圧容器になるので鉄やステンレス等の金属で作られます。

上鏡にある覗き窓やマンホールから中を覗くことはできますが、液面しか見えませんし、定量的に測定できるほどはっきりとは見えません。

なので見た目で判断する測定法は実機では使えないと考えておいた方がよいでしょう!

私が実機で実際にやったことがあるのは導電率測定法です。

下鏡の空いているノズルにプローブを指して、上から食塩水を投入して導電率を測定していました。

精度はそんなに良くないかもしれませんが、3回くらい測定して平均値を出しておけば、実機レベルなら問題ないかと思います。
ルート

まとめ

様々な混合時間の測定法が載っている良い論文です。
混合時間に限った話ではありませんが、測定原理を知っておくとデータに対する理解が深まります。

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